紳士淑女の一問一答
万屋さんに触れると起こる『何か』とはなんなのか。
その疑問だけがグルグルと僕の頭のなかを駆け巡っている。
「私が今日ここに来た目的は1つ」
静寂を破ってメガネ女が話し出す。その声は凛としていてよく通る。
「小林君。あなたにはこれ以上理紀に近づいて欲しくないの。それがお互いのためよ」
なんとも唐突なお願いだが、僕の予測が正しいことを肯定しているとも言えるだろう。
なによりこの女から伝わってくる真剣さが事の重大さを物語っている。
ただの冷血女かと思ったが、少々傲慢ながらも品のある物腰から育ちの良さと教養の高さが伺える。
さらに体に纏う魔力のオーラがここにいる4人の中でもっとも洗練された感じがある。柵平君や万屋さんはオーラの量は多く力強いが、その流れは不規則でゆらゆらと溢れ返っているように見える。
だがメガネ女のそれは必要最小限の量が常に安定して流れている感じで、ムダがほとんどない。おそらくかなり魔力の訓練を積んでいるのではないだろうか。
「柵平君、もちろんあなたも同様よ」
「いや、でも宮ノ本さん。なんで万屋さんと仲良くなるのがいけないのかな。彼女は普人君と仲良くなりたいんだと思うんだけど」
柵平君の話しぶりから、どうやらこのメガネは宮ノ本っていうらしい。それに彼の質問は的を得ている。しかも相手を怒らせることのない丁寧な問いかけはさすがだ。
「理由を知る必要はないわ。ただ理紀に近づくと危険だと理解してくれればいいのよ」
頑として譲らない宮ノ本に柵平君はお手上げのポーズをしてみせる。彼は誰とでもすぐに打ち解ける天賦の才を持っているが、どうも必要以上に関わらないよう立ち回る『事なかれ主義』な面もある。
そこが僕と気の合う理由かもしれないが、今はそれが裏目に出たようだ。
こうなったら自分で聞くしかない。こういうのは苦手なんだがなー。
「宮ノ本さん……であってますよね」
「ええ」
彼女が素直に頷く。よし、いいぞ。
「はじめまして。ぼくは同じクラスの小林 普人といいます」
「そんなことは知っています」
つれない返事だ。すこしイラついたかな。ではこうだ。
「知っていたとしてもここは初めて話す場ですから、一応お互い自己紹介するのがマナーではないでしょうか。もちろんこのまま無遠慮に話したいのなら構いませんけれど」
あくまで丁寧に挑発する。プライドは高いがまじめな性格だろう。こちらも品よく応じれば乗ってくるはずだ。
「まあいいでしょう。わたしは宮ノ本 両子。万屋 理紀とは旧知の間柄です」
よしよし、いいぞ。多少の上から目線には目を瞑るとして、結構素直なヤツだな。
柵平君も親指を立てて僕を応援する。
「宮ノ本さんは我々に万屋さんに近づくなと言いました。その理由は危険だからと。それは万屋さんにとって危険だからですか? それとも我々にとって危険なのですか?」
「あなたたちが危険なのよ。私は別にあなたたちが嫌いでも好きでもないの。でもあなたたちが危険な目に遭えば理紀が悲しむでしょ」
「それは我々に限ったことなんでしょうか? つまり他の人が万屋さんに近づいても危険なんですか?」
「そうよ。だれが近づいても危険なの。もういいでしょ。行こう理紀」
待て待て。まだ肝心なことを聞いてないぞ。
「ちょっと待った。最後に1つだけいいですか」
「ダメよ」
このクソメガネ!
「なら約束はできませんね。これからも万屋さんと僕らで仲良くやっていきます」
「ちょっと! 人の話聞いてなかったのあなた!」
宮ノ本が激怒して喰いついてくる。おーし、延長決定。
「宮ノ本さんの話は一方的すぎます。そんな曖昧な説明だけではこちらも納得がいかない。なにより万屋さん本人の意志が全く考慮されてない。
あと1つだけ、今度は万屋さん本人に聞きたいんです。これで終わります」
「なんですか、小林君」
僕の願いに万屋さんが応える。
「理紀、答えなくていいわよ」
宮ノ本を無視して質問する。
「万屋さん、あなたに触れると何が起こるんですか?」




