16. ピットリと所長
カツラ騒動から一週間が経った。
ある夕方、白崎が実験室に残って論文を書いていた。ふとピットリがいないことに気づいた。
「あれ、ピットリ?ピットリどこだ?」
実験室を見回したがいなかった。廊下も見たが、いないようだ。
「まさか……」白崎はふと脳裏をよぎる。嫌な予感がして白崎は所長室に向かった。所長室の扉が少し開いていた。身を潜めその扉の前に立ち耳を澄ませた。中から、かすかに声がした。
ぴっぴっぴっ(ショチョウアソビニキテアゲタ)。
「おい、ピットリなぜお前がいる?……高屋の奴、書類提出してきたときに扉を閉め忘れたな。はぁ……今度は何しにきたんだ」所長は眉をひそめてピットリを見た。
ぴっ?(ナニ?)
「どうも……お前を見ると調子が狂うな……まったく少しはいい子に出来ないのか」所長は困惑気味に首をさすりながら言った。
白崎は扉の前で固まった。いつもの圧力がある所長の声とは違い、ピットリに向けている声は優しいように思える。
「ピットリ、肩に乗るのは構わんがつつくな。外見だけは愛くるしいんだがなぁ。お前の奇想天外な行動は、どうにかならんのか」
ピットリは「ぴっ」と鳴いている。白崎はそっと扉から離れた。廊下を歩きながら白崎は思った。ピットリは変わった鳥だ。光るものが好きで高いところも好き。異常な大きな声で鳴いたり、鳥ではない奇声で鳴いたりすることもある。そして他人の物をくわえていってしまったりと大変困ったやつだ。だけど、なんだかんだ言って皆に愛されているようにも思える。所長もたぶん。白崎は実験室に戻り、ピットリを放置して論文の続きを書いた。
しばらくして、ピットリが飛んできて肩に乗ってきた。
「おかえり、ピットリ」
ぴっ(タダイマ)。
「所長室には勝手に入っちゃダメだよ」白崎は苦笑いをしてピットリを撫でながら言った。
次の日から、所長はズラをやめた。所長はズラについては何も言わない。ピットリがまたやるからと諦めたのだろうか。周りの職員は空気を呼んで所長の頭の事には触れなかった。だが目線は所長の頭につい、目がいっていまう。気になるものは気になるのだ。
そして所長のズラがなぜかピットリのケースの中にあった。そのズラをピットリは敷物の様に扱っていた。
びっ~(ツヤツヤ~)
その中でピットリだけは嬉しそうだった。白崎は、何事もなかったかのようにそれを見ないことにした。
その後、所長と交流ある者達の来客がある度に、所長の頭に視線が集まるのは言うまでもなかった。




