ハッタリの憑依能力
7/15 (土) 正午 野外実習場
くっそ! くっそ! こんなとこで犬死かよっ!
逃げようとした罰か? 因果応報ってやつか?
まあ、だったらしょーがねえよな……
そうだ、もともと発現者としての人生諦めてたんだし、今更がんばったってみっともねーだけだろ。
だいたいどのツラ下げて学園に帰ろうとしてたんだよ。クラスのみんなが慰めてくれるとでもおもってたのかっつーの。
クソみてーな人生が終わって清々するぜ。残りの時間は今度生まれ変わったらもっとマシな人生になることを祈るのにでも使うか……
「っふっざけんなよクソがぁーーーっ!」
祈ってどーする。おれは無神論者だ。祈るのは初詣のときくらいなもんなんだよ! 初詣はイベント的なもんだから神を信じてなくても行くもんだろ普通。
だいたいこの男は先輩のクラスメイト皆殺しにしたカス野郎みたいじゃねえか。そんなクズ野郎に黙って殺されるのは気に入らねー。
こうなりゃなんでもいい。俺の憑依能力、索敵するだけだがあれは目くらましくらいにはなるかもしれない。このまま黙ってやられるよりはよっぽどましだ。
「ウェーブ!」
叫ぶと同時に俺の体から光の波が、水面を叩いたときの波紋のようにまわりに広がってゆく。
光の波紋は生物が発する魔力に触れると反応し、俺の意識のなかではその反応した生物の位置情報はしばらくの間、常に感じ取れる状態になる。
おれを縛り上げている輪っか状にあつまった粒子の集合体。
俺に向かって飛んできている矢のかたちをした粒子の塊が4本。
その右後方に節家先輩。胸の中心から強力な魔力反応が感じ取れることから憑依状態とわかる。
そのさらに左後方には無数の粒子たちを纏った件の男。男の右腕からは大量の魔力が放出されており、重症を負っていることが容易に想像できる。
一瞬で同心円状に広がった光の波が、この場に居る生物の存在を瞬時にフィードバックし、脳内に認識させる。
だがそれだけ。
目に見えている生き物の位置が感じ取れただけ。
ウェーブが広がるときに周囲に放った光も弱いもので、しかもこの炎天下の明るい野外じゃ目くらましの効果などあるはずもない。
これが俺の人生最後の悪あがき。ああ、分かってたよ。このあとあの4本の矢が俺の体をザックリ貫通しておわり。
15年という短い人生の思い出が走馬灯のようによみがえる……あ、こないだ誕生日だったから16年だわ。
先日、食堂で普人たち3人に『ぶっかけたぬきそば』でおちょくられたなー。
その前は佐野君と商店区のカレーショップでチキンカレー喰ったなー。あれ辛かったなー。でももっかい喰いたいなー。
さらにその前はみんなでファミレスで食事したなー。ドリア頼んだら高城に『おめー女子かよ!』って怒られたなー。『おまえも頼んだじゃねーか!』って言い返したら、『あたしは女子だからいいでしょ』って正論で返されたよなー。
ドサッ
っと不意に、なぜかごく最近の食事風景ばかりの回想シーンに浸っていた俺は地面に尻もちをつく。
「イテッ」
とつぶやいて周りを確認すると、なぜか全員が止まっている。
時が止まった……わけではない。その証拠に節家先輩はなぜか体をビクッとさせ、驚いたようにその場で立ち止まり、黒い霧みたいな魔物を纏った男も
「なんだこれは!」
と、誰ともなく叫ぶ。何言ってんだ、あいつ?
それにその黒い霧の魔物もすべて動きを完全に止めていた。さっきまで物凄い速さで飛んできていた4本の矢、俺を空中に拘束していた輪っか、男の周りで触手のようにうねっていたものすべてが。
しかもその真黒な粒子1つ1つはさっきまでぼんやり光っていたのに、今はツヤのないススのようで魔力もさほど感じられない。
だがそれはほんのわずかな間で、黒い粒子たちは再び光を取り戻し、先輩と男もすぐ我に返る。
「呼刀、今のは?」
訊ねる節家先輩にどうこたえていいのか分からない。
「……わかんないっす」
おし、なんだか知らないがウェーブには足止めの効果があるらしい。だがこの能力は再使用まで30秒ほどかかる。あとは先輩に任せるしかないか。
いや、どうせだからもう1つの能力も使ってみるか。
「おいっ! 病人顔っ! 俺のビーム喰らってみるか!」
奴に指でっぽうを向け、右手の人差し指に魔力を集中すると指先に赤い光の玉が現れる。
もちろん男も警戒し、即座に黒い霧で目の前に壁を作る。
さきほどまで俺を拘束していた分と、矢になって飛んできた分は攻撃体勢をとるが、節家先輩が俺をガードするように立ち塞がった。
「へいへーい。ビビってないで、顔みせろよ白髪頭。その頭吹っ飛ばしてやるぜー」
よしよし、かなり警戒してやがるな。
「いいぞ、呼刀。もうじき先生たちがこっちに来るころだ。それまでなるべく時間を稼げ」
小声で先輩が俺に言う。どうやら先輩も俺のビームがただのこけおどしだと気付いているようだ。
「くだらんハッタリはよせ。本当に俺の頭を吹っ飛ばせるならはじめに使ってたはずだ。どうせなんの意味もない能力なんだろ?」
くそー、相手もやっぱ感づいてるのか。でもガードを解かないってことはまだ半信半疑のはず。
「そう思うんならその壁とっぱらってみたらどうだ? 一発喰らえばわかるんじゃあねーの」
「その必要は無い」
男が言うと、黒い壁の奥から2本の矢の影がこちらに飛んでくる。
「くっそ!」
やけくそでビームを黒い壁めがけて撃つのと同時に、先輩が俺を押し倒しながら2本の矢を避ける。
指から放たれた赤い光は壁に当たると、音もなく染み込むように消えた。
「ぐぎぎっ。やはりただのハッタリか」
笑う男に必死に言い返す。
「はっ、はったりじゃねーし! こ、これはあとからじわじわ来る系のヤツなだけだし! お前のその黒いつぶつぶの魔物、もうじき使い物にならなくなるからな!
……ほ、ほんとだかんな!」
震え声で虚勢を張るが、もう完全に通じてない。
だが、そのとき林道の先にライトバンが走ってくるのが見えた。先輩が言ってた先生たちに違いない。
「くそっ、邪魔者が来たか」
男も不利な形勢を悟り、黒い粒子の魔物を呼び戻す。
「逃げる気か?」
節家先輩はまだ敵討ちを続けたい様子だが、男の方はどうやら違うらしい。
「当然だ。俺はただ魔力を吸いたいだけだからなー。ぎひひっ」
気味のわるい笑い声を残し、黒い霧に抱えられるようにして空を飛び、男は西の山のなかへと消えていった。




