万屋さんの告白
万屋さんも宮ノ本も少し驚いた表情を見せる。どうやら彼女に触れることが条件なのは間違いないようだ。
その証拠に2人とも黙り込んでしまった。宮ノ本は忌々しそうに僕を睨みつける。その気迫に気おされそうになるが、ここで怯んだらこいつは万屋さんを強引に連れて帰ってしまうだろう。
腹にグッと力をこめ、気合をいれる。落ちつけ、今大事なのは万屋さんの方だ。
万屋さんは言うべきか迷っているようだ。だが先程の怯えた様子とは違い、僕をじっと見つめている。僕が信頼できる人間か見定めているのだろう。
僕にできることは彼女から目を逸らさずにこちらが本気だということを示すことだけ。
いや、もうひとつある。
「万屋さん、ここで聞いたことは誰にも言いません。まあ、知っての通り僕はクラスにも友達といえる人間もいませんし、現にいまここに僕を心配して来てくれたのはあなたと柵平君だけです。あなたの秘密は必ず守ります」
言って、柵平君のほうに目をやる。
「もちろんボクもだれにも言わないよ。それになにか力になれることがあればボクと普人くんは協力するからさ、万屋さん」
いいぞ、柵平君。さすがにこういうフォローはうまいな。
これだけひた隠しにするには余程の秘密なのだろう。誰にも知られたくないことなら口外しないと宣言するだけでもこちらを信用してもらう材料にはなる。
「あなたたちがどうこうできる問題じゃないのよ。だからもうほっといてって言ってるのがわからないの。それにそんな口約束信用できるわけないでしょ」
宮ノ本が反論をまくし立てる。だが今はこいつの相手をする暇はない。
「万屋さん、信じてくれ」
万屋さんが意を決し、重い口をひらく。
「私に触ると怪我をします。それは私の魔物のせいで、ひどい場合は相手を殺してしまいます。黙っていてごめんなさい」
なるほど。どうやら魔物が万屋さんを守っていて、触った相手を敵とみなして誰彼かまわず攻撃するってことか。
「ちょっと理紀。こんな奴にそんなこと言わなくていいのよ。さあ、もういいでしょ」
宮ノ本がさっさと切り上げるよう促すが、
「両子ちゃんはちょっと黙ってて!」
万屋さんが初めて大きな声をあげる。僕や柵平君も驚いたが、一番驚いていたのは宮ノ本だった。
「ごめん、両子ちゃん。ただ、私は小林君とお友達になりたいの。あと柵平君とも。いいですか、2人とも」
「ああ、僕はもちろんokだよ。じゃあもうお互い敬語は無しでいこう。これからよろしく、万屋さん」
「ボクもよろこんで。よろしくね、万屋さん」
「ありがとう。2人ともよろしくね」
万屋さんに笑顔が戻ってくる。やはりこの人は笑顔がよく似合う。
和やかな3人の会話にメガネが割り込んでくる。
「ちょっとなにいってんのよあんたたち! 質問に答えたんだからもう理紀には近づかないって約束でしょ!」
「そりゃおめーが勝手に言ってただけだろメガネ。俺たちはもう万屋さんと友達だかんな。イチャイチャしまくるかんな」
「普人くん、友達でもイチャイチャはしないと思うけど」
さすが柵平君。細かいボケもちゃんと拾ってくれるその心遣いが憎いねー。
「ふざけんじゃないわよ、このネクラっ! 触ったら怪我するって言ってんのにそんなこと無理にきまってんでしょ、このバカっ!」
メガネのブチ切れが止まらない、止めたくない。
「両子ちゃん、ちょっと落ち着いて。ごめんね2人とも。ほんとはとってもイイ子なんだよ。だから両子ちゃんともお友達になってあげて」
「うん、もちろん。宮ノ本さんもこれからよろしく」
「友達になってやってもいーぞ、メガネ。そんな性格じゃ、どうせ友達いないんだろ」
柵平君はともかく、俺はこいつにいままで我慢してきたからな。友達ならこのくらいフレンドリーに言ってもなんら問題ない。
「あんたが言うんじゃないわよ、この引きこもりっ! だれが友達なんてなるもんですか!」
「おいおい、おれは未だに皆勤賞だぞ。根拠のない言いがかりは止めて欲しいもんですなー」
こーゆうおちょくり甲斐のあるやつと話すのもなかなかおもしろい。新発見だな。
顔を真っ赤にした宮ノ本が罵詈雑言を俺に浴びせるが、耳を塞いでやりすごす。ほかの2人は苦笑いで眺めるだけだ。
ひとしきり喚き散らした宮ノ本は疲れたのか、万屋さんの肩を抱き、部屋を出て行こうとする。
「もう行くわよ、理紀。あなたたち、このことはくれぐれも他言無用よ。分かってると思うけど、こんなことがウワサになったら迷惑するのはあたしたちですからね。
それとこの子に触ってあなたたちが怪我するのは勝手だけど、そのせいで理紀が傷つくってことだけは覚えときなさいよ」
「小林君、柵平君、ありがとう。またね」
万屋さんはすまなそうにあいさつする。
「うん、2人ともまたねー」
柵平君が手を振る。
「万屋さんわざわざありがとう。宮ノ本さんもなー」
僕も礼を言って送り出す。一応宮ノ本にも声をかける。僕もそこまで大人げなくはない。
笑顔で手を振る万屋さんの腕を宮ノ本が引っ張って出ていく。
おや? それにしてもメガネはなんで万屋さんに触っても大丈夫なんだろ?
悩む僕に柵平君が話しかけてくる。
「いやー、さすがは普人君だね。あの宮ノ本さんを言いくるめちゃうなんて。とてもボクにはできないよ」
「いやいや、あんなの言いくるめたうちに入らないよ。万屋さんが僕らを信じてくれたから話を聞けただけで」
正直こんなに人と言い争ったのは生まれてはじめてではなかろうか。まあ、言い争いというレベルのものでもないが、口下手の僕にとってはドキドキものだった。
「傍からみてたら裁判ゲームの主人公みたいでカッコよかったよ」
「そりゃまーなんとも」
スーツ姿でドヤ顔をする自分を想像するとなんだか気恥ずかしくなって自然と苦笑いを浮かべてしまう。
「頭に蛇さえ巻いてなきゃ完璧だったよ」
箱入先生の蛇は未だに僕の左瞼にしっかりと噛み付いていた。




