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結婚すると男の態度が変わることがあると噂に聞くことはあった。
けれど彼は違うと思っていた。
彼との関係にほころびが見えはじめたのは、二ヶ月ほど前だった。
あの日彼は真っ青な顔で家に帰ってきた。
肌寒い日だったのに汗を流して。
彼は冴を見るなり抱き締めてきた。
どうしたの?と聞いた冴に彼は結婚前の頃の笑顔をくれた。
肌を重ねることはなかったが一緒のベッドに横になった。
いつもなら、冴の質問に答えてくれる彼が今回に限って、何も語ってくれなかった。
よほどの内容なんだろう、冴はそんな風に思っていた。
その夜、冴は隣で寝る武瑠の様子がおかしいことに気付いた。
魘されているのだ。
声をかけても揺さぶっても武瑠は目を開けない。
どうしようかと悩んだが、次の瞬間、彼は声をあげて飛び起きた。
暫くの間一点を凝視し、その後何かを探るような視線を周囲に向け、ベッドから飛び出した。
茫然としていた冴も我に返り脱衣所に籠った武瑠を追った。
戸一枚隔てた向こうで武瑠が、
(嘘だろ、マジかよ、くそ)
などと言っているのが聞こえた。
冴は声をかける。
脱衣場の武瑠は珍しく慌てた声で“大丈夫”とだけ言っきた。
その後シャワーを浴びる音がして武瑠は出てきた。
少し憔悴した顔に笑顔を張り付けているようだった。
次の日から武瑠は書斎で寝るようになった。
理由を尋ねたら忙しくて仕事を家でもしなくてはならないからだと言った。
武瑠との生活はすれ違うばかりで、冴は言い様のない不安に心を削られているように感じた。
休日も彼は冴の側に居なかった。
同じ屋根の下にいても扉一枚の隔たりがシェルターの壁のように思えた。
それでも朝食だけは一緒にとってくれる武瑠。
日々憔悴していく武瑠に冴は意を決して言った。
「ねえ、何があったの?体の調子が悪いんじゃないの?」
しかし、彼は何でもないとしか返事をくれなかった。
夫婦間での初めての秘密が生まれたと冴は感じた。
家にも仕事を持ち込むようになった彼は守秘義務の観念から、仕事から帰っても休日も書斎に籠って、食事すら抜く時が多かった。
幾ら何でも身体を壊すと冴はいい、部屋には入らないから、せめて食べてと、彼が居る時は食事を部屋の前に運ぶようになった。
食事を運んでくる彼女に武瑠は最初こそお礼の言葉やハグ、時にはキスをしてきたが、それも段々となくなり、“ああ”と言う素っ気無い返事だけが返ってくるようになった。
(引きこもりの息子に食事を運ぶ母親みたい・・・。)
冴は自分が自嘲していることに気付いた。
結婚してからの夜の営みも三ヶ月を過ぎた頃からなくなった。
彼が欲しかったのは体のいい家政婦なのでは?と思うことが多くなった。
会話も少なく、恐らくは仕事のことで頭の中は一杯なのだろう、思い詰めた表情は見ていて辛いものだった。
法律のことなんか何も分からない自分では愚痴を聞くことも出来ない。
彼にとっての自分とは何だろうと悩む日が続いた。
つづく




