六話 ご飯
翌朝、月曜日。朝の支度を終えたところでアカメの顔が気になりリビングに顔を出すと、アカメは台所に敷いている布団の上で枕を抱きしめながら眠っていた。
抱き枕も買ってやった方が良いか、そんなことを思いながら明るい茶色の革靴を履いて家を出る。新しい革靴に新しいワイシャツ、ここまで新調すると気分も上がる。
軽い足取りでコンビニに寄り、おにぎり二個と缶コーヒーを買って電車に乗る。一時間ほど電車に揺られ、職場でキーボードを打ちながら朝食を済ませる。
「穂川係長、おはようございます」
「佐藤か。おはよう」
「係長がここで朝ごはんなんて珍しいですね。それに、シャツと靴も新しいやつじゃないっすか。やっぱ、マジで彼女出来ましたか?」
佐藤が自分のデスクに上着とカバンを置いて、近づいて来る。
「それにしても、よくそんな軽い色の買いましたね。いや、似合ってますけど」
「はいはい、サンキューな。それより、今プリンターに送った紙取ってくれ」
「まだ始業前なのに仕事ですか?彼女ができても、真面目は変わらないですね」
「彼女じゃねぇって言ってんだろ」
本気か、冗談か。佐藤はへらへらと薄っぺらい笑いをしながら、プリンターから出てきた数枚の紙を取りに行った。
「うへぇ、やっぱすごいですね。これなら相手方も頷くと思います。・・・・・・もしかして、土日の間ずっと考えてましたか?」
「今回の土日は全くだな。それより、早く寄越せ」
佐藤は紙を上からめくり目を通す。そして、四枚目に目を通したところで足が止まった。
「・・・・・・係長、これなんですか?」
どうやら、見られたくないものが見られてしまったようだ。
「ローマ字、それに裏面はタイピングの指の位置が書いてる・・・・・・。誰かにパソコンを教える、とか?新人は入ってないし、彼女とも思いにくい。・・・・・・子供?」
変な所で勘が良い。佐藤は若い割に仕事も難なくこなすし、明るい性格で人脈もある。だが、少し踏みこみ過ぎるのが難点だな。さて、どうやってはぐらかすか。
「彼女との子供、は考えにくいか。ローマ字の勉強ってことは、小学校高学年から中学。自然に考えると・・・・・・」
「おい佐藤、佐藤。聞いてんのか。聞け、その紙はな── 」
「── そうか。係長、分かりましたよ。係長は金曜の晩から親戚の子供を預かった。子供の親の都合で一週間ほど見てくれと。それで、何もない係長の家で、仕方なくタイピングを教えることになった。違いますか?真実はいつも一つ!」
言い訳を考えているうちにどうやら、佐藤の中で疑問は解けたようだ。所々間違っているが、大筋は合っている。だが、かけてもいないメガネをクイクイと上げる動作は癇に障る。
「・・・・・・あぁ、そうだよ。当たりだ。だから、さっさと寄越せ」
「うっし!あ、どうぞ。んじゃ、俺は気持ち良くなったんで、トイレでも行ってきますね」
下手に否定するよりも、勘違いをそのまま認めてやる方が聞き訳が良い。推理が的中したと思っている佐藤は機嫌よく紙を寄越し、鼻歌を歌いながらトイレの方向に歩いて行った。
俺は会議用の資料とタイピング練習の紙が混同しないように、その紙をカバンの中にしまう。そうこうしている間に始業のチャイムが鳴り響いた。
午前の仕事はいつも通りにこなし、昼休憩は会議に出るメンバーを集めて打ち合わせがてらファーストフードで。取引先との会議も大方想定通りに終わった。
「んじゃ、お疲れ様でしたー」
「「お疲れ様でしたー」」
「お疲れ」
会議を終えた佐藤と他のメンバーが退勤したのを確認して、俺もオフィスを出る。
ビルを出たところでちょうど腹の虫が鳴き、空腹を感じた。昨日の晩からずっと、コンビニの惣菜なので何か違ったものが食べたいものだ。
「あいつには昨日、昼飯は冷蔵庫の惣菜食っとけって言ったし・・・・・・。何か食いたいもんとか」
電車に乗ってしまえば、結局コンビニの惣菜になってしまう。ゆっくりと駅に向かいながら何かない物かと探していると、地下鉄に繋がる階段から少し離れたところに小さな焼き鳥屋が見えた。窓からは白い煙が上がっている。
「焼き鳥か、久しぶりにビールでも飲みながら食うのもいいな」
一度想像してしまえば、足を止めることはできない。焼き鳥とビールという最高の組み合わせを求めて、店に向かう。
「らっしゃい。何名様で?」
まだ早い時間だからか、店の中には一人客の数人がカウンターに座っているだけだった。
今までなら俺もカウンターに座ってその中に混ざるのだが、家で待っている子供がいるのでそれはできない。
「あ、いや、お持ち帰りってできますか?」
「持ち帰りね。はい、これメニュー。決まったら声かけて」
店主らしき無精ひげを生やした男性からメニューを受け取り、ざっと目を通す。特に変わったメニューはなく、一般的な焼き鳥屋の様だ。
アカメがどれくらいの量を食べるかはいまいち把握していないが、適当に言えばいい。
「すみません、モモとねぎま。皮とつくねを三本ずつ全部タレ。それと、レバー、砂肝を二つずつ。こっちは塩で。あ、あと、とりポン酢も一つお願いします」
「あいよ。十分ほど待ってね。先に会計をお願い」
「店長、俺行きます。お客さん、合計で千七百円です」
出入り口に一番近いカウンターの前で立っていると、店主と入れ替わるようにして大学生に見える若い店員が奥から寄ってきた。入れ替わった店主は俺が注文したメニューを焼き始めた。
「まいど。出来上がったら声掛けますんで、カウンターに座って待っててください」
会計を終えると、若い店員がカウンターの一席に水を置いたのでありがたくその水を飲んで待つことにしよう。時刻は十八時前、帰るころにはアカメもお腹を空かせているはずだ。
あまり興味がないニュースをスマホで見つめながら焼き鳥が出来るのを待つ。そこで、最近ネットトラブルが増えている、というニュースが目についた。
これからアカメがまさにネットデビューするのだ。監視するみたいで気は進まないが、始めのうちは検索履歴や開いたサイトなども把握しておくとしよう。
もしも、ウイルスサイトや詐欺サイトを踏めば面倒だからな。
「お待たせしましたー。もも、ねぎま、皮とつくねのタレが三つずつと、レバーと砂肝の塩が二本ずつ。それと、とりポンは別のパックに入れてるので」
「ありがとうございます」
「ありがとうございましたー。またお待ちしてますー」
「また来てね」
若い店員と奥で鳥を焼く店主に頭を軽く下げて店を出る。受け取ったビニール袋から手に熱気と共に香ばしい匂いが上がってきて、更に食欲をそそった。
「今から速足で向かえば、一本早い電車に乗れるな」
焼き鳥とビールを一緒に呑む瞬間を頭に浮かべ、軽い足取りで駅に向かった。
「おか、えり」
家に着くと、アカメがリビングの扉を開けて出迎えてきた。その服装は先日に買った寝間着ではなく、出かける用のワンピースになっている。
「どこか行ってたのか?」
「どう、して?」
「いや、別にいいんだが、着替えてるからそう思っただけだ」
「おきたら、きがえる、よね?ようすけは、ちがう、の?」
「そういうもんか・・・・・・。あ、これ机に置いて皿とか準備しといてくれるか?」
玄関で靴を脱ぎ、布団の横を通って洗面所に向かう。その際に、手にしていたビニール袋をアカメに差し出す。アカメは俺からビニール袋を受け取ると、台所の方に向かった。
「アカメー、ちゃんと昼は食べたか?」
「うんー、おいしかった、よー」
洗面所で手を洗い、うがいをする。一日の汗を吸ったシャツを脱ぎ、土曜に買った寝間着を身に纏う。スーツとは全く別の、寝るために作られた寝間着の肌心地はやはり気持ち良い。
「ようすけ、できた、よー?」
脱いだシャツを玄関の靴箱に入れていると、先の会話よりも少し大きなアカメの声が届いた。隣や下の部屋に聞こえるかとも思ったが、苦情が入った時に謝ればいいだろう。
「おう、今行く」
気持ちひかえめな声量の返し。靴箱のドア音が出ないようにをそっと閉め、リビングに向かう前に冷蔵庫から一本のビールを取り出し、席に着く。
テーブルの上にはパックに入った焼き鳥と、二つのコップと皿が並んでいた。
「ようすけ、たべて、いい?」
「あぁ。早く食べよう。いただきます」
「いただきます」
ビールの缶を開け、焼き鳥の前に一口。体全身を覆っていた疲れが一気にビニールと共に流されていく。一方のアカメはモモに手を付けていた。やはり子供はモモが好きなようだ。
「なあ、アカメ」
「・・・・・・な、に?」
「うまいか?」
「うん・・・・・・!」
焼き鳥を飲み込んだ際の笑顔に、気を使ってるわけではないと分かる。そのことに少しだけホッとした。子供の、ましてや女の子が喜ぶ料理なんて分からないからな。
今日は焼き鳥にしたから、明日はコンビニ・・・・・・。いや、さすがにレパートリーが無さ過ぎるな。新しい店を見つけようにも、遅くなり過ぎるのは困る。
こんなに食事の事で悩む日が来るとは。
「どうか、した、の?」
俺が悩んでいることを察したのか、アカメは覗き込むようにしてこちらを見つめている。
「あぁ、まぁ、明日の晩飯どうしようかなーって。あ、お前の昼飯もだな」
そうだった。アカメはずっとこの家にいるのだ。昼飯も俺が用意してやらないと。
そこまで考えた時に、親から見る学校のありがたみを痛感した。
「なぁ、お前って── 」
「りょうり、しよ?」
アカメの口から出たあまりに突拍子のない言葉。その言葉に俺は何を言おうとしていたのか、すっかり忘れてしまった。
「りょうり、ふたり、で、がんば、ろ?」
「料理って、俺とお前の二人で?どっちも出来ないのを、どうやって?」
「ようすけ、なら、できる。わたしも、がんばる、から」
「頑張るって、根性論かよ・・・・・・」
正直な話をしてしまえば、今の時代誰に教わらなくてもスマホ一つで料理くらいなら学べるだろう。器具もコンビニで揃えられる。だが、作る手間と時間、クオリティを考えれば明らかに惣菜を買った時のメリットの方が大きい。
やる気になれない。それが一番の理由だ。
「悪いが、この話はなしだ。初心者二人で料理なんて危なすぎる。せめて、少しだけでも教えられる人がいれば・・・・・・」
俺がアカメの提案を断ろうとした時、部屋の中にある音が響いた。
ピーンポーン。
滅多になることのない家のインターホンだ。壁が薄すぎて聞こえた隣の家の音かと思ったが、音量からして鳴ったのは間違いなくこの家のものだ。
時間的にセールスや勧誘でもない。そこまで分かれば、インターホンを鳴らした人物の大体の予想はついた。
「・・・・・・ちょっと出てくる。静かにしてろよ」
「うん」
こっちの気など知らず、アカメはつくねを頬張っている。さっそくさっきの騒音で苦情でも入ったか。とにかく先に謝れば、そこまで面倒な事にはならないだろう。
ドアノブを回し、開けると同時に頭を下げる。
「うるさくして、すみませんでした!」
「え、え、えぇ・・・・・・?」
声からして、やはりインターホンを押したのは大家さんだ。顔は見えないが、そこまで怒っているようには感じない。
「ほ、穂川さん!頭を上げてください!全然、うるさくなんてないですから」
「そう、ですか?なら、どうして・・・・・・」
本当に怒っていないようなので、ゆっくりと頭を上げていく。すると、ちょうど腰の位置まで視線を上げたところで大家さんが少し大きめの器を手にしているのが見えた。
「これ、作りすぎたので良かったらと思って。こんな時間に帰ってくるなんて思ってなかったので、簡単な物ですけど・・・・・・」
大家さんが差し出してきた器はサランラップが巻かれていて、その中には肉じゃがが入っていた。
「もしかして、もう夕食終わってましたか?」
「い、いえ。今ちょうど食べてるところで。ありがとうございます」
大家さんの手から受け取った肉じゃがはほんのり温かい。
「何かお返し、したいんですけど渡せるのが無くて・・・・・・。今度用意しておきますね」
「そんな!気を使わなくても大丈夫ですよ!それでは、お邪魔しました」
大家さんが笑って階段を降りて行くのを見届けると、肉じゃがを持って家の扉を閉める。
「それ、なに?」
リビングに戻ると、俺の持っている肉じゃがにアカメが目を輝かせた。
「ここの大家さんから。作りすぎたんだってさ。って、結構な量だな」
大家さんから受け取った肉じゃがは器一杯に入っていて、自分用を抜いてこれだとしたら三人前は作ったのではないかと思えるほどだ。
「おいし、そう」
「だな。まだ温かいし、冷めないうちに食べよう」
大家さんから貰った肉じゃがは惣菜とは全く違う味で、うまい表現はできないが懐かしい味がした。
「・・・・・・そうか、これあの大家さんと同じ・・・・・・」
このアパートに引っ越してきたころ。今の大家さんの祖母である女性が一人暮らしの俺を気遣ってか、毎晩色々な料理を玄関の前に置いてくれていた。だが、当時の俺は自分の事で精一杯だったせいで、朝になって食器を大家さんの家の前に置いて返すだけで礼を言うことも無かった。したことと言えば、休日に小さかった今の大家さんと遊んだくらいだ。
今思えば相当な恩知らずだな。今でも墓の場所すら知らないし。
「ようすけ、ようすけ、どうか、した?」
「ん、ちょっと昔のことをな・・・・・・。気にするな」
「そう、なんだ」
湿っぽい雰囲気になりそうなのを、コップを逆さに向けてビールと一緒に流し込む。
「なぁ、アカメ」
「なに?」
「明日から料理、がんばって見るか」
よくビールと合うし、こんなにうまいなら料理するのも悪くないと思っただけ。
アカメは一瞬だけ固まったが、すぐに目を大きく開いて首を縦に振った。
「うん・・・・・・!」
約束をした後、俺とアカメは黙々と焼き鳥と肉じゃがを食べ進め、大家さんから受け取った器を洗ってその日のうちに返しに行くことにした。
「先に風呂入っとけよ。帰ってきたらローマ字の勉強するからな」
「うん。わかっ、た」
大家さんにアカメの存在がバレると、いらぬ誤解を生みそうなのでアカメは家に。
階段を降りて大家さんの家のインターホンを押す。すると、中から慌てたドタドタ、という足音が聞こえ、すぐに扉が開いた。
「ほ、穂川さん!?どうかしました!?」
「貰った器を返しに来たんですけど、明日の方が良かったですか?」
「もう食べたんですか!?全部!?」
「すごく懐かしい味で美味しかったです。ありがとうございました。これ、返しますね」
大家さんに器を返し、礼を言う。ここで何かお礼の品を渡すことが出来たら良かったのだが、それはまた後日。
「そう言っていただけると、嬉しいです・・・・・・!また持って行ってもいいですか?」
「それはありがたいです。また余った時はぜひ。・・・・・・大家さん」
「はい?」
料理も分けてもらって、お返しもまだしていない。それなのに、こんなことを頼むのは図々しいが過ぎるとは分かっている。だが、大家さん以外に頼れる人がいないのだ。
「良かったら、俺に料理を教えてくれませんか?」
「え、え、えぇ!?」
大家さんの声が周囲に響く。大家さんは咄嗟に口を押さえたが、その表情はまだ驚きを隠せないでいるようだ。
「もちろん、忙しいようなら断ってもらって大丈夫です。厚かましいお願いなのは承知してますから」
「あ、いえ、そういう訳ではないんですけど・・・・・・。急だったので・・・・・・、私でよければ喜んで!」
断られても仕方ないと思っていたが、大家さんは嫌な顔一つせずに快諾してくれた。
これなら、先に俺が覚えてアカメに料理を少しずつでも教えられるだろう。
「ありがとうございます。じゃ、夜も遅いので俺はこれで」
「あ、あの!穂川さん!」
頭を下げて自分の家に戻ろうとした俺は大家さんの声に引き留められる。
「最近、変わってきましたね。あ、変わってきたというか、少しずつ昔に、遊んでくれていたお兄ちゃんみたいに・・・・・・」
そういえば、大家さんは中学生に上がるまで俺のことをお兄さん、って呼んでたな。
「あはは、私何言ってるんですかね。すみません!おやすみなさい!」
大家さんは顔を赤らめると、勢いよく扉を閉めて中へと入って行った。
家ではアカメがまだ風呂に入ってる途中だろうか、少し残ったビールで晩餐を再開しようと考えて家に戻る。玄関と距離が近い浴室からシャワーの音が聞こえてくる。
「余ってるのは砂肝ととりポンか。二本目行くか・・・・・・?」
ビールの残りは二口程度。ちびちび飲んでも四口が限界。比率が合わない。だが、アカメが風呂から上がったらローマ字を教える約束をしている。さすがに、泥酔するわけにはいかない。
「・・・・・・終わりにしとくか」
手にしていたビールを一口で飲みきり、開いた皿を片付けて机の上を砂肝ととりポン、そしてノートパソコンだけにする。とりポンを一個口に入れてノートパソコンを起動する。
適当にニュースを見た後、連絡ソフトを開く。すると、チャット履歴の一番上にある宇宙人のアイコンが目に入った。
今日はスマホとパソコンで簡単なやり取りまで行く予定なので、間違えないうちにアカウントを変えておかなければ。
「ようすけ、あがった、よ?」
「おっわ!?」
突然声をかけられ、驚きのあまり手にしていたスマホを宙に放り投げてしまった。宙をくるくると回転するスマホに手を伸ばす。普段からキーボードを叩いているからか、手の動きは意外にも俊敏でキャッチすることが出来た。
「なにか、あった?」
「い、いや、何もない・・・・・・」
アカメに見えないようスマホを体で隠し、アカウントを手早く変える。そんな俺を見てい
たアカメは濡れた髪でキョトンと頭を傾けた。
「ほら、早く座れ。ゆっくりでもいいから覚えて行かないとな」
「うん」
座っている位置からズレ、ノートパソコンの前を空ける。アカメはそこにちょこんと座り、マウスに手を置いて数回振っている。アカメもパソコンの勉強には乗り気に見える。
会社のカバンから始業の前に印刷した紙を取り出す。
「アカメ、これ」
「うん・・・・・・?」
俺が差し出した紙をアカメは受け取り、その紙に視線をやった。
「これが、ローマ、じ?」
「そうそう。簡単に言えば、日本のあいうえおを海外で表したものだな」
「どうして、にほんご、だけじゃ、ないの?」
「えっと、どうして海外も日本語を使わないかって意味か?はは、俺もそう思う。ま、そこらへんは考えても仕方ないし、インターネットを使えるようになったら勉強しような」
アカメは何がなんだか分からないと言った様子で、漫画やアニメなら頭から煙が上がりそうな雰囲気だ。そんな表情に少し親近感が湧く。
「焦る必要もないし、深く考えなくていい。ゆっくり教えてやるから、気楽にな」
「う、うん・・・・・・!がんばる・・・・・・!」
アカメは胸の前で小さく拳を握り締めた。分からないことがあっても、すぐに投げ出さないところは素直に尊敬できる。
俺はアカメにアルファベット二十六文字、それぞれの大文字と小文字。平仮名のあいうえおが、アルファベットにするとAIUEOとなることなどを教えた。
そして、そこまでの読み書きを教えたところでアカメの瞼が下がり始め、眠気がピークに達したことが分かった。
「ここまでにしとくか。続きは明日な」
「うん・・・・・・。ようすけ、ありがとう・・・・・・。べんきょう、たのしかっ、た・・・・・・。おやすみ」
「おう、おやすみ」
アカメは台所へとふらふらと歩いて行き、姿が見えなくなったと思うとすぐに可愛らしい寝息が聞こえてきた。
アカメはよく礼をする子供だ。何かあるたびに、ありがとうと言う。これまでは変わった子供、程度にしか思っていなかった。だが、今日の礼は少し嬉しく感じた。まるで、教えていた自分が教師にでもなったかのような。
「・・・・・・酒が回ってるな。さっさと風呂入って俺も寝るか」
ノートパソコンをシャットダウンして余っていた砂肝ととりポンを胃に詰める。そして、服を脱いでシャワーを浴びてから玄関の布団に横になった。
玄関と台所で寝る二人。考えればおかしなものだ。
お読みいただきありがとうございます。誤字脱字報告、感想よろしくお願いします。




