31
王子が亡くなった。
それは王都の中心で起きたはずの、大きな出来事だった。
だが、街は動かなかった。
市場はいつものように喧騒に包まれ、商人たちは今日の儲けに頭を悩ませている。
路地裏では子どもたちが追いかけっこを続け、酒場では昨夜と変わらぬ笑い声が響いていた。
人々は噂を口にする。
――「結局、王子なんていてもいなくても同じじゃないか」
――「次に玉座に座るのは誰になる?」
けれどもその声には、悲しみも憂いもなかった。
王子の死は、祭りの翌日の落書きのように、ただ一つの話題に消費されていった。
そんな無関心の渦中で、クラウディアは屋敷に身を置いていた。
クラウディアは、王都にある屋敷の執務室で双子を見守りながら、ゆりかごを指先で静かに揺らしていた。小さな寝息に合わせるように、規則正しく。
執務室の扉が、控えめにノックされる。
だがクラウディアは聞こえていながらも返事をしなかった。
やがて扉がゆっくりと開き、タリヤが様子をうかがうように中へ足を踏み入れる。
少し遅れて、マイルズとキミトフも後に続いた。
三人は無言のまま横一列に並び、整列する。
クラウディアは一瞬だけ視線を彼らに送ったが、すぐにまた、双子へと視線を戻した。
ただ、ゆりかごの揺れる小さな音だけが、部屋に満ちていた。
「……この子達の名前は?」
クラウディアの問いかけに、タリヤが答える。
「レックスとリーア、だそうです」
「そう……素晴らしい名前ね」
クラウディアは小さく微笑み、再び視線を双子に落とした。
細い指先がゆりかごを揺らすたび、規則正しい寝息が静かな執務室に広がる。
「……ねぇ、レックス、リーア。私はどうすればよかったのかしら」
囁きは自分に向けた問いのようであり、眠る二人にすがる祈りのようでもあった。
「なすがままに受け入れていれば……あなた達は、温かい家庭で今も生きられていたのかしら?」
彼女の瞳に、わずかな翳りが宿る。
「ねぇ、レックス、リーア。私があなた達の幸せを願うことを……許していただけるのかしら」
その声は涙に似た震えを帯びていた。
クラウディアは顔を上げ、整列している三人へと視線を移す。
「……ねぇ、タリヤ。キミトフ。マイルズ。この子たちの幸せを願うことを……この子たちは許してくれるのかしら?」
三人は何も言わなかった。
ゆりかごの揺れる小さな音だけが、未来へ続く静かな鼓動のように部屋に満ちていた。
一旦完結まで書き進めて、ようやく物語を締めくくる難しさを実感しました。
始めることよりも、終わらせることの方がずっと難しい――そう痛感しています。
それでも最後までお付き合いいただいた皆さまに、心より感謝申し上げます。
少しでも”面白かったよ”って感じた方は、リアクションやブクマで応援していただけると嬉しいです。
私は、親や保護者、周囲の人間がどれほど心配を重ねようとも、子どもたちはその思いを軽々と飛び越えて、健やかに育っていくことを信じています。
9/23追記:今まで応援していただいた皆様への感謝の気持ちを少しでも形にすべく、番外編という形でお返しさせていただきます。そちらもどうぞ楽しんでいただければ幸いです。




