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273 黒龍VS白龍



 ――騒動も静まりひと段落。

 そう思っていた矢先に届いた知らせ。


 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 息を切らせながら自転車を漕ぐヤマト。

 そろそろ本気でゆっくり休みたい中での更なる移動。

 女神の使い魔としての体力も、底が見え始めている状況で向かう先。


 「龍の背に乗せて貰えれば良かったんだけどねー。さっさと飛んで行っちゃうんだもの」


 精霊アリアのちょっとした愚痴。

 向けれるのは一足先に空から向かったブルムンドラとブルガー。

 知らせを聞いて一目散に、誰よりも先にそこへ飛んで行き、できれば乗せて欲しかったヤマト達はそのまま置いて行かれた。


 「あー、見えて来た、かしらね?」


 そうして進む自転車の先。

 まだ小さな豆粒程度だが、新たな騒動の現場が見えて来た。


 「この距離でも圧を感じる。流石龍同士のぶつかり合いってところね」


 近づくほどに強くなる力の圧。

 その姿も大きく見え、ヤマト達にも緊張感が伝わってくる。


 「あ、ブルガー達ね」


 そして先んじたブルガーとブルムンドラの姿も見えた。

 その現場を二人並んで見つめ続ける。

 他にも、何体かの龍が地に足をつけ、その光景を見上げている。


 「はぁはぁ…着いた」

 「おつかれさま」


 ヤマト達もその現場に合流。

 龍たちと並んで空を見上げ、戦いの景色を眺める。


 「ふぅ…本当に戦ってるのか、新しい龍主と、シュルトリアが」


 そこに舞うのは黒の龍と白の龍。

 黒い方は新たな龍主となったベルゼルオウ。

 対する白い方は龍主候補でもあったシュルトリア。

 二体の龍は龍本来の姿で空を飛び舞って、そしてぶつかり攻め合う。


 「で、これは何の戦いなの?試しとやら?それとも決闘?」

 「…そんな上等なものじゃない。龍主の座を賭けた戦い、だそうだ」

 「は?」


 アリアの問いに答えるブルガー。

 曰く、これは〔どちらが龍主になるか〕の決定戦。

 

 「これ、シュルトリアが勝ったらまた龍主変わるの?」

 「周囲が納得するかは別にして、少なくとも龍主様、ベルゼルオウはそれを認めてこの戦いを受けてる」

 「充分上等な戦いじゃないの」

 「戦い…になってたらそうかもな」

 「え?」

 「一方的…かな」

 「あぁ、相手になってない」


 勝てば龍主交代の重要な戦い。

 可能性のある戦いであったなら、見守る者たちも龍主の、龍界行く末に不安を感じハラハラしながら見守っていただろう。

 だが、見守る龍たちは誰もがその結末を、龍主の勝利を疑わない。

 生半可には覆る事のないほどの力の差が、今の両者には存在するゆえに。

 

 「元々ベルゼルオウの方がシュルトリアよりも強かった。それが龍主として継いだ力で底上げされれば、差は一方的。真っ当に戦ってたら結末は誰もが予想できるものにしかならない」

 「何か奥の手あるんじゃないの?」

 「かもしれないが…」

 「多分、ないんじゃないかな?あっても使う気はなさそう」

 「ヤマト?」


 戦いは圧倒的に龍主の優勢。

 覆すには奥の手が必要。

 だが…ヤマトが感じた気配は、そんな秘め事を感じさせぬ愚直な感情。


 「個人的な感覚でしかないんだけど、そういうの無しにただただまっすぐ挑んでるように見えるんだよな。シュルトリアは」

 「まぁ…俺もそう見えるわ」


 見る者が薄々感じ始める。

 シュルトリアに勝算などない。

 ただただ愚直に、まっすぐに挑み…当然のように敗北するという未来予想が確信として抱かれていく。


 「あ、それは…」


 そして見守る空中戦に決定打。

 シュルトリアが致命的とも言える一撃を受ける。


 「ん、耳が…!」


 龍の咆哮。

 シュルトリアの叫びと、ベルゼルオウの威圧。

 二つの最後の叫びが龍界に響く。


 「…勝負あり、だな」


 そうして二体の龍の戦いは決着する。

 下馬評が覆ることはなく、そのまま皆が予想した通りの結末。

 飛び続ける力を失ったシュルトリアの、龍の巨体が地に落ちる。


 「わっと」


 周囲に響く地震。

 同時に上がる砂煙。

 龍の姿も見えなくなるが、すぐに風に吹かれ視界は晴れる。


 「グルゥ…」

 「…ブルムンドラか…そうか、負けたか」


 僅かな間、意識を失っていたシュルトリア。

 彼が目を覚ました時に見える景色は、龍や龍人や人や精霊に囲まれた景色。

 すぐに状況を理解して、自身の敗北を悟る。


 「はぁ…やっぱこんなめんどうなことはしない方がいいな。全身痛くてめんどうこの上ない」

 「なら何でこんな戦いを…」

 「…魔王を倒したかったから」


 そしてようやく語られるシュルトリアの理由。

 わざわざ周囲に嫌われるような行為であることを知りつつそれでも行った龍主への挑戦。 

 その理由はシンプルなもの。


 「俺の平穏のんびり生活をボロボロにしやがった魔王のやつらを倒す、龍の総力で仕返し(・・・)してやりたかったんだよ。龍を、龍人を、自然を、色々台無しにしやがったやつらに落とし前をつけさせたかったんだ。龍種(おれたち)の手で」


 本来、龍は魔王との戦いに不干渉。

 些細な支援程度はしていたりするが、自らの力を振るうことはない。

 大昔、最初の魔王の出現時から一貫して変わらぬ龍達のルール。

 だがそれも現役の龍主の一言で変えることが出来る。

 シュルトリアが欲したのはその権限。

 龍たちを魔王との戦いに本格参戦させる為に、自らが龍主になりたかった。

 それほど今回、自身の故郷を好き勝手現れたことに怒っていたようだ。


 「意外だな。仕返しとか復讐とかもめんどうとか言いそうなのに」

 「めんどくさがりってただの怠惰や冷血じゃないぞ?本当にやるべきことはやる。守るべき情もある。まぁ負けたからどうしようもないけどなー」

 「あぁそうだな。その通りだ」 

 「…ベルゼルオウ」


 すると皆のもとへ降り立つのは、人型に変わったベルゼルオウ。

 戦いの勝者がシュルトリアのもとへ歩み寄る。

 

 「これまで通り、俺は(・・)手を出すつもりはない。攻めて来る者には容赦しないが、わざわざ外にまで手を掛けるつもりはない。例え世界が滅ぶとしてもだ」


 告げられるのはこれまでの龍主と変わらずその方針。

 シュルトリアの願いとは反する意思表明。


 「シュルトリア、起きれるか?いや無理にでも起きろ。お前に見せたいものがある」

 「え?見せたいもの?」


 だがそんな龍主ではあるが、何かシュルトリアに見せるべきものがあるようだ。


 「ついでだ。ブルムンドラ、ブルガー、それと…そっちの女神の使い魔、精霊、女神の端末。お前らも付いて来い」

 「え?俺たちも?」


 そのうえでヤマト達へも同行を呼び掛けて来る。

 そして一行は戦いの場を離れ、当たらな龍主に導かれてある場所へと辿り着くのだった。



 

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