ツクリテ工房に行く ー 手押しポンプの修理
今日はツクリテ工房に行く。
目的は「金庫」を作ってもらうため。そろそろ稼いだお金の置き場をしっかり考えないといけない。
ラインフォード商会は大抵のものは揃うので「一般的な金庫」は売ってるけど木製だったり小さいものだったり。
だからツクリテ工房のゲンゴロウさんに「特注の金庫」の製作相談をする。鋼鉄製の分厚い奴を希望だ。
「おお! お前さんか!」
ゲンゴロウさんはこの町の職人の代表みたいな人でドワーフ族。ドワーフといっても髭が濃くてずんぐりむっくりなだけでいわゆる人族とそんなに変わらない。
そしてこのツクリテ工房は職人さんが十数人もいて町の中では1番規模が大きい。そこの主がゲンゴロウさん。
「お前さんの噂は聞いてるぜ。若えのにかなり優秀らしいな! がっはっは!」
いやあ自分に出来る事をやってるだけっす。ところで今日は相談があって来ました。
「鋼鉄の金庫か。確かに商会の金庫はちゃちいのしか売ってねえからな。」
そして色々相談してこの工房で「鋼鉄のがっちりした金庫」の製作をやってもらえる事になった。ちょうど素材となる「鉄」が大量に調達できるらしいから。
基本的に「鉄の調達」は鉱山から鉄鉱石を採ってくるか鉄系モンスターの素材をそのまま使うかの2択だそうだ。
で、この港町はちょうどダンジョン特需の真っ最中で鉄を外殻に持つモンスターの素材が大量に入ってきている。だから製作納期はあるけど割と早めに鋼鉄の金庫を作って貰える事になった。やったぜ。
話もまとまったのでこの工房を少し見学する。
ムキムキの職人達が剣とか鎧とかの武器や防具を作ってたり器用そうな職人が鍋や農具なんかの生活用の道具を作ってたりの活気溢れる空間だ。
で、気になる物が工房の片隅に転がっていた。
これは……「手押しポンプ」か? 井戸水をレバーで汲み上げるポンプだ。
この手押しポンプは錆び錆びのボロボロなんだけど気になるのがこのポンプは各部位に「六角ボルト」とか「ナット」とかを使用している事だ。
この世界にもこういう部品があるのか。ボルトのねじ切りの技術があるとは。と思っていたらゲンゴロウさん曰く、
「こいつはかなり昔に謎の異邦人がこの町に置いていったものらしいぞ。今は壊れて使えないがな。」
へー。謎の異邦人か。
よく見ると錆び錆びのナットに謎の記号が書いてあるけど戦艦を修理してた時に見た六角ボルトのと同じ感じにみえる。このポンプはあの戦艦から来たのかな?
で、この壊れたポンプはどうするのか? とゲンゴロウさんに聞いたら謎の部品が多くて誰も修理できる目処が無いからそのまま転がしてあると。
なるほど。じゃあ俺が修理しようか? 公共の物みたいだから別にお金を請求したりはするつもりはないし。
「おっ、修理出来るか! じゃあミズ! デンダを手伝ってやれ!」
ゲンゴロウさんの娘ミズちゃんが手伝ってくれる事になった。
「何でも言ってください! デンダさん! よろしくお願いします!」
娘さんはゲンゴロウさんとは似てない可愛らしくて真面目そうな女の子。でも重いポンプを片手でヒョイと運ぶから細腕に見えても筋肉はある感じ。これがドワーフ族の女の子か。
で、ポンプの状態を確認するとまず水を汲み上げるキモとなるシリンダの部品が無かった。確か名前は「木玉」だったかな。それが無い。他の部品の吸い上げパイプ (鋼管)や逆流防止の弁なんかは有るが全体的に錆びたりしている。
だからやる事は錆び取り汚れ取りの整備に加えて「木玉」を作ることかな。その作業をミズって女の子と一緒にやった。
まずはポンプの分解。
錆びてはいるがボルトナットは少し叩けば外れた。
「はー、そこを六角棒で回せば外れるんですね!」
そして各部品の錆び取りと清掃。
万能工具で「サビ取りクリーナー」を出す。
「この匂いは……お酢ですね! お酢でサビがとれてる!」
錆び取りクリーナーはお酢っぽい液体だ。それを各部品にかけてサビを取る。サビが剥がれたら俺が「プラスチックブラシ」で大まかに掃除する。そしてミズが「ウェス」でピカピカに仕上げる。それを流れ作業でやっていく。
基本的に部品はステンレス製のようでサビは「もらいサビ」と小さな傷が原因によるサビ。だから部品はサビを落として傷を修復すればほとんどが再利用できそうだ。
次は細かい傷を消す。
ほとんどが小さい傷なので万能工具の「サンドペーパー」でポンプの内外を研磨する。目の粗いサンドペーパーで磨いてから目の細かいものに変えていく。これもミズと分担した。(内部は万能工具の回転ブラシで掃除した。)
このミズちゃんとの作業はすごくやりやすかった。ミズちゃんはわからない事は俺に聞くにしてもこちらのやりたい事をかなり察して動いてくれるし何より手際がすごく良い。
「すっごくピカピカになりました!」
しかも明るくて良い子。
次は「木玉」の作成。
名前の通り材料は「木材」だけど木で作るとあらかじめ水で濡らして膨張させる必要がある。それをしないと使い始めてから木玉が膨張してシリンダ部分がつっかえる。
だから木玉の材料は木を使わずにガラクタ置き場にあったクズ鉄に加えて万能工具の「シリコンガン」などで適当に作る。
基本的に2人で作業してたんだけどこの「木玉」を作り始めてからギャラリーが増えた。他の職人さんやゲンゴロウさんが見に来た。
そして色々と質問してくる。「それは何をしてるんだ?」「この部品は何だ?」「どうやって動くんだ?」などなど。
職人さん達もこのポンプに興味があったみたいなので構造や機能について色々と教えた。彼らはやっぱり「自分達に作れる代物かどうか」を気にしてるっぽい。
彼らが特に興味を示したのはまず「木玉」のシリンダ部分。この木玉が縦に動いて水を吸い上げてるのだけどこの部分がしっかり作られてないと「つっかえて動かなくなる」または「隙間が大きくて水が漏れる」などの事態になる。
次に興味を示したのが逆流防止の弁。これが無いとポンプ内に水が貯まらずにポンプを使う度にいちいちポンプ内に「呼び水」と言って水を貯める必要がある。
その構造と機能を説明するとさすが職人さん達ですぐに理解した。しかもその機能を発揮するために「どういう品質」で作ればよいかもなんとなく察しているようだった。
職人さん達はシリンダ部分の「円筒度」を同じように厳しく作れるか? を談議していた。そういう部分が気になっているみたい。
で、部品を組み上げて「手押しポンプ」が完成すると軽く歓声が起きた。後はこれを井戸に設置して試運転をすれば完了……と思ったらゲンゴロウさんから一つの提案があった。
このポンプの技術をツクリテ工房に売ってくれないか? という話をゲンゴロウさんにされた。しかも金貨50枚は出すという話も出してきた。
いやいや、もともとこのポンプは町にあったもんだしこの技術は謎の異邦人さんのもんで俺の技術じゃないからと、とりあえず断った。
でも少し渋られた。だから妥協案としてこのキカイの構造と技術の説明をするという「鑑定料」として少しだけのお金をもらう事にした。なんか俺が発明したわけじゃないものを売るってのは少し気がひけた。
「若えのに殊勝な奴だな。じゃあどうだ? ウチのミズを嫁に貰うか?」
ゲンゴロウさんにとんでもない事を言われた。
「うぇっ! ちょちょ、お父さん!」
ミズちゃんも困ってアワアワしている。
「大将がこんな事言うの初めてじゃね?」
「仕方ねーべ。このあんちゃんは若えのにウデがすごいもん。」
職人さん達にもザワザワされた。
ミズちゃんは確かに可愛いけどすみませんが既にレーンという彼女がいますと断った。
あー、びっくりした。
ーー
数日後、鋼鉄製の金庫が修理工房に届いた。有難い事にゲンゴロウさんのサービスですごく早くやってもらえたようだ。
またその後、作り手工房では手押しポンプが量産されてこの町の全ての井戸に取り付くようになった。町が便利になったのは良いことだ。
そして俺はツクリテ工房の職人さん達に一目置かれるようになり、ありがたい事に技術相談をお互いにする間柄になった。




