友達→親友
「じゃあ僕はこのへんで。普ちゃんも疲れただろうから土日はしっかり休みなよ。柵平君もまたね」
養ちゃんが玄関外へと足を向ける。
「ありがとう養ちゃん。そうするよ」
「火田先輩どもでした」
僕と柵平君も養ちゃんへ別れの挨拶をする。
だが、養ちゃんは何かに気付き足を止める。
「あ、そうそう。節家君から養ちゃんに伝言があったんだ。えーと、なんだっけ。たしか『おちこぼれを取り消す』とかなんとか」
節家先輩と養ちゃんとは意外な繋がりだ。しかしあの人もけっこう律儀なタイプだな。いや、根に持たれたんだろうか。だとするともう会いたくないな。模擬戦とかしたら今度はホントに殺されるかも……
「あ、はい。わかりました……」
節家先輩の冷たい視線を思い出し、青ざめた顔の僕に養ちゃんが笑顔で手を振る。となりで柵平君は元気に手を振り返している。
養ちゃんが帰ったあと、僕らも外へ出て家路につく。柵平君の家の位置を聞いたら僕の家とそれほど離れていなかった。
そこで明日、彼が僕の家に遊びに来ることになった。帰ったら部屋を片付けないとな。
僕には彼に言っておきたいことがあった。恥ずかしい内容だったが、僕はもう1度死にかけたんだ。いまさら恥なんて構うもんか。
「柵平君。僕はさっき火田先輩に助けられたって言ったじゃん。でも僕は君にも助けられたんだよ。昨日君が僕に『ぜったい大丈夫』って言ってくれなかったら、僕はホント試験を諦めてたよ」
「いやいや、僕はキミに励ますことしかできなかった。火田先輩の助言とキミの実力の賜物だよ」
柵平君が謙遜とも本気ともとれる表情を僕に向ける。ホントに掴みどころのない人だ。でもそれが嫌じゃないと感じる。
「いや、そんなことはない。クラスメートで僕を励ましてくれたのは君と万屋さんだけだった。中でも君は入学当初からクラスのお荷物だった僕によく声を掛けてくれた。火田先輩と同じくらい感謝してるよ。
でも不思議に思ってたんだ。なんで君は僕なんかを気にかけてくれるのかって」
弱い立場の人や困っている人を助けることに満足感を得るタイプの人間なのだろうか、それともただ単に仲良くしとけば話のネタになると思ったのだろうか。中学時代、他人を遠ざけて生活してきた僕は彼や万屋さんをどこかそんな疑いの眼差しで見ていた。
だけど今日1日でその考えがいかにくだらないかが分かった。
「実を言うとね、ボクにもよくわかんないんだ。信じてもらえないかもしれないけどホント『なんとなく』なんだよ。はじめはなんとなくキミが気になって。クラスでただ1人発現しないキミを珍しいっていうか、見下してたのかもしれない。ホントごめん。
でもどっかボクに似てるなーって思ったんだ。でもキミは違ったよ。
毎日霧真者先生と居残りで特訓してたし、授業も毎日まじめに受けてた。ボクならとっくに諦めて残りの人生を好き勝手にやってたかも。万屋さんも多分キミのそんな姿が気になったんだと思う」
普段の柵平君からは想像できない深刻な顔をしていた。
「ボクはこんな性格だから誰とでも話すけど、正直いままで親友と呼べる人に会ったことが無いんだ。だからさっきのキミと先輩の関係を見てうらやましいと思った。
いや、嫉妬したってのが本心かもね、エヘヘ」
柵平君の意外な一面、いや、彼の本心を聞いてしまったような気がしてすまないと思う反面、嬉しくもあった。
「だからボクはこれからがんばって絶対キミの親友になってやるからね。覚悟しといてくれよ、普ちゃん」
普ちゃんって……養ちゃんへの対抗心か。な、なんだこのBL的展開は! まずい、これは俺の貞操の危険があぶない!
いや、よく考えろ。冷静に、冷静と情熱の間くらいで考えろ。今後俺が女の子にモテる可能性はほぼゼロに等しい。万屋さんも霧真者先生も『あなたはただのお友達ですから』フラグがビンビンだ。宮ノ本がツンデレの可能性も微粒子レベルで存在するが、所詮は微粒子のレベルでの話だ。つまり限りなくゼロってことだ。
そうなるとこの目の前の男の娘はラストチャンスかもしれない!
それにこの美形。その辺の女子ではまるで歯が立たないほどの美少女ではないか! もういっそ男の娘でもイイんじゃないか?
「お、おーし。覚悟しておくぞ。え、えーとなんて呼ぼうか……」
「あ、ボクの名前は友和だよ」
「えーと、柵平だからサク、いや、サックだな。よろしくな、サック」
サックにグッっと親指を突き立ててみせる。
「ボクの話聞いてた、普人クン?」
「もちろんだよ、サック。いつかイチャイチャペロペロする仲になるんだろ 」
サック、言わせんなよ恥ずかしい。
「いや、イチャペロは無しの方向で」
「……エッ?」




