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欲望=魔物  作者: クニクニ
1章
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”もわっ”てなに?

 不死身とか、そんなのありかよ。

 つまりこいつらは致命傷で消えることはない。そうなると有効な手段は首根っこ掴んだまま捕まえておくぐらいだ。

 地面に叩きつけたことを悔やんだが後の祭りだ。


 状況は悪化するばかりだ。頼みの綱の上着はもう燃えてしまったし、さっきよりカラスたちとの距離も狭(せば)まっている。背後にすぐ壁がある位置まで追いつめられていた。

 どうするか悩む暇もなく、カラスたちが攻撃を仕掛けてくる。


 左右の2羽が地面に踏ん張った体勢で炎を吐き出す。その炎は今までのものより倍近い大きさだった。

 これまでは飛んでいる状態でしか火炎放射をしていなかったが、地面からのそれは踏ん張れる分、数段強力なものだった。

 両脇からの炎で目の前が一瞬にして火の海になる。


 両腕でとっさに顔をガードするものの、ワイシャツの袖(そで)が燃え、腕に強烈な熱さを覚える。やけどは確実に負っているだろう。

 このままではまずいと火力が一番弱い真ん中を突っ切る。だが、炎から逃れた先には節家(ふしいえ)先輩が待ち伏せていた。


 バチーンッ


と突っ込んでいった顔面に右ストレートをまともに喰らう。今度のは踏みとどまれない。

 崩れるように前のめりに倒れ込む。一瞬目の前に星がとぶ。


 やばい。やばい。立たないと、はやく。


 軽く脳震盪(のうしんとう)を起こし混濁する意識の中でそれだけを必死に念じ、体を起こす。立ち上がろうと震える左ひざを立てたとき、目の前に大きく口を開けたカラスが立っているのが見えた。


 ゴァアアアッ


 という音とともに間近でカラスの炎を浴びる。急いで立ち上がろうとしたが避けきれず、俺の左脚が燃え上がる。


「うわぁあああっ!」


 地面を転げながらズボンの炎を消し、火のついた左靴を脱ぎ捨てる。

 左脚をひきずりながら反対側の壁までなんとか逃げる。全身に冷や汗をかき、ハアハア言いながら壁に寄りかかって左脚のやけどを確認するが、先輩に殴られた左目が腫れ上がり、よく見えない。

 傷口に顔を近づけると肉の焼けた臭いがし、ひざ下は焼けただれ、溶けるように肉が剥がれ落ちた部分からはスネの骨が見える。全体は赤く腫れ上がって、時間が経てば経つほど激痛が生じ、もうまともに歩けない。


 両腕のやけども赤く腫れ、ズキズキと痛む。万策(ばんさく)尽きた状態だが、不思議と恐怖心は無かった。諦めの境地というやつだろうか。

 右足の靴と靴下も脱いではだしになり、立ったまま壁に寄りかかって手汗でヌルつく両手を見つめる。


「あーあ、ここからいきなり俺の魔物(まもの)出てこねーかなー。無理だよなー。でもなんとかなんないかなー」


 反対側の壁の方では節家先輩と梅田先生がなにやら話している。はやくヤっちまえーとでもいわれてるのかな?

 霧真者(きりまじゃ)先生は心配そうにこちらを見ている。箱入(はこいり)先生は椅子に座ったままじっと成り行きを見守り続けている。

 4人とは対照的に、3羽のカラスは呑気(のんき)に地面を突(つつ)いている。こうしてみるとホント普通のカラスだな。


「あら?」


 今、僕の視界には模擬戦場内にいる僕以外の生物がすべて入っている。

 3羽のカラスと4人の人間。この2つのグループには大きな違いが見て取れる。

 鳥類と哺乳(ほにゅう)類とかそーいうことではない。


 人間の方は全員”もわっ”としている。正確に言うと”もわっと光っている”のだ。

 試験が始まる前、この建物に入ってきたときも同じような”もわっ”がうっすらと見えた。

 ぼくはそれを気合のオーラや強い人間が放つやる気や気迫のようなものだと思っていた。”もわっ”が見えるか見えないかくらいの弱いものだったのもそう思わせる要因だった。

 しかし、今4人から見える”もわっ”はずいぶんはっきりと見えている。つまり僕が見ていた人から出ている光やオーラ、汗の蒸気だと思っていたものは全然別のものではないだろうか。


 たとえば『魔力(まりょく)』とか。


 もし魔力だとすると説明がつかないのがあのカラスたちだ。

 カラスは魔物だから魔力の塊。つまり僕の見えているものが魔力ならカラスからも”もわっ”が見えないとおかしい。むしろ発現者以上に見えるはずだ。

 実際、石場(いしば)のファントムからは炎のように黒く立ち上(のぼ)るようなオーラがあふれ出ていた。


 カラスたちを凝視すると体の周囲が微かにゆらいでいるようにもみえる。あれが魔力だろうか。

 魔力は発現者以外の人間にもわずかに存在する。もちろん人間以外の動物も同様だ。

 とすると、あのカラスたちは見た目だけでなく魔力オーラも野生のカラスそっくりなのか、またはそう見えるように節家先輩が魔力を抑(おさ)える訓練をしたのかもしれない。


 石場が倉庫から出てきたカラスを見たとき、野生のカラスと勘違いしていた。もしカラスから魔力があふれ出ていたらすぐに魔物だと気付いたはずだ。


 やはり僕が見ていた”もわっ”は魔力ということか。

 となると魔力を感じることのできる僕はすでに『発現者(はつげんしゃ)』ということになる。いや、正確にいうと『発現者になりかけている』だろうか。

 今はだいぶはっきりと”もわっ”が見えるが、試験前は今ほどはっきりとは見えなかったはずだ。そもそも”もわっ”はいつから見えていただろうか。


 昼休みに会った万屋(よろずや)さん。眩しく輝いていたのはその魅力だけではなく、魔力のオーラも見えていたからか。

 昨日会った養(よう)ちゃん。昔からあったカリスマ性からオーラを感じたと思っていたが、あれは強い魔力だったに違いない。

 その前に会った柵平(さくだいら)君。夕日のせいだと思っていたが、あれも魔力が見えていたのか。


 微弱だが、昨日からすでに魔力が感じ取れていたことになる。しかし、昨日も今日も魔物が発現した記憶はない。

 昨日はいつものように霧真者先生と発現の儀式をしたが何も現れなかった。今日は儀式もせず、こうして試験を受けているだけ。何かが出現した記憶はない。


 いや……ある。


 昨日も今日も、この一週間出るなと願っても出続けていたものが。

 ベトついた両手を見つめる。


「もしかして……これか……?」

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