U=mgh
「よし。いいぞ、サック」
普人くんがボクの背中にピッタリ引っ付く。普人くんの息遣いがボクの耳元でする。
なんだか恥ずかしいな。ヤバい、耳がアッツくなってきた。たぶんもう耳真っ赤だよ。普ちゃんに『ヘンなやつ』って思われてるかも。
「サック」
「はひっ!」
耳元で突然呼ばれ、ビクッと体が反応してしまう。肩に乗ってるピースが驚いてゲコッと鳴く。
「君ってイイ匂いするね。」
ぎぃやあゃあああぁ! おわった……完全にオワターですよ。
あー、短い友情だったなー。つーか今までバレなかったのが奇跡だよねー。いやもうクラス全員にバレてんじゃないのコレ。
最初っから無理あるなーとは思ってたんだよねー。
「サックはシャンプーとかこだわる派なの?」
「あ、う、うん。やっぱ男子も身だしなみは大事かなーなんて……」
「そーかー。サックは女子にモテるもんなー。モテる男はいろいろめんどくさいんだなー」
セーフでしたー。Yes! Yes!
「普ちゃん、そんなくっ付かなくてもダイジョブだよ。ちゃんとバリアん中入るから」
「ああ、ゴメン」
言って普人くんが1歩さがる。
「じゃあいくよ。ピースお願い」
右肩のピースが光り、ボクの周りにバリアを張る。もちろん普ちゃんもバリア内に入っている。
「ほんじゃ浮きまーす」
ピースに念じるとボクの体がフワリと宙に浮く。
そのままゆっくりと上昇すると地面に隠れていたバリアの下部分が現れ、バリアの球体は地面から離れて完全に空中に浮遊した状態になる。
浮いたバリアの中心にはボクが浮いている状態で、普人くんはバリアの下部分に立っている。
「おおー、すんごいね。ホントに宙に浮いてるよ」
「ボクも人を入れて浮いたのは初めてだよ。普人くんは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。足場のバリアもしっかりしてるし問題ないみたい。サック、重くないかい?」
普人くんがバリアを踏んでいる感触はピースを通じで伝わるが、重いという感じはない。
「いいや、重さは感じないみたいだね。重量制限みたいなのは無いと思うよ」
試しにさらに上昇させてみる。バリアの球体は風船のようにゆっくり上昇し、見下ろす地面が離れてゆく。
どんどん上がって行き、バリアの上部がぐにゅっと室内模擬戦場の天井に当たるのを確認し、上昇を止める。
下を覗くとかなりの高さだ。
「サック、ここでバリア割れたらシャレにならないと思わない?」
普人くんがバリアに這いつくばって下を見ながら言う。
「ダイジョブだよ。絶対割れないし、穴も開けないって」
この状況で悪ふざけするほどボクは頭わるくないぞ。
「いや、そういう意味じゃなくてさ。僕がもし敵だったらって話」
なるほど。確かにこの高さから落ちたら大怪我だ。ヘタしたら助からないだろう。
もし今の普人くんのように敵をバリア内に閉じ込めて浮かんでから穴を開ければ強力な攻撃方法になり得る。
「この世で最も身近で強力な力は重力だってよく言うしね。まあ実践してみないとなんとも言えないけど。
サック、今の半分くらいの高さまで降ろしてくれないか」
普ちゃんの指示通りにバリアの高度を下げる。
「リキッド、こっちに来て着地台になってくれ」
地上で見えないボクらを待っていたリキッドが、普人くんの声を頼りに真下に駆け寄ってくる。
ボクがバリアに小さな穴を開け、普人くんがそこから手を出してリキッドに指示する。
リキッドは指示通りにゆるキャラから形を変え、中が空洞の大き目の四角いマットになる。
「準備okだ。じゃあサック、穴開けて僕をリキッドの上に落としてみてくれ」
「うん、わかった。いくよ」
意を決し、バリア底面に大きな穴を開ける。
浮遊する僕とピースを残し、普人くんがしゃがんだ状態で重力に従い落下する。
「普人くん!」
四角いマットの形をしたリキッドの上に落ちると、分厚いエアーマットは普人くんを包み込んで落下の衝撃を吸収する。
分かっていても一瞬ヒヤリとさせられる。
ボクもあとを追ってゆっくりバリアを降下させ、着地する。
地上では無傷の普人くんとゆるキャラに戻ったリキッドが待っていた。
「ありがとう普人くん。おかげでいい攻撃方法が見つかったよ。あとは実戦で使えるよう明日練習してみるよ」
これなら模擬戦でもなんとか戦えそうだ。正直勝ち負けなんてどうでもいいけど進級はしたいし、なにより模擬戦で死んじゃったらシャレにならないしね。
まあ普人くんとまだ学園生活を楽しみたいってのが本音かな。
「何言ってんの、1人じゃ練習にならないだろ。僕も付き合うよ。こないだの試験じゃサックに心配かけたしね」
「ホント!?」
たのしい特訓はまだまだ続きそうだ。




