帰り道
「…へぇ、夏休みを利用して、ここに来たんだ」
「うん。いつも都会のうるささにウンザリしていたから、ここに来るとほっとする」
「そんなものかな? ボクはずっとここにいるから、分からないケド」
他愛の無い話をしながら、わたし達は山道を下って行った。
「コムラはここら辺に住んでいるの?」
「うん、まあね。山の中の方面でね。あの神社は元々ウチで祀っていたものだし」
神社の血縁者か。
ならあそこにいても不思議じゃないけど…。
「でも随分荒れているわね…」
「ああ。もうボロいしね。拝んでいく人ももういないも同然だし、忘れられているみたいだからね」
「何だか…寂しいわね」
私がそう言うと、コムラは少し寂しそうに笑った。
「…しょうがないよ。時代ってものだよ」
そう言うコムラの方が、都会的な考えだった。
楽しい時間はあっという間で、すぐに山のふもとへ出られた。
「ここからなら帰れる?」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
にっこり笑うコムラを見て、胸が高鳴るのが分かる。
…このまま二度と会えなくなるのはイヤ。
「ねっねぇ、コムラ」
「何?」
私は手を握り締め、コムラの顔を真っ直ぐに見つけた。
「また、会える?」
キョトンとしたコムラの表情。
「あの神社にいるなら、会いに行っても良い? それともこの村に住んでいるのなら、お礼したいし…」
しゃべっているうちに、何を言っているのか自分でも分からなくなった。
「ボクに、か…」
コムラは静かに呟いた。
…ヤバイ。この反応はマズイ。
がっついていると思われた、絶対。
……いや、実際には必死だ。
彼とこのまま別れたくなくて、心が騒いで仕方無い。
「うん、良いよ」
「えっ?」
「神社には毎日いるから、ヒマな時にでもおいでよ。森の中を案内してあげる」
そう言われても、すぐに返事が出来なかった。
信じられないぐらいの好反応。
って、ぼーっとしている場合じゃない!
「うっうん! 毎日、遊びに行く! 明日はお礼を持ってくるね!」
言うだけ言って、わたしは駆け出した。
顔が火照っているのが分かったからだ。
走るわたしを見て、コムラは笑顔で手を振ってくれた。
―だから知らなかった。わたしが去った後、コムラに話しかけてきたモノの存在に―
「随分、可愛い子だね」
声をかけられた途端、コムラの表情が険しくなった。
「…お前が導いたのか? キムロ」
森の木の陰から、黒い髪に黒い瞳を持つ少年が出てきた。
意地悪そうに微笑む彼の表情に、コムラの目がつり上がる。
「まさか。何にもしていないのに、あの子はお前の領域に踏み込んだのさ。こっちが驚いているぐらいだ」
黒いTシャツに黒のジーンズ。闇を思わせる彼は、肩を竦めて見せる。
「まっ、中にはああいう人間もいるさ。それよりコムラ、あの子に構い続けるつもりか?」
「…夏の間だけだ。それもお前には関係無い」
「つれない言い方だな。お前にとって、俺は幼馴染とも言える存在だろうに」
「ふざけるな! 人間関係を持ち出すな。鳥肌が立つ」
「つれないこと」
キムロは軽く息を吐き、コムラに背を向けた。
「まっ、せいぜい面倒を見てやることだね。この森がどんな場所なのか、あの子は知らない。無知とは恐ろしいものだということを教えてやれよ」
「黙れっ!」
キムロはにやっと笑い、その場を去った。
残されたコムラは歯噛みする。
「…守ってやるさ。この森から、な」




