マーキング
「なんとか耐え凌いだな。野郎を逃がしたのは癪だが、被害が出なかったのは幸いだ」
「ええ、奇跡的に助かりましたよ。俺はもうダメかと思いました。先輩、怪我はないですか?」
節家先輩の憑依能力ははじめて見たが、やっぱりすごい。あれだけ体を突き刺されたのにもう傷1つ無いし、あの爆発の威力は脅威だ。
俺との模擬戦では召喚能力だけだったのだから、相当手加減していたのだろう。
「ああ、大丈夫だ。それよりお前の憑依能力、はじめのヤツはかなり強力だったぞ。あの光に当たったらしばらく体が動けなくなったし、一瞬魔物の能力が使えなくなった。
どうやら魔力を対消滅することで索敵する能力らしいな」
へー、自分の能力ながら原理ははじめて知った。だからあのときみんなの動きが一瞬止まったのか。
「あとあの赤いビームは本当はどんな能力なんだ?」
「ああ、あれは当たった相手をマーキングする能力です。今でもヤツの位置がわかりますよ。向こうへ1キロ行ったあたりにいますね。ほら」
そう言って俺は手のひらの上に魔力で作り上げた半透明の座標パネルを出し、中心点から西の方向へ赤く光る点を指差す。
だが、その光はすぐに消えてしまった。
「なに、本当か?
……あれ、消えちまったぞ」
「あー、たぶん魔物を帰還させたんでしょう。マーキングしたのは魔物の一部なんで、帰還されるとレーダーに映らないんですよ。
また召喚されればパネルに映るはずです」
「これってどのくらい持つんだ?」
「俺がマーキングを消さない限りはずっと追跡できますよ」
とたんに先輩の目の色が変わる。
「頼みがある、呼刀。あいつがまた現れたら俺に教えてくれないか? 俺はどうしてもあいつと決着を着けたい」
つまり復讐を手伝えってことですか。
「いや、でも先生に知らせた方がいいんじゃ……万が一被害が出るとも限りませんし」
「……じゃあ、もし奴がまた学園に現れたら俺にも個人的に教えてくれ。もちろんあとで俺が無理やりお前に指示したと言ってくれて構わない」
少し考える。
確かに先輩に命を助けてもらったし、わざわざ俺を追って来てくれた恩もある。それにクラスメイトを皆殺しにされたんだ、復讐したいって気持ちはよくわかる。
先生たちに報告はするんだし、そもそもあいつがまた学園に来るとは限らない。
さっきの戦いぶりでは俺がいなけりゃ節家先輩が奴を倒していたかもしれないしなー。
俺はここから抜け出そうとまでしたんだ。今更この程度の隠し事で学園からの罰を怖がる必要もないだろう。
「わかりました。先輩の番号おしえてください」
携帯番号をスマホに入れ、知らせることを約束した。
「しかしなんで奴が来た途端、俺にも憑依させたんですか? 召喚じゃ奴を倒せない理由でもあるんですか?」
「あの黒い霧みたいな魔物は他人に憑依して相手の魔力を吸い尽くす能力がある。だから自分の魔物を憑依させておけば、あいつに憑依されることはなくなるんだよ」
なるほど、そいつはたしかに厄介だな。つまり実質こちらは憑依状態でしか戦えないってことか。
「先輩が白髪なのは、奴に魔力を吸い取られたせいですか?」
「ああ。吸い尽くされる途中でなんとか憑依を解けたんでこの程度で済んだんだ」
「その……聖先輩も……ですか?」
訊く必要のないことを訊いてしまった。
「……ああ、クラス全員が吸い取られて死んだ。
あの黒い霧みたいな魔物、以前はあんな大量に召喚してなかったはずだ。おそらく魔力を吸うことで増えるのかもしれない」
魔力を吸い取る目的はあの魔物をさらに増やして強くするためなのか。だったらまた奴は学園の生徒を狙う可能性が高いってことだ。
「でもあの腕の傷は重症でした。病院で治療でも受ければすぐ居場所がバレるんじゃないですか?」
「確かに。だがまあ傷を治せる発現者もいるからな。金さえ払えば隠れて治療するのも可能だ。あいつにそんなつてと金があればだが」
俺たちが話していると、林道を走って来た車が野外実習場に到着した。
学園のライトバンからニヤついた梅田先生と能面のような無表情の霧真者先生が降りてきた。
「おいおい、ガキンチョども。このくそ暑いなか何やってたんだ?」
ズタボロになった先輩の服装を見て笑いながら言う梅田先生とは対照的に、霧真者先生は真っ直ぐ俺の方へと歩いてくる。その姿がゾッとするほど恐ろしく、俺の膝は笑い出し、自然と2、3歩後ずさる。
「せ、せんせ……すいませ……」
ノーモーションの右拳が俺の顔面中央にめり込み、吹っ飛んでいた。左の鼻の穴から熱い血潮が流れ出す。
倒れた俺の上に馬乗りになり、霧真者先生は胸倉をつかむ。
「呼刀、てめーなに勝手に逃げてんだ? あぁ?!」
あんなにやさしかった霧真者先生が、チンピラ丸出しでブチ切れている姿に、俺の体の震えが止まらない。
「し、しーましぇん……もうしません……もう、うっ、ううぅ……」
勝手に目から水が溢れ出てきて、ひっしに許しを請うしかなかった。
「2度と逃げるなよ……わかったかっ!」
「はっはひっ、はひっ、ははっ、はいっ!」
過呼吸のような返事でブンブン首を縦に振る。
唯一救いがあるとするならば、馬乗りになった先生のスカートの隙間からピンクのパンティが見えたことだろうか。




