棘の翼の影
前回まで:
霧の翼の陽気な日常の中で、私はセバスティアンと再び出会った。
機械の心臓に生じた異常な軋みは、まだ収まっていない。
人形であるはずの私が、なぜこんな反応を繰り返すのか。私はそれを誤作動として処理しようとしている。
朝の巡回を終えた直後、監督官から連絡が入った。
「リリアーナ、人間三年生の生徒が棘の翼で不審な行動を取っている。調査してくれ。」
「了解しました。」
私は低位の人形二人を伴い、棘の翼へ急いだ。境界の扉をくぐると、空気が冷たく変わる。薄暗い棘の翼。
中央広場では、エミリアとその取り巻きたちが少し慌てた様子で立っていた。
「エミリア様、どうなさいましたか?」
エミリアは頰を赤らめながら言った。
「ルーカス様の後ろ姿を見て、つい追いかけてしまって……迷子になっちゃったの!」
周りの少女たちがクスクス笑う。
「エミリアったら大胆!」
「棘の翼、暗くて怖いよね……」
私は穏やかに言った。
「無許可の立ち入りは規則違反です。すぐに霧の翼へお戻りください。私がご案内します。」
すると、広場の奥から声がした。
「人間の令嬢たちが私の翼に迷い込むとは、珍しいな。」
セバスティアンが現れた。
エミリアたちの視線が一気に彼に集中する。
私は礼をしながら、胸の歯車が再び軋むのを感じた。
ギギ……
魔力の流れが乱れ、指先がわずかに冷たくなる。
「ヴァン・ノワール様。この者たちは規則違反です。すぐに連れ帰ります。」
セバスティアンは近づき、低く言った。
「規則を守るのは良いが……君の心臓の音が、また聞こえるぞ、リリアーナ。」
胸の違和感が強くなった。視界が一瞬ぼやける。
私は即座にそれを押し殺した。これは異常だ。人形にこんな反応は不要だ。
「私は正常に機能しています。ご心配には及びません。」
セバスティアンは低く笑った。
「そうか。では、続きを楽しみにしているよ。」
私は人間の学生たちをまとめ、棘の翼を後にした。
道中、エミリアが私の袖を軽く引いた。
「リリアーナさん、セバスティアン様ってどんな感じ?」
「……特別留学生です。詳細は存じ上げません。」
胸の歯車はまだ小さく回り続けていた。
人形である私が、こんな物理的な異常を繰り返すのは、明らかに問題だ。
刻印がそれを強く抑制しようとしているのに、なぜか完全に止まらない。
血月の余波は、まだ続いているのかもしれない。
私はこの異常を、必ず修正しなければならない。
(第5章 終わり)
次回、学院の日常が再び動き出す。
人間と異類の学生たちの間で小さな摩擦が生まれ、私は女仆長として対応に追われる。
機械の心臓の軋みはまだ収まらない。この異常は、いつまで続くのだろうか。
人形として、私は秩序を守らなければならない。
(第6章へ続く)




