最強の魔物
「ねえねえ、養ちゃん。一番強い怪獣ってなんだと思う?」
僕はRPGゲームをしながら、漫画を読んでいる養ちゃんに尋ねる。
「怪獣かー。怪獣っていったらやっぱ歯だよねー。肉食獣とか恐竜とか、サメとかの鋭い歯で噛まれたらすげー痛そうだし。あーでも噛み付く怪獣って大概でっかくて動きがおそいのが欠点だからなー。
できれば体はそこそこ、トカゲみたいなすばしっこそうなのがいいかな。いやいや、思い切って空中を泳げるやつとか最強じゃない?」
「空中泳げるとかそれってもう怪獣じゃなくない? でも空中泳げたらいいよねー。すんげー速くて空飛ぶサメみたいで。マジ逃げらんないよねー」
さすがは養ちゃん。空を泳ぐとか発想が頭イイ。
「普ちゃんはどんな怪獣が強いと思うの?」
「うん、僕はねー、スライムかな」
「あー、なるほど。スライムかー。確かに強いよね。ゲームじゃ弱いけど実際あんなのいたら倒せないもんなー」
「そうそう。ネバネバしてて、液体だから剣で切られても潰されても無敵じゃん? 燃やされるとヤバいかもしんないけど、ちょっとでも残ってればまた増えるんじゃない?」
「でもスライムって相手どうやって攻撃する? くっつくとネバネバで気持ち悪いけど、人間溶かしたりすんのかなー」
「すんごいネバネバになって鼻と口塞げば息できなくなって倒せるよ。ゴムみたくなったり、水みたいになったりできればすっげー強いんじゃない?」
「なるほど。確かにそりゃ強いね。でっかい怪獣とかも口ん中入って餅みたいに喉に詰まったらイチコロだね」
「おお、それいいね。さすが養ちゃん、頭イイ」
子供のころ、養ちゃんと話したたわいもない怪獣話を思い出していた。
昨日言っていた養ちゃんの言葉。あの言葉を聞かなかったら全く思い出さなかっただろう。
やっぱり養ちゃんは凄い。いつだって僕に的確なアドバイスをくれる。
柵平君も、万屋さんも、霧真者先生も、僕を応援してくれた。
たとえそれが形だけの慰めだったとしても、誰からもなにも言われず無能扱いされるだけ、無視されるだけの毎日だったら僕はこの試験をはなから諦め、とっくに死んでいただろう。
僕は……まだ生きていたい。この試験に合格して、みんなと一緒に楽しい学園生活を送りたい。
なんともしょぼい、夢とは言えない夢だけど、死なない理由には十分だ。
養ちゃんのくれた残りの2つのアドバイスを思い出す。
失敗することを考えるな。大丈夫。俺は先輩に勝てる。ほぼ発現してるんだ。あとはこの魔物を完全に呼び出して攻撃するだけ。
「いままでは手汗だと思って出るな出るなと念じてたんだ。今度はおもいっきり出してやるからな」
両手を見つめながらそうつぶやくと、手のひらの雫たちがピクンッとつららのように尖って見せた。
よし。これで確信が持てた。あとは養ちゃんの最後のアドバイスを実行するだけ。恥ずかしがるな、思いっきりカッコつけて、俺の中の力をすべてこの手に集中して出し切るんだ。
節家先輩が意を決した表情でこちらにゆっくりと歩いてくる。
僕も壁から離れ、左脚を引きずりながら歩き出す。左の瞼が腫れ、右目でしか見えないが視界ははっきりしていた。
1歩1歩歩くたびに左脚から激痛がするが、もうそんなことには構っていられない。僕の決意に応えるかのように手のひらの水滴がウズウズと動いているのが感じ取れる。
先輩が立ち止まる。後ろからトコトコ付いてきた不死ガラスたちも主に従い歩みをとめる。合わせて僕もその場に止まる。
2人の距離は3mほど。痛みと緊張で荒くなった呼吸をゆっくり深呼吸して整える。
先輩が重い口を開く。
「悪いが後輩、終わりにしないといけないそうだ。すまんな」
伏し目がちに、本当にすまなそうに話す。
「さっきの言葉は取り消す。お前は落ちこぼれじゃない。最後まであがくも、諦めて身を任せるも自由だ。なにか言っておくことはないか?」
今度は瞳をまっすぐ僕の方に向け、はっきりとした口調で尋ねる。
3人の先生たちもじっとこちらを見守っている。
軽く咳払いを2回し、こちらも先輩を正面から見返しながら話す。
「2つ、あります」
みんなの視線が僕に集中する。
「1つは、まだ試験は終わってないんで取り消さないでください。後で改めて取り消してもらいます。もうひとつは……」
フーと息を吐き出し、軽く開いた右手を目の前に掲げる。
そのままゆっくりと大きく息を吸込み、全力で叫ぶ。
「でてこいっ! オレのマモノっ!!」




