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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
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野外実習場

7/15 (土) 正午  野外実習場


「やれやれ、呑気(のんき)に昼メシかよ。いい気なもんだ」


 ウサギ山の山頂から景色を観ようと持ってきた双眼鏡で、まさか逃げ出そうとする1年坊主を見張るとはな。

 野外実習場から50メートルほど離れた林道の木陰に隠れながら呼刀(ことう)の様子を探る。

 奴の能力は索敵がメインだと普人(しんと)が言ってたから、あまり近すぎるとバレてしまう恐れもあるのでかなり遠目から見張っていた。


 せっかくの長距離トレーニングが台無しだが、尾行訓練と考えればまあ悪くはない。

 2羽のカラスはヤツの近くでさりげなく様子を伺(うかが)わせ、残りの1羽は俺の近くで待機させ、不測の事態に備える。


 いまのところ大きな動きはないようだ。ではこちらも軽く食べておくか。

 リュックからコンビニおにぎりとミネラルウォーターを取り出し、林道脇の木陰で食事にする。


(ハジメ、お菓子お菓子)


 傍(そば)にいるカラスがねだるので菓子袋からスナック菓子を掴(つか)み、目の前に置いてやる。

 ミネラルウォーターもアルミ製のボウルに注いで出す。この暑さじゃ食事が不要な魔物でも飲み物が欲しいだろう。

 不死ガラスは喜んで水の入ったボウルに首をつっこむ。


(おい、ずるいぞ)


(おれもほしいー。ハジメー)


 見張り役の2匹が途端に文句を言いだす。


(まてまて、交代でやるから。しっかり見張ってろよ)


 3匹いると便利なんだが、お守(も)りが大変だ。1匹ずつ交代で食事をさせながら、ふと野外実習場にある4階建の実習棟に目をやる。

 もう半年以上経つのか。去年の冬、ここであった惨劇を思い出す。


 あの男が現れたのは夜中だった。

 みんなあの建物の中で眠っていたが、俺が起きたときには生徒の半数は既に死んでいたらしい。

 俺もあそこで死んでいるはずだった。なのに聖(ひじり)君と木戸(きど)に助けられて、俺1人生き残った。クラスで1番どうでもいい俺がなんでよりにもよって……

 2人はなんで俺を助けたんだ? あのまま逃げていれば2人とも助かったじゃないか。


 梅田(うめだ)先生は気にするなと言うけれど、火田(ひだ)先輩は戦いでは常に冷静でいろと言うけれど、俺はあの男が憎い。本当はアイツを殺したい。

 あの黒い霧の男を。



(おっ、あいつ電話掛かってきたみたいだぞ)


 カラスからの知らせで我に返る。

 双眼鏡を覗くと呼刀が誰かと携帯で話しているようだ。だがしばらくして通話は終わり、奴は急いで出発の準備をはじめる。

 あの慌てぶりから、電話の相手は学園関係者か? 校舎からかなり離れたから警告でもしたのだろう。

 まあここはまだ学園が所有する施設だからな。いまならそれほど大事にはならんだろうが……

 まずいな、もう学園の敷地から出ちまうぞ。


 正直どうするか決め兼ねていた。このまま行かせてみるのも悪くないかとも思ったが、やっぱり止(と)めるべきだろう。

 だがそろそろ俺にも電話が掛かってくるはずだ。一応状況説明をしてからの方が話が速い。


 ジャージのポケットのスマホが振動する。ちょうど着信が来たみたいだ。

 相手が梅田(うめだ)先生であることを確認し、電話に出る。


「よーお、シャイボーイ。今日はハイキングに行くんじゃなかったのか? それとも道に迷っちまったか」


 いつものふざけたしゃべりで俺を探ってくる。こちらも事情を説明しなくちゃならない。


「そのつもりだったんですが、途中で迷子を見つけましてね。どこ行くか興味あったんでなんとなく後つけて来たんですよ、このクソ暑いなか4時間も。

 で、その迷子の1年が今、野外実習場から山んなか入ろうとしてますけどどうしますかね? 引きずって学園まで連れてくにはちと遠すぎるんですが」


 この暑さのなか、普通に歩いても4時間掛かる距離を人1人背負って帰るのはさすがにご遠慮願いたいもんだ。


「お前が他人に興味を示すなんてめずらしーじゃねえか。だがもうちょい早く俺に相談してくれてもよかったんじゃあないのぉ?

 まあいいや、今から学園長が直々(じきじき)にその1年坊主にお仕置きしてくださるってよ。それでも逃げるようならお前の拳(こぶし)で説得しといてくれ。

 こっちは今、巨乳メガネのおねーちゃんとドライブと洒落込むつもりだ。あと20分くらいでそっちに着くからよろしく。

 なんかあったらまた電話くれ」


「了解です」


 電話を切ってリュックを背負い、待機していたカラスと共に呼刀の元へと歩いてゆく。

 しかし、学園長直々ってどうやるんだ? たぶん学園に居るから遠隔で魔物を操作できるのか、それとも高速移動やテレポートでここまで来るのか?

 俺はまだ学園長の能力を知らない。噂じゃ相手を呪うって話だけど、どんな能力か少し興味がある。


 野外実習場に着くと、人影が見当たらない。見張り役の2羽のカラスたちが炊事場の手前でウロついてるのを見つける。

 急いでもう1羽のカラスとそちらに向かうと、炊事場には白い炎に包まれた呼刀が地面でのたうちまわっていた。

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