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清水と言う女が帰ってから、冴は夕食の支度に取り掛かった。
彼女を見送った武瑠が何か言葉を発していたが、冴は聞き流していた。
頭を巡るのは彼女の言葉。
「冴?」
久しぶりに触れてくる夫に冴が身体を震わせる。
「どうした?調子悪いのか?」
心配そうな声。
ここ最近、聞かなかった声だった。
優しくされると誤解してしまう。
冴はそう思い、笑顔を作って彼の手をそっと自分から離した。
「大丈夫。そ、それより、武瑠こそ顔色悪いわよ。」
逆に尋ねると彼の顔がギクリとした。
「えっ?そうかな・・・。」
「ええ、」
「ちょっと、寝不足なだけだよ。大丈夫。いつも御飯ありがとう・・・一緒に食べられなくてごめん。」
まだまだ新婚だった頃の笑顔。
冴は、泣きそうになった。
(この笑顔を信じていいのかな・・・?)
「冴?」
「えっ・・・ああ、御飯用意したら・・・部屋の前に置いとくね。」
「・・・うん・・・。」
そっと抱きしめられて額にキスを受けた。
何時以来のキス?
冴は武瑠の行動全てが胡散臭く見えるのだった。
「大丈夫?顔色悪いけど眠れてるの?」
あの日から数日後、相変わらず、冴と武瑠の間には距離があった。
家に帰ってくるのは、きっと仕事が溜まっているからだろう。
定時に仕事を終えているという武瑠が夕食の買い物から返った冴よりも先に部屋に篭っていることもあった。
どんなに忙しくても朝食を一緒にする二人であったが、昨日の土曜日は武瑠が起きて来なかった。
声をかけても返事がなく、部屋には鍵がかけられていた。
いつの間に・・・。
部屋に無かったはずの鍵がかけられていることに冴は驚いた。
自分が家にいない隙を狙ってつけたのだろうか。
心がまた軋んだ。
起きて来なかった武瑠が生きていることがわかったのは、部屋前に置いた昼食の食器がシンクに置かれてることだった。
“美味しかった・・・朝、一緒できなくてごめん。”
いいのに、と冴は思う。
無理しなくていいのにと。
こんな紙切れよりも言葉が聞いたいのに、それもイヤになったのかと大きなため息を吐いた。
つづく




