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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
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どこにいる?

7/15 (土) 正午  野外実習場


 野外実習場に着いたのは正午少し前だった。

 砂利道に変わった林道をしばらく行くと両側の木々が途切れ、開けたキャンプ場のような場所に出た。

 屋根の付いた炊事場やトイレ小屋、タイヤや木材で作られたちょっとしたアスレチック施設などがあったが、中でも一際(ひときわ)目立つのが4階建の鉄筋の建物だった。

 他はまさしく山のキャンプ場そのものといった施設だったが、その建物だけ不自然なくらい場違いだった。恐らくは建物内での戦闘の実習に使うのだろう。外観は打ちっぱなしのコンクリートで廃墟のような雰囲気だ。


「おし、とりあえず休憩だ、ダガー。昼飯にしよう」


「そうですね、あっちの日陰で休みましょう。私暑いところは苦手です」


 日陰のある林道とはいえ初夏の日中に休憩なしで4時間近く歩いて来たんだ。俺ももうクタクタだった。

 炊事場にある屋根の下のテーブル席に座り、リュックからペットボトルのスポーツドリンクとコンビニのサンドイッチをだして昼食を取る。

 ダガーもペットボトルに頭を突っ込み、ドリンクをグビグビ飲む。魔力さえあれば干からびても死ぬことはないんだが、この暑さには参っているようだ。

 ボトルが倒れそうになるのを手で押さえてやりながら、温(ぬる)くなった野菜サンドを口へと運ぶ。


 食事をしながら、このあとの計画を考えていた。

 ここから正面の山を越え、真っ直ぐ行けば道路に出るはずだ。あとは道なりに歩くなり、ヒッチハイクするなりして町まで行けばバスか電車で移動できる。

 金(かね)も、学園から毎月生徒の口座に振り込まれる小遣いからいくらか下ろしてきたので当座はしのげるだろう。


 なるべく遠くに行こう。

 なんでもいいから仕事を見つけて、普通の人間として暮らそう。

 俺は所詮(しょせん)、なんの取り柄もない普通の人間なんだ。


 はじめは期待していた。発現者の素質があると言われ、両親と妹とも引き離されたけど、それ以上に発現者としての人生が楽しみだった。

 俺の人生勝ち組だと調子に乗ってたさ。普人(しんと)もそうだったって話してくれたっけ。


 でもダメだった。俺には才能がなかった。


 テーブルの上に寝転がっているダガーを見つめる。


 俺の魔物も強かったらこんなことにはなってなかったのかなー。

 でもまあコイツが悪いわけじゃないし、コイツは俺自身みたいなモンだから、他の魔物なんてあり得ねーんだよな。

 結局は俺に根性が足りなかっただけなんだろう。


 クラスのみんな、俺が1人で逃げ出したと知ったら軽蔑するだろうな。

 佐野(さの)君怒るかなー。佐野君はおとなしいし優しい性格だから、怒るとこなんて想像できないな。

 高城(たかしろ)は怒るだろーな。つーか、あいついっつも怒ってるよな。あんな怒らなきゃ結構かわいくて好みなんだけどなー。

 普人も怒らないかな? あいつはちょっと何考えてるかわかんないところあるからなー。根暗だから怒ると無視されそうだ。


 そういえば普人に言われたっけ、『お互い強くなろうぜ』って。いろいろ俺を慰(なぐさ)めてくれたのに悪いことしたなぁ。

 俺もアイツみたいになりたかったけど、ダメだった。いくら決意しても、いくら本気でやっても、結局最後は逃げ出しておわり。

 分かってても体が動かない。分かってても気持ちが揺らぐ。戦いたくないっていう思いがどうしても顔を出す。

 これはもう生まれ持った体質だな。逃げの体質。


 まあ、もう考えたってしょうがない。ここまで逃げてきたんだ、今更後には引けないだろう。



 ピロロロロッ


 と不意にジーンズの右ポケットのスマホが鳴りだす。画面の着信番号には見覚えがない。

 どうする。出た方がいいのか? そもそもスマホを持ってきたのが間違いだったか。

 意を決し、通話ボタンを押す。


「もしもし……」


 恐る恐る尋ねると、


「もしもし、呼刀(ことう)君? 霧真者(きりまじゃ)先生ですよー。いまどこにいる?」


 やばい、霧真者先生だ! どうしよう。なんて答えればいいんだ? もうバレてるんじゃないか? でなきゃいきなり電話なんて掛けてこないだろ。


「あー……えー……いま丁度、昼食中でして……」


「どこで?」


 うわー、誤魔化せないぞ。これは絶対バレてるだろ。いや、バレてないから場所を聞き出そうとしてるのか?


「あのー……ちょっと外のほうかなーと……思いまして……」


「呼刀君。怒らないからどこにいるのか先生に教えてくれないかなー?」


 ヤバい。これ絶対あとで怒られるパターンのやつだ。教えても教えなくても絶対怒られるパターンのやつだ。


「……すみません、あのー……ちょっと周りに迷惑になるみたいなんで一旦切りますね。失礼しまーす」


 ピッ


 怖くなってつい切ってしまった。

 しかし、切ったスマホにすぐさま着信が入る。もちろん同じ番号からだ。

 慌てて電源を切る。


 うわー、やばい。先生相当怒ってるだろうなー。


「よし。ダガー、行こう!」


 こうなったらグズグズしていられない。荷物をまとめ、大急ぎで山越えの準備をはじめた。

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