11. 所長室侵入事件
ピットリが来て三週間目のある朝のこと。
白崎が実験室で培養液の準備をしていると上条が実験室に飛び込んできた。
「白崎さん」
「なんですか?」
「ピットリが所長室に入っています……」
「はっ?!」
白崎はピペットをシャーレに置いたまま廊下に飛び出した。
所長室の扉は、わずかに開いていた。掃除のスタッフが通った後でも、ドアは完全に閉まっていなかったらしい。
「ピットリ!」
白崎が扉をそっと開けると所長室は無人だった。所長はまだ出勤していない時間帯だ。 しかし、確かに何かが動いていた。
ぴっぴっ!
ピットリが所長室の中をうきうきと飛び回っていた。なぜかこの部屋が気に入ったらしく、翼を大きく広げてぐるぐると旋回している。
「うわっ、ピットリ!早く出て!ここ所長の部屋なんだよ!」白崎は慌てた。
ぴっ(ココスキ)。
「早くこっちにきて!所長に怒られるんだよ!」
ぴっぴっ(ココキニイッタ)。
「早く、こっちに来なさい!」
ピットリは白崎の言葉を無視して所長のデスクの上に着地した。デスクの上には、書類とペン立てがある。
ぴっ!!!
ペン立ての中に金色のボールペンが一本あった。煌びやかなラインが入った明らかに高級そうな品だった。
ぴっぴっぴっ!(キレイキレイ!)
「あぁあああーーーー!!!それダメなやつ!!!」
白崎が飛びかかった。しかしピットリはすでにそのボールペンを嘴でくわえて飛び立っていた。
「ピットリーーーーーーー!!」
ぴゅーっ!勢いよくピットリは飛ぶ。
ピットリが所長室から廊下に飛び出した。白崎が追いかける。
「待てっ!ピットリ!!」
「ぴっぴっ!(ヤダヤダ!)」
ちょうどその時、エレベーターの扉が開き所長が出てきた。
「白崎、廊下は走るな!」
ぴゅーっ!
ピットリが所長の前を金のボールペンをくわえたまま猛スピードで通過した。
「……なんだ今のは」
「所長!おはようございます!!そしてすいません!!今すぐあれを取り返します!!」
「何がをだ?」所長は怪訝そうな顔をした。
「ピットリが所長の金のボールペンを持って行っちゃいました!!」
所長の表情が変わった。
「はぁ?!持って行っちゃいましたじゃないだろ!あのボールペンは、社長から頂いた高級品だぞ!」
「すいません!ピットリ!!こっちこっち!!!」
ぴっ!(イヤダ!)
「ピットリーーーーー!!!」
廊下を十往復した末に、またしても白崎はミルワームで釣ることで成功した。ピットリがミルワームに飛びついた瞬間、ボールペンが床に落ちた。
白崎はボールペンを拾い、気まずそうに所長に差し出した。
「……申し訳ございませんでした」
所長はボールペンを受け取り、じっと見た。傷はないが唾液がついているかもしれない。しかし、拭いてしまえばわからない。
「……本当にな。今後、所長室の扉は必ず閉めるように全員で徹底しなさい」
「はい……わかりました」
「……ピットリにも注意しろ。あの鳥は何しでかすかわかったもんじゃない」
「はい所長、すみませんでした……」白崎は頭を下げた。
「もういい、仕事に戻れ」所長は呆れながら手をしっしっとするような手振りで白崎へ言った。
白崎が所長室を出るとピットリが肩に乗ってきた。
「ピットリ、あそこの所長室は入っちゃダメだよ」
ぴっぴっぴっ(キレイナモノイッパイアッタ)。
「いいか!ダメだぞ!」
ぴっぴっ(アレモヨカッタナ)。
「わかったのかな?」
翌日、所長室の扉を誰かが完全に閉めるのを忘れていた。ピットリはまた侵入した。今度は所長のネームプレート(金属製で光沢があるもの)をくわえて持ち去ろうとし、所長本人に現場を押さえられた。
「おい、こら!!!何をくわえている!」
ぴっ(キレイ)。
ぴゅーっ!
「またお前はっ!待ちなさい!!って誰だ!扉を閉め忘れた奴はーーーーーーー!!」




