2人の小林
5/2 (火) 放課後 教室
5時限目の授業が終わった放課後の教室。いつも通り生徒たちのおしゃべりや帰り支度をする音でガヤガヤと騒がしいが、今日はいつもより輪をかけて騒がしい。
まあ明日からゴールデンウィークの5連休がはじまるのだから無理もない。
ボッチの僕にはあまり関係ないことだが。
不適合者判定試験に合格してから2週間あまり。未だに僕はクラスに馴染めずにいた。
発現したのだからこれで周りからお荷物扱いされることはなくなるだろうと思っていたが、思わぬ落とし穴があった。
僕が学園ランク上位者の節家先輩を倒したとのうわさが広まり、さらに先輩が僕にボッコボコにされて『死に寸』だったとの尾ひれも付けられ、以前にも増して敬遠されるようになった。
実際は僕のほうがもう少しで殺されるところだったのだが、そんな釈明を誰が聞いてくれるだろうか。
サックこと柵平君とは一緒に昼食を取ったり、お互いの家にたまに遊びにいったりと仲良くなったのだが、万屋さんとはなかなか話せなかった。
理由はもちろん宮ノ本がことあるごとに万屋さんを引き離そうとするからだ。体に触れると相手を攻撃するという魔物のためこちらも迂闊に近づけないし、もともと僕が自分から話しかけられるような性格ではないことも2人の進展を妨げた。
それでも万屋さんは隙を見つけては僕に話しかけてくれ、僕もそれに答えることで多少は友達らしい関係を維持していた。
帰り支度をし、鞄を持って騒がしい教室から出ようと席を立つと、
「おーい、普人」
声の主は呼刀だった。
小林 呼刀。赤毛の短髪に伸ばしたモミアゲ、耳にはピアスをした見るからにチャラそうな男だが、中身もまんまチャラい。
だがいわゆる不良という感じではなく、お洒落好きというタイプで性格はどちらかというと温厚、というか軽い。
同じクラスにいる2人の小林のもう1人で、座席も近いことから休み時間にちょくちょく僕に話しかけてきた。当たりさわりのない会話をする程度で特に仲がいいわけではないが、悪くもなかった。
「ん、どうした呼刀」
同じ苗字なので自然とお互いを名前で呼び合っていた。
「これからみんなでカラオケ行くんだけど一緒にいかないか」
彼は誰にでも積極的に声をかけるかなり社交的な性格で、クラスでも友達が多い。
見ると後ろにはクラスの男女5、6人が集まって楽しそうに雑談していた。
呼刀が僕に話しかけるまでは……
いつのまにか雑談は止み、ヒソヒソばなしに切り替わる。やれやれ、まあいつものことだ。
「いや、俺はいいや」
この空気のなかで付いていく勇気はさすがに無い。いってもお互いに苦痛な時間を過ごすことになるんだ、1人でさっさとウチに帰った方が身のためだ。
「いーじゃんか、たまには付き合えよ。せっかくの連休前なんだし」
こいつはときどき空気ってものを読めないことがある。社交的なんだがサックのように上手くない。だから俺に話しかけてくるんだろうけど。
それに『たまには』というが、俺が誘われたのはこれが初めてだ。
それでも友達が多いのはその明るい性格によるところが大きい。言い方は悪いが『愛すべきバカ』といったところだろう。まあ悪い奴じゃなさそうなんだが。
「悪いな、呼刀。今日は忙しいんでまた今度」
言って席を立つ。
「そうか。じゃあまた今度な」
ちょっと残念そうな顔を見せ、呼刀は軽く手をふる。俺も作り笑いで手を振りかえし、教室を出ていく。
廊下に出たところでチラッと振りかえって教室を覗くと、呼刀が友達の輪のなかに戻って談笑するのが見えた。
ほっとした反面、なんだか寂しい気持ちにもなる。
いやいや、どう考えてもこれが正解だろう。
呼刀と俺じゃ住む世界がちがうんだ。それに俺のせいで呼刀までボッチの仲間入りになったらシャレにもならんだろ。
まああいつならその心配はないか。
いまくらいの関係が丁度いいんだろう。




