発現
ぐにゅっと僕の右手のひらから透明な液体が湧き上がり、ちょうど片手で掴めるくらいの球体を形作る。
よし、予想通りだ。
だが球体になった液体は再び変形を始める。
おおっと、これは予想外だ。
ぐにゅぐにゅと歪に伸び縮みし、奇妙なかたちとなった液体が完成する。僕の右手の上にはブサイクなゆるキャラが姿を現した。
若干面長の垂れ耳にω口で犬のような顔に小さな瞳、胴体はメタボ気味のぽっちゃりで、ペンギンのような腕とコッペパンのような足が付いている。
「きゅきゅう!」
僕の方を向いて現れたそれは右手をあげてヘンな鳴き声をあげた。だが、ふしぎとその言葉が理解できた。
『ようっ!』的なノリであいさつしている。
しばらく呆気にとられている僕を見て気を使ったのか、今度は軽く会釈する素振りをしながら鳴く。
「きゅうきゅきゅきゅうぅ」
よろしくお願いしますと言っているようだ。なんとも律儀というか空気を読むというか。
「あ、いえいえこちらこそ」
こちらもお辞儀して挨拶する。相手が自分の魔物といえど意志がある様だし、友好的関係を築いて損はない。
「霧真者先生ー、発現しましたよー」
僕が先生に手を振ると、魔物もいっしょに先生に手を振る。
「やったね、小林くん! でもまだ気を抜かないでね。試験はつづいてるから」
やはり発現しただけでは終わらせてくれないか。こいつの能力が有効であることをアピールしないと。
節家先輩の方に向き直ると先輩は既に距離をとり、不死ガラスたちが前に陣取る。
「おし、攻撃だ。魔物よ、まずはカラスたちを引っ掴まえろ」
ネバネバの体で相手に張り付き、クチバシも封じてしまえば攻撃手段がなくなるはず。
左手でカラスたちを指差し、魔物に命令する。
「きゅきゅ? きゅうきゅう」
しかし、ゆるキャラはこちらに振り向き(おれ? むりむり。)とジェスチャー付きで答える。
「おいおい、ムリってどうゆうことだよ」
問いただすと
「きゅきゅ、きゅう、きゅきゅっ」 (ちぎって、投げて、当てろ)
そう言い、球体にかたちを変える。なるほど、自分で発射する能力は無いようだ。
球体を左手に持ち替え、右手で球体から適量引きちぎる。ぐにゅんと簡単にちぎれ、ちぎったかけらの方も右手の中で球体に変形する。
「もうちょい硬めになれる?」
僕の問いに即座に反応し、右手の球体がゴムボールくらいの投げやすい硬さに変わる。
どうやらイメージした通りの硬さに変化可能らしい。こいつは便利だ。
試しに正面のカラスに向かって投げてみる。
ポイッと下手投げでゆっくり弧を描くように放る。
カラスは当たる寸前に飛び立ちあっさり避けられるかに見えたが、
「よし、そこで広がれっ」
命令するとすぐさまゴムボールが薄い膜状に変形し、バッと広がる。
粘着質の膜に絡め取られ、逃げようとしたカラスは地面に落ちる。あとは膜がカラスを包み込むように締め付け、完全に捕獲する。
思った通り、変形も即座に可能だ。
「いいぞ、小林くん。その調子」
霧真者先生の応援に親指を立てて応える。
あと2羽。勝てる予感。
だが、左のカラスはすぐに先輩のもとへと飛び立ち、右のカラスはこちらに向かって飛んでくる。
素早くボールをちぎって向かってくるカラスに狙いを定め、再び下手投げで投げつける。そのまま右へ移動しながら叫ぶ。
「広がれっ」
しかしボールが変形した瞬間、ゴアッとカラスが口から火を吐く。
火炎を間近で浴びた粘膜はジュッという音を立て、一瞬炎の勢いを相殺するがそのまま燃え、地面に落ちる。見た目どおり火には弱いか。
だがこれは予想の範囲内。ボールを投げると同時に移動したのはカラスのサイドを取るため。
目測どおり正面に炎を吐いているので横は隙だらけだ。すばやく左手にもった魔物の塊からボールをちぎり、カラスめがけて2投目を投げつける。
近距離で止まった的に当てるのだから広げることもない。当たる瞬間に硬さを変え、ベチャッという音とともに粘液の塊となった魔物がホバリングしながら炎を噴射しているカラスにヒットし、そのままアメーバのようにカラスを飲み込み、翼を、クチバシを押さえ込む。
粘液に絡め取られた獲物はそのまま地面に落下し、1羽め同様全身を完全に締め付けられて身動きできなくなる。
残るは1羽と召喚者のみ。今ので僕の魔物の弱点が炎だと先輩にはバレている。なんとかそれを逆手に取れないもんか。
「おーい、マモノォ。試しに僕の左手に思いっきりくっ付いてみてくれ」
「きゅきゅう」 (分かった)
粘液の塊からゆるキャラの顔だけ出し、答える。
ツルツルのゴムまりのようだった手触りがつきたての餅のようにグニャリと引力に引っ張られ、左手の指と手のひらにまとわりつく。
右手でその塊を掴み思いきり引っ張って左手から引き離そうとするが、強力な接着剤のごとく離れず、左手の皮ごと引っ張られる。さらに表面を硬質ゴムほどの弾力に調節し、指で掴みにくいことを確認する。
「よーし、この感覚、覚えといてくれよ、相棒」
「きゅきゅうっ」
いい返事だ。
残りの魔物は握りこぶし1個分ほど。それを2つに分け、先ほどより1まわり小さいボールにし、両手に1個づつ握る。
魔物で縛り上げた2羽を後に、左脚を庇いながら先輩と最後のカラスがいる方へと走り出す。




