↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
110/172

ハッタリの憑依能力

7/15 (土) 正午  野外実習場


 くっそ! くっそ! こんなとこで犬死(いぬじに)かよっ!

 逃げようとした罰か? 因果応報ってやつか?

 まあ、だったらしょーがねえよな……


 そうだ、もともと発現者としての人生諦めてたんだし、今更がんばったってみっともねーだけだろ。

 だいたいどのツラ下げて学園に帰ろうとしてたんだよ。クラスのみんなが慰(なぐさ)めてくれるとでもおもってたのかっつーの。

 クソみてーな人生が終わって清々(せいせい)するぜ。残りの時間は今度生まれ変わったらもっとマシな人生になることを祈るのにでも使うか……




「っふっざけんなよクソがぁーーーっ!」


 祈ってどーする。おれは無神論者(むしんろんしゃ)だ。祈るのは初詣《はつもうで》のときくらいなもんなんだよ! 初詣はイベント的なもんだから神を信じてなくても行くもんだろ普通。

 だいたいこの男は先輩のクラスメイト皆殺しにしたカス野郎みたいじゃねえか。そんなクズ野郎に黙って殺されるのは気に入らねー。

 こうなりゃなんでもいい。俺の憑依能力、索敵するだけだがあれは目くらましくらいにはなるかもしれない。このまま黙ってやられるよりはよっぽどましだ。


「ウェーブ!」


 叫ぶと同時に俺の体から光の波が、水面を叩いたときの波紋(はもん)のようにまわりに広がってゆく。

 光の波紋は生物が発する魔力に触れると反応し、俺の意識のなかではその反応した生物の位置情報はしばらくの間、常に感じ取れる状態になる。


 おれを縛り上げている輪っか状にあつまった粒子(りゅうし)の集合体。

 俺に向かって飛んできている矢のかたちをした粒子の塊が4本。

 その右後方に節家(ふしいえ)先輩。胸の中心から強力な魔力反応が感じ取れることから憑依状態とわかる。

 そのさらに左後方には無数の粒子たちを纏(まと)った件(くだん)の男。男の右腕からは大量の魔力が放出されており、重症を負っていることが容易に想像できる。


 一瞬で同心円状に広がった光の波が、この場に居る生物の存在を瞬時にフィードバックし、脳内に認識させる。

 だがそれだけ。

 目に見えている生き物の位置が感じ取れただけ。

 ウェーブが広がるときに周囲に放った光も弱いもので、しかもこの炎天下の明るい野外じゃ目くらましの効果などあるはずもない。

 これが俺の人生最後の悪あがき。ああ、分かってたよ。このあとあの4本の矢が俺の体をザックリ貫通しておわり。

 15年という短い人生の思い出が走馬灯のようによみがえる……あ、こないだ誕生日だったから16年だわ。


 先日、食堂で普人(しんと)たち3人に『ぶっかけたぬきそば』でおちょくられたなー。

 その前は佐野(さの)君と商店区のカレーショップでチキンカレー喰ったなー。あれ辛かったなー。でももっかい喰いたいなー。

 さらにその前はみんなでファミレスで食事したなー。ドリア頼んだら高城(たかしろ)に『おめー女子かよ!』って怒られたなー。『おまえも頼んだじゃねーか!』って言い返したら、『あたしは女子だからいいでしょ』って正論で返されたよなー。


 ドサッ


 っと不意に、なぜかごく最近の食事風景ばかりの回想シーンに浸っていた俺は地面に尻もちをつく。


「イテッ」


 とつぶやいて周りを確認すると、なぜか全員が止まっている。

 時が止まった……わけではない。その証拠に節家先輩はなぜか体をビクッとさせ、驚いたようにその場で立ち止まり、黒い霧みたいな魔物を纏(まと)った男も


「なんだこれは!」


 と、誰ともなく叫ぶ。何言ってんだ、あいつ?

 それにその黒い霧の魔物もすべて動きを完全に止めていた。さっきまで物凄い速さで飛んできていた4本の矢、俺を空中に拘束していた輪っか、男の周りで触手のようにうねっていたものすべてが。

 しかもその真黒な粒子1つ1つはさっきまでぼんやり光っていたのに、今はツヤのないススのようで魔力もさほど感じられない。


 だがそれはほんのわずかな間で、黒い粒子たちは再び光を取り戻し、先輩と男もすぐ我に返る。


「呼刀(ことう)、今のは?」


 訊ねる節家先輩にどうこたえていいのか分からない。


「……わかんないっす」


 おし、なんだか知らないがウェーブには足止めの効果があるらしい。だがこの能力は再使用まで30秒ほどかかる。あとは先輩に任せるしかないか。

 いや、どうせだからもう1つの能力も使ってみるか。


「おいっ! 病人顔(がお)っ! 俺のビーム喰らってみるか!」


 奴に指でっぽうを向け、右手の人差し指に魔力を集中すると指先に赤い光の玉が現れる。

 もちろん男も警戒し、即座に黒い霧で目の前に壁を作る。

 さきほどまで俺を拘束していた分と、矢になって飛んできた分は攻撃体勢をとるが、節家先輩が俺をガードするように立ち塞がった。


「へいへーい。ビビってないで、顔みせろよ白髪頭。その頭吹っ飛ばしてやるぜー」


 よしよし、かなり警戒してやがるな。


「いいぞ、呼刀。もうじき先生たちがこっちに来るころだ。それまでなるべく時間を稼げ」


 小声で先輩が俺に言う。どうやら先輩も俺のビームがただのこけおどしだと気付いているようだ。


「くだらんハッタリはよせ。本当に俺の頭を吹っ飛ばせるならはじめに使ってたはずだ。どうせなんの意味もない能力なんだろ?」


 くそー、相手もやっぱ感づいてるのか。でもガードを解かないってことはまだ半信半疑のはず。


「そう思うんならその壁とっぱらってみたらどうだ? 一発喰らえばわかるんじゃあねーの」


「その必要は無い」


 男が言うと、黒い壁の奥から2本の矢の影がこちらに飛んでくる。


「くっそ!」


 やけくそでビームを黒い壁めがけて撃つのと同時に、先輩が俺を押し倒しながら2本の矢を避ける。

 指から放たれた赤い光は壁に当たると、音もなく染み込むように消えた。


「ぐぎぎっ。やはりただのハッタリか」


 笑う男に必死に言い返す。


「はっ、はったりじゃねーし! こ、これはあとからじわじわ来る系のヤツなだけだし! お前のその黒いつぶつぶの魔物、もうじき使い物にならなくなるからな!

 ……ほ、ほんとだかんな!」


 震え声で虚勢を張るが、もう完全に通じてない。


 だが、そのとき林道の先にライトバンが走ってくるのが見えた。先輩が言ってた先生たちに違いない。


「くそっ、邪魔者が来たか」


 男も不利な形勢を悟り、黒い粒子の魔物を呼び戻す。


「逃げる気か?」


 節家先輩はまだ敵討(かたきう)ちを続けたい様子だが、男の方はどうやら違うらしい。


「当然だ。俺はただ魔力を吸いたいだけだからなー。ぎひひっ」


 気味のわるい笑い声を残し、黒い霧に抱えられるようにして空を飛び、男は西の山のなかへと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。