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そんなある日、仕事で夫と組んでいる事務官が彼の後を追うように家までやって来た。
たまにやって来ていた添島が来たのだと思ったが、玄関から入ってきたのは、可愛らしいと言う形容詞が当てはまる女性。
長いフワフワとした髪。
サイドは編み込まれており、卵形の輪郭をハッキリさせている。
パッチリとした目力の強い目は彼女が可愛いだけの女ではないことを物語っていた。
「お邪魔します!」
軽く挨拶だけして彼女は夫と冴には分からない仕事上の言葉を交わしながら書斎へと消えた。
慌ただしく閉まったドアが勢い良く開き夫が顔を出した。
「お茶は出さなくていいから。」
久しぶりに交した言葉のように思えた。
彼の部屋に入っていた彼女が何か喚きながら部屋から出てきた。
「信じられないっ!」
そう言っていた彼女は冴が、いらないと言われていたお茶を持って立っていたのを目にした。
ペコリと頭を下げて一応挨拶する彼女は、家族でもないのに、冴を居間のソファに促した。
「最近、武瑠さん、顔色悪いの気付いてます?」
ただの事務官だと思っていた彼女の口から出た苗字ではない彼の名前。
冴はビクリとした。
「言わせていただきますね、せっかくの機会だし。」
そう言うと彼女は冴に睨みつけるような視線を寄越した。
「あなた、主婦よね・・・パートもしてない、家のこと、彼のことを世話してるのよね。」
世話と言う言葉にズキリときた。
「あの顔色を見て何も思わないの?医者に連れて行こうとは思わないの?夫の健康管理が出来ないのだったら、せめて医者に連れて行きなさいよ。仕事を家でさせないで、ちゃんと休ませて!ここの所の彼の顔色見たら分かるでしょう?あなたは、彼の妻なんですもの。仕事はほぼ定時に終わって帰っているのに、あなた、彼に何をさせてんの!この前なんか法廷で倒れたのよ?」
矢継ぎ早に言われる言葉に頭の中が真っ白になる。
「知らない、そんなこと知らない。た・・・夫は倒れたんですか?」
冴は震える手で彼女の腕を掴み揺さぶる。
「知らなかったの?」
その言葉と共に腕を振り解かれ、冴は勢い余ってソファに凭れるような姿勢になった。
「妻なのに?まあ、私も添島も連絡しなかったけど・・・その日には帰れたし、てっきり話をしてると思ったのに・・・。信頼されてないのね。」
ハッキリと言う彼女の言葉に胸が痛む。
「じゃあ、武瑠さんを自由にしてあげて。私なら彼の全てをあなたの代わりに支えることができるから。・・・よく考えて。」
ドアが開く音がした。
彼が出てきたようだ。
「清水・・・早く帰れ・・・。」
「はーい、でも、本当無理しちゃイヤですよ。仕事だって沢山溜まってるんだから。」
彼女の手が違和感なく彼の胸に触れる。
「じゃあ、奥様・・・お茶ありがとうございました。」
そう言った彼女の目は一つも笑っては居らず、我に返った冴は、ふらつきを覚える足で立ち上がった。
「冴?」
人前だからだろう、武瑠は冴を支える。
冴はその腕を咄嗟に振り払ってしまった。
「だ、大丈夫。」
「本当、大丈夫ですか?」
横から声をかけてくる清水が、ニコニコと笑いながら冴を見ていた。
つづく




