07. ピットリの日常2
火曜日のこと。
研究所の廊下の突き当たりに大きな窓がある。朝日がよく差し込む場所で、研究員たちが気分転換にぼんやり外を眺める場所でもあった。
その窓の下の出窓部分に、ピットリが朝から陣取っていた。
「ピットリ、こっちおいで」
ぴっ(イヤダ)。
「こっちこないの?」
ぴっ(ココガイイ)。
ピットリは窓の外をじっと見ていた。外には中庭があり、ときどき雀や鳩が飛んでくる。ピットリはそれを目で追いながら時おり「ぴっぴっ!」と大声で鳴いた。問題は、その鳴き声が廊下に響き渡ることだった。
ぴぃぃっぴっぴっぴっ!!!
「うわっ!なんだ!」廊下を歩いていた高屋圭が、心臓を押さえながら振り返った。
「ピットリ!!声でかい!!」
「お前もなっ!」高屋が白崎についツッコミを入れた。
「ぴっぴっ!(ソトニハトガイル!)」
「何言ってるかわからんが脅かすなよ!」
ぴぃっぴっぴっ!!(ハトハトダヨ!!)
「うるさい……」高屋は耳を抑えた。
それから一時間、ピットリは外の鳥に向かって断続的に鳴き続けた。廊下を通るたびに心臓が止まりそうになると後で高屋は語った。
その日の昼過ぎ。所長が書類を持ちながら廊下を歩いていた。
ぴぃぃぃっっっ!!!!
「ぬわっ?!!」所長が廊下の壁に手をついた。そして書類を落とした。白衣の胸元を押さえて、しばし目を閉じている。
白崎が飛んできた。所長!大丈夫ですか!!」
所長は呆れ顔で白崎を見た。「またお前か、はぁ……驚いた……」
書類は辺りに散乱していた。所長と白崎が手分けして書類をかき集めた。
白崎は困った顔をし「すいません!ピットリが窓の外の鳥に向かって……」
「また、ピットリか」
「はい……」白崎は頭をかきながら言った。
所長は窓際のピットリを見た。ピットリも所長を見た。
ぴっぴっ(ア、ショチョウダ)。
「……こら、ピットリ」
ぴっぴっ?(ナニ、ナニ?)
「脅かすんじゃない、びっくりするだろ」
ぴっぴっぴっ(ソトニハトガイタンダヨ)。ぴぃぃっっーーーーー!!(マタハトーーーーー!!)
「うわっ、何だ!!白崎!なんとかしろ、やかましくてかなわん!」
「すいません!ピットリ!こっちおいで、お願いだから~」
「ぴっぴっぴっ(イヤダココボクスキ)」ピットリは、まったく動く気配はない。
ピットリを捕獲しようとしてもピットリは優雅に躱し、また定位置に戻るといった繰り返しだった。
そこを通った代田が「白崎、お前ピットリにおちょくられてないか?」と言って去っていった。どうやら助ける気はなさそうだ。
「……もう嫌だ……」白崎は項垂れながらへたり込んだ。
結局その日、ピットリは夕方まで窓際から動かなかった。




