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270 消滅の余波




 「――みな…よく耐えた」


 真龍の儀式魔法。

 その完遂の為に自らの身を削った龍人たち。

 今その魔法の準備が整った。


 「真龍解放!全員即時退避!絶対に巻き込まれるな!」


 そして儀式に参加していた面々は一目散にその場を離れだす。

 その強力さに巻き込まれないようにと全力で遠くへと駆けていく。


 「ブルガー!もう良い!君らも下がれ!!」


 その上で盾役の足止めを担っていた龍人ブルガーや客人のヤマトらにも退避勧告を叫ぶ。

 標的との距離は当然足止め役のほうが近い。




 「――だそうだ、すぐに離れるぞ!!」


 届いた声に真っ先に反応したのはその力を知るブルガー。

 彼自身も声を出しヤマト達に更なる退避の指示を出す。


 「それじゃあ最後にめいっぱい…やぁあ!!」

 「それッ!」


 アリアとヤマトは去り際に大きめの一撃を龍の姿をしたスライムにお見舞いする。

 その一撃を最後として、着弾の確認もせずにブルガーに次いで駆け始める。

 足止め役を全うし、暴れる龍スライムに背を向けて戦場から可能な限り離れる。


 「ちなみに、真龍魔法ってどんな魔法なの!?発動効果的な意味で!」


 その駆け足の中で尋ねるアリア。

 それは肝心の真龍魔法の真相。

 龍の形を模す高威力魔法というのは理解しているが、それが炎によるものなのか氷によるものなのか、どういう現象を経るものなのかは知らぬまま。

 ゆえのその質問をブルガーに尋ねた。


 「原理は知らない!ただ一定空間のあらゆるものを滅する(・・・)!」


 そして返って来た答えはシンプルなもの。

 詳しい解説はなく、そもそも解明されていない現象。

 単純に対象を滅する〔消滅〕だと語る。


 「滅する?跡形もなく?」

 「あぁそうだ!防御一切関係なく範囲内全部を問答無用で滅せられる!」

 

 真龍魔法は言うなれば《消滅魔法》とでも言うべき攻撃を放つ。

 それはこの世界においてもかなり稀有な魔法。

 

 ヤマトが幾度か使った《獄炎弾》はあくまでも燃やす魔法(・・・・・)である。

 超高火力の魔法で対象を燃やし尽くして跡形もなく消し去る。

 相手の抵抗次第ではあるが、まともに食らえば灰すら残さずに消える。

 だが起こす現象自体は燃やすというシンプルなもので〔燃やした結果に燃え尽きて跡形もなく消える〕という流れ。

 普通の火でも起こりえる自然現象。


 しかし…真龍魔法の起こす現象は文字通りの〔消滅〕。

 燃やした結果消え去るのではなく、そもそもこれを食らえば滅せられるという魔法。

 近しいのはアンデットに対する浄化魔法であるだろうが、あれも〔浄化した結果として対象が跡形もなく消え去る〕もの。

 対して真龍魔法は〔燃える〕〔浄化される〕の位置に〔消滅する〕という一足飛びの結果があてがわれる。

 この差は『触れたら終わり』という、一種の"一撃必殺"と呼ばれる形であからさまな差が生まれる。


 「しかも防御不可だ!あれは発動した時点で『設定座標を起点に周囲どれだけを滅する』という結果が確定する!間にどれだけ障害物があろうとも関係ない!範囲指定で示された場を丸ごと全部消し去る!だから対処法はその前に指定範囲外に逃れるしかない!」


 さらに言えば魔法が完成した時点で、指定範囲の消滅は確定しているという。

 完成すればキャンセル不可、同時に防御も意味をなくす確定即死の消滅攻撃(・・・・・・・・・)

 それが《真龍魔法》という常識外の力。


 「じゃあ、私たちはともかく儀式してた彼らまで逃げてるのは儀式の場まで範囲内に指定されてるってこと?自滅しないそれ?」

 「違う、確かに範囲は広めにとってるだろうが彼らのところは流石に範囲外のはずだ。足止めでスライムのそばに居た俺たちはともかく彼らは安全圏だし、俺たちもここまでくれば範囲外のはずだ」

 「じゃあなんでまだ逃げてるの?」

 「安全圏なのはあくまでも消滅の範囲だけだ。その後の余波(・・・・・・)は別問題なんだ!」


 指定範囲確定消滅魔法の《真龍》。

 逆に言えば指定範囲外には消滅効果は決して及ばぬことが約束された、安全といえば安全な魔法でもある。

 だがそれはあくまでも〔消滅〕という現象に限ったもの。


 「…消滅って…もしかして何もかも(・・・・)?」

 「何もかもだ!スライムも、土も木も大地も岩場も空気もだ!」

 「あー…」


 その話を聞いてヤマトが訪ねた質問。

 答えを聞いて今も逃げる理由を理解する。


 「来るぞ!全員何でもいいから掴まるなり踏ん張るなりして耐えろ!」


 そうして始まった真龍魔法。

 ふと後ろを振り向けば、そこには巨大な龍の姿。

 正確には〔龍を模した魔法〕の現出。

 光を纏う白色の巨体龍。

 龍の輪郭はあれど目も鼻もない。

 誰でもない白光の龍。

 目のないその体が向く先にあるのは、標的として設定された龍を模したスライムを起点とした範囲。

 その範囲が唐突に…球状に完全消滅(・・・・)した。

 龍が現れたこと以外に起こりは全くなく、本当に突然範囲内の何もかもが消え去った。

 龍スライムの巨体は一瞬で消え、大地には大きな半球クレーターが出来上がる。


 「で…うぉおお!!?呑まれる!!?これなら…結界を!」


 すると直後に巻き起こるのは暴力的な嵐。

 龍スライムがいた場所目掛け、まるで全てを飲み込もうとするように風が吹き荒ぶ。

 

 (あのクレーターの一帯全部の空気が丸ごと消え去った。空間の大穴。何もなくなったその場所に周囲の空気が流れ込む、そしてこの強烈な風の吸い込み現象。予想はしたけどここまで強いのか!)


 空間の大穴を一秒で早く埋め尽くそうと移動する大量の空気。

 これは消滅後の影響として、あくまでも真龍魔法の範疇の外にある現象。

 堪えきれない砂や石は簡単に風に巻き上げられ砂嵐のような凶器にも変わる。

 

 (結界に砂嵐が…削れてく!)

 

 ヤマト一行は展開された結界の内側に身を隠す。

 吹き荒ぶ風を遮断し、巻き上げられる土砂の暴力からも身を守ってくれる安全地帯。 

 しかし一つ一つは小さくとも無数の砂や石が常に結界に衝突する状況は、一撃で壊されることは決してないが最小の攻撃を無限に受けている状況と同義。

 嵐の中の結界はガリガリと削れいき、補修の為に毎秒魔力が消費されていく。


 「あれだけ大きな真龍の後だと、これほどの影響が出るんだな。鋭い風が吹くのは知っていたけどやっぱり規模が桁違いだな。キツイと思うけど耐えてくれヤマト!」


 万全ならばこの程度の負荷は問題ない。

 しかし万全ではない、病み上がり同然のヤマトにはそこそこ重くてキツイ耐久戦。

 もはや恒例の我慢の時間(・・・・・)が続くのであった。


 

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