04. カツラ事件
この日、研究所で起きたことは後に「カツラ事件」として語り継がれることになる。
ピットリが所長の頭の上に再び着地した瞬間を白崎も代田も目撃していた。そして次の瞬間も。
ぴゅっ!
ピットリが飛んだ。その小さな足には、黒々とした何かがあった。
「「あっ」」 白崎と代田の声が重なった。
所長の頭が、急に輝いた。というか露わになった。太陽の光を反射するほど見事な光頭が、そこにはあった。
そしてピットリは、所長の頭を飾っていた精巧なズラを足で掴んで部屋の中を嬉しそうに飛び回っていた。
ぴっぴっぴっぴっ!
「こっ……このっ!!!おい!待て!!」
所長の怒号が研究所に響き渡った。
ピットリはその怒号にまったく怯むことなく、廊下に向かって飛んでいった。ドアが開いていたのだ。
「まっ、待てぇぇぇぇぇぇぇ!!」
輝く頭で所長が廊下に飛び出した。
白崎は三秒フリーズして飛び出した。
「ピットリ!待って!こらピットリ!」白崎が後を追った。
代田はその場に残り、ゆっくりと壁に手をついた。
廊下では大追跡劇が繰り広げられていた。
ぴっぴっ!
ピットリは廊下をふわふわ飛びながら、所長のズラを足に引っかけたまま飛んでいる。なんとも言えない優雅さだ。
「白崎っ!早く取り戻せ!」所長は必死だ。
「はい、すいません!ピットリ!こっちおいで!」
そこに通りかかったのは、上条奈々と資料を抱えた同僚の高屋圭(三十五歳)だった。
「……白崎さん?所長?なんで廊下で……あれ、所長の頭……?」二人は驚きながら、所長の頭を凝視した。
「見るなっ!見るんじゃない上条!高屋!」所長は顔を赤くし頭を隠した。
「高屋さん!ピットリを捕まえて下さい!あの丸いやつっ!」白崎は指を指しながら言った。
「えっ?あの丸いの?なんか持ってるな……あれって、所長のカ——」
「バカ!言うんじゃない!」所長は更に顔が赤くなった。
ピットリはぴっぴっと楽しそうに鳴きながら、ロビーの方向に飛んでいった。
ロビーには訪問客が三名いた。他大学の研究者らしく、スーツを着て受付で待っていた。
そこへ飛び込んでくる謎の丸い生き物とそれを追いかける禿頭の所長と「ピットリ!ピットリ!」と叫ぶ白崎。
「……」 訪問客たちは沈黙した。
「これは!えー!研究所の!実験の一環でして!!!」と所長が狼狽えながら叫んだ。
ぴっ!
ピットリは天井に取り付けられた照明の上に着地した。そして所長のズラを照明の上にちょこんと置いた。
ロビーの全員が見上げた。
天井の照明の上に、黒々としたものが乗っていた。




