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271 スライム戦のあとしまつ 



 (――この光景、前にも見た気がするなぁ)


 静かな大地。

 喧騒も砂嵐も過ぎ去って、ようやく休める時が来る。

 ヤマトが見つめるのは大地に開いた大きな痕跡。

 綺麗な半球状に切り取られ出来たクレーター。


 (ロドムダーナ。あそこもこんなクレーターになってたし、強い力を目にした後はこんなのばっかだなぁ…)


 ダンジョンの町、ロドムダーナ。

 あの場での暴走魔人と未知の存在の戦いの末も、規模は違えどこのような大穴が空いた大地が残されていた。

 あの時は町と共に地下のダンジョンも終わりを迎えた。

 ただ…今回のクレーターが飲み込んだのはあくまでも大地と大気と龍スライムのみ。

 何かしらの建造物があったわけでもなく、更に消えた範囲も言うほどには広くない。

 

 「こっちは何もなし」

 「こっちもだな」

 「あ、こっちも問題ありません」


 そんなクレーターを前にして、ヤマトらは残敵の確認を行っている。

 真龍魔法、消滅の魔法は確実に龍スライムを飲み込んだ。

 だがその全てが飲まれたかどうか、カケラでも残っていないかの確認は必須。

 あの再生能力、捕食強化能力を考えれば一片の生存が再びの惨事に繋がりかねない。

 ゆえに丁寧しっかりと痕跡探しを、愁いをしっかりと取り除く。


 「反応なし、目視も見当たらず、逃げたような痕跡も無し。しっかりと消えたと判断していいだろう」


 そして調査結果として、龍スライムの完全消滅を認めることとなった。


 「あのおかしなスライムが本当に綺麗に消え去った。凄いわね。あの魔法」

 「真龍魔法は別格の特別製。むしろ対価を鑑みればこのぐらいはやってくれないと、龍人としては割に合わない」


 あれだけ魔法に強く頑丈だった龍スライムがカケラも残さず消え去った。

 他者が感嘆する真龍魔法の性能威力。

 とはいえその強力さは、あくまでも龍人の対価支払いあってもの。

 人によっては安い対価と言う者も居るかもしれないが、しかし龍人には文字通り身を削る対価。


 「どうだ?どうなってる…」

 「縮んでるな、お前の角。でもそれ以外は特にかな」

 「そっか、なら仕方ない。むしろお前の方が重く出たな」

 「いいさ、長く飛べなくなっただけでひょろっと飛ぶぐらいは問題なさそうだし」


 そんな龍人たち、儀式に参加して龍の因子を捧げた当事者たちが集まる場へとカイセらも合流する。

 余波の影響を含めての仮設治療所として機能させているこの場では、個々に儀式の影響の確認も行われていた。


 真龍魔法は龍人の持つ龍の因子を消費する。

 人数で分割したおかげもあり、個々の影響は小さなものになった。

 だがその影響は決してゼロではない。

 人の体をベースに発現していた龍の要素。

 それが薄まる人ことで、明確な見た目の変化を起こした人々も多い。

 特にそれが龍の翼などに現れた場合は、今まで行えていた飛翔にも影響が出るのは当然の流れ。

 

 彼らの持つ誇りを削り取った魔法。

 だがそれが無ければあの龍スライムは倒せなかった。

 あそこで倒せなければジリ貧、より多くを喰らい続けたことだろう。


 (龍スライム、魔法の効かない存在。ここだけ唯一の…なんて甘く考えてはいられないか)


 その脅威は出来ればここ限りのものであってほしいとヤマトは願う。

 しかし現実を鑑みれば、もう一度あれと対峙する可能性を無視するわけにはいかない。

 ヤマトの主力である魔法。

 それが効かない相手。

 かつての"魔法殺し"とはまた別の天敵。

 

 以前に出会った魔法無効の体質持ちは良し悪し関係なく全ての魔法を拒む。

 それは自身が魔法を発することも出来ない欠点も持つ。

 しかし今回の龍スライムのそれはあくまでも魔法に滅法強いだけ。

 仮に龍スライムが魔法の力を扱える存在だったなら、こっちの魔法は効かないのに相手は魔法が使い放題という理不尽を浴びせられることになっていただろう。

 

 (幸いそれはなかったけど、今後もそうとも限らない。どう考えて魔王勢力、魔人側由来のそれがまた遭遇する可能性も視野に入れてやっぱり何かを…)


 元々魔法殺し以降は少なからず物理攻撃手段を増やしているヤマト。

 だがそれらも今回は十全に効いたとは言えない。

 

 (そもそも、消滅魔法って魔法耐性貫通するのか。でも、使い魔ポジションでもあれの個人再現は流石に目途も経たないし…はぁ、課題ばかりが増えてく気がするな)


 そうして内心で頭を抱えるヤマト。


 「すまんヤマト。動けないやつらを運ぶの手伝ってくれ」

 「あ、はい!」


 だが今すべきは後片付け。

 戦いは決着したものの、ここにはまだお仕事が残っている。


 「これは何だ?こんな細い棒の組み合わせで思い荷車を引いていけるのか?」


 龍人たちの注目を集める自転車馬車。

 消耗が大きな龍人を運ぶ荷車として出した運搬道具。

 当然初見となる龍人たちは、その奇怪な引手に困惑する。


 「連絡役も乗せて頂けますか?」

 「あ、乗れる限りは何人でもどうぞー」


 乗り込む龍人の運び手。

 色々考えることはあるが今は目の前のお手伝い。

 怪我人、消耗者、自力での移動が難しい人々。

 本来の運び道具は余波で破損したのもあり、一番早く多くを運べる手が正にヤマトのそれだった。

 

 「それじゃあ出ますよーよっと」

 「うぉ、動いた!?」

 「しかもはやい!?」


 そして漕ぎ出すいつもの自転車。

 その奇怪な動力により動き出す馬車に更に驚く龍人。


 「ヤマト、貴方大丈夫なの?」

 「いやまぁ、ちょっとしんどいけどこうして体を動かすだけならね。戦いは流石に無理」


 なおそんな運び手のヤマトも、最後の守りで戦う力を使い尽くしている。

 軋む体と大きな疲労感に僅かな魔力。

 龍人が驚いた自転車の速さも本来の万全の速度には及ばない。


 「でも、ひとまず騒動は静まった。後はやる事やってゆっくり休むさ」


 それでも後片付けのお手伝いを続けるヤマト。

 ここが最後の踏ん張りどころ。

 既に魔人もスライムも既に居ない。

 この後のゴタゴタは山ほどあるが、直近の危機は去ったのだから休みの時まであと少し。


 「ありがとう、助かったよ」

 「いえ、あ、気をつけて降りてくださいね」


 そして辿り着いたの龍人たちの住まい。

 帰還者たちの存在を迎える為に顔を出す人々に、運んできた負傷者たちを引き渡していく。


 「ふぅ…さてもう一周」


 それで終わり、でも良かったのだが、せっかくなので来た道を引き返しまだ残る他の人々の運搬にも手を貸す。

 あっちこっちで人手不足の中、まともな迎えすら送る余裕のない状況。

 動ける人手として動き回る。

 

 「そういえば龍たちは何をしてるの?全く見ないけど」


 そんな中で姿が見えぬ龍たち。

 負傷している個体ら以外の龍が何処にも見えない。

 彼らの手を借りれればもっと手早く済む運搬作業なのだが、いつの間にやら無事な者たちはどこかへ消えてしまっていた。 


 「困難は去った。だから…龍たちはゆくべき場所に集まってるだろうな」


 龍界としての危機は去った。

 ゆえにこそ彼らは然るべき場所へ向かった。

 龍主の死と、新たな龍主の誕生。

 彼らのやるべきことはまだこれからが本番。


 「龍主か…むしろここからが大変か」


 ひと段落した騒動も、しかしその後の龍主絡みの新たな大騒動が目に見える。

 急な引き継ぎと予定外の死。

 起きる混乱は明確で、一難去ってまた一難。


 ――だが、それは龍だけの話に限らず。

 ヤマト達の戦いの裏で人側にも、また別の騒ぎが起きていることにまだこの場の彼らは気づけずにいた。

 

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