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細胞鳥?騒動日記  作者: 紫乃月 聖巴


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14/17

14. カツラ事件、再び

 ピットリが生まれて一ヶ月以上が経った、ある水曜日のことである。


 この日、研究所に外部の視察団が訪れる予定だった。科学省の関係者と他大学の教授陣を含む総勢数十名ほどの一行だ。


 所長は朝から気合が入っていた。白衣をパリッとアイロンがけして、ネクタイも一段格式の高いものを選び締めていた。そして、頭のズラも普段より念入りにセットされているように見えた。


「白崎!今日は視察があるからな!ピットリはちゃんとケースに入れておけ、いいな!」

「はい、わかりました!」

「絶対だぞ!外に出すなよ!」

「もちろんです!」


「いいな、お前はいい子にしてるんだぞ!動くんじゃないぞ!」所長はピットリに指をさして言った。

 ぴっぴっ(ワカッタヨ)。

「……不安だ」所長は一抹の不安を感じていた。


 午後一時、視察団が到着した。


 所長が正面玄関でにこやかに出迎え研究所内を案内し始めた。研究員たちも緊張した面持ちで立っている。


 白崎はピットリをしっかりとケースに入れ、さらに念のためケースの上に重しとして分厚い論文集を乗せておいた。


 これで完璧だと白崎は思った。


 ぴっ(アマイヨ)。


 視察が始まって一時間が経った頃。


 白崎は視察団に自分の実験を説明していた。顕微鏡のデータを見せながら幹細胞の培養について話している。


 視察団の教授の一人が質問した。


「これは、どのような培養条件を……」


 その時。


「ぴぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!!!」


 全員が固まった。白崎が振り返ると自分のデスク横の引き出しの中が飼育ケースとともに激しく揺れていた。


「すみません……どうも研究所の鳥が……ちょっと騒いでるみたいですね」慌てながら釈明した。

「ぴぃぃっっっ!!!!!!!!」

「少々うるさくて……」

「少々……」視察団の関係者達は、鳴き声が聞こえる場所へ視線を向けた。


 その次の瞬間、論文集が崩れ落ちる音がした。


 どさっ。


 そしてなぜか衝撃で蓋が開いてしまった。


 その隙を狙いぴゅっ!!とピットリが脱走した。


「あーーーーー!!!!」

 ぴっぴっぴっ!(ヤッターダイセイコウ!)


 ピットリは実験室を飛び出し廊下に向かった。白崎が視察団の関係者達に「ちょっと待ってて下さい!!!」と叫びながら追いかける。


 視察団は呆然と見送った。


 廊下では、ちょうど所長が視察団の別の一行を案内しているところだった。


 ぴゅーっ!


 ピットリが廊下に飛び出して所長の一行を見つけた。


 所長も飛んできたピットリを見た。


「なっ?!こら!ピットリ!!」

 ぴっぴっ!(ショチョウダ!)


 ピットリが所長に向かって飛んでいった。


「待て!!!近づいてくるんじゃない!!!」


 しかしピットリの目は、所長の頭に狙いを定めていた。


 それは黒く光沢があり、きれいに整えられたズラだった。


 ぴっぴっ!(ツヤツヤデキレイ!)


「白崎っ!白崎はどこにいるんだ!!」

「今行きます!!!!」白崎が全力で走ってきた。


 ピットリが所長の頭に着地した。


「ぬわっ?!」

「所長!動かないで下さい!」


 視察団の一行が廊下で所長と白崎のやり取りを見ていた。所長の頭の上の丸い生き物が、きょろきょろと周囲を見回している。


 ぴっ(ココイイナガメ)。

「おい、こら……!」


 所長は動けなかった。動いたら何が起きるかわかっていたから……。


「所長、今取ります!ピットリ!こっちおいで!!」

 ぴっ!(イヤダ!)

「おいで!ほらっミルワームあるよ!!」

 ぴっ?(ミルワーム?)

「ほらっミルワームだぞ~」


 ぴゅっ!


 ピットリが所長の頭から白崎の方に飛んだ。その瞬間。


 すぽん。


 所長の頭が輝き出した。廊下は静まり返った。視察団の全員が所長の頭を見た。所長も自分の頭が急に涼しくなったことに気づいた。


 ピットリの足には、黒々とした何かがそこにはあった。


「……」一同が息を吞んだ。


 白崎がピットリが咥えているズラをそっと外した。


「……所長……あの、これ……」

「……」

「……お返しします……」白崎は気まずそうに所長にズラを渡した。


 所長は無言でズラを受け取った。そして視察団の方を向いた。


 視察団の全員が目を逸らした。完璧に同じタイミングだった。


「……えー」と所長は言った。「本日は、ご来所頂き誠にありがとうございます」所長はズラを手にしたまま何事もなかったかのように続けた。


「研究所のマスコットの鳥が大変失礼を致しました。ただいまから展示室にご案内します。どうぞこちらへ」


 視察団は黙って所長についていった。しかし目線は所長の手に持っているズラにあった。


 白崎は廊下に一人残り、ピットリを見た。


「ピットリ……お前……なにしてくれてんだよ……」

 ぴっぴっ(ツヤツヤキレイ)。

「ああ、もう嫌だ……」白崎は廊下にへたり込んだ。

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