出会いは山の中
夏休みを利用し、わたしは父方の田舎に泊まりに来ていた。
山に囲まれその土地は夏でも涼しく、過ごしやすいからだ。
しかし…涼しいだけで、何も無い土地でもあった。
自然を相手に遊ぶ歳でもないわたしは、宿題を早々に終わらせ、毎日昼寝と散歩を繰り返していた。
ある日、山の中で昼寝をしようと思ったわたしは、山を登った。
最初は道があったのに、奥へ進むにつれ、獣道になっていく。
ほどほどでやめれば良かったものの、山には湖があると聞き、そこを目指してしまった。
だけど、と思う。
ちょっとボケてきた祖母の言うことを真に受けて良かったのか、と。
けれども進んでしまってからではもう遅い。
足が痛くなってきた頃、広場に出た。
そこは開けていて、でもそこには…。
ボロい神社があった。
思わずあんぐりと口が開くほどのボロさ。
人がこの神社を忘れ、何十年は経っていること間違い無しのボロさ。
わたしはけれども近寄ってみた。好奇心が強いことは自覚していた。
どうやらわたしは神社の敷地の横から出てしまったらしい。
獣道はいつの間にか、消えていたからまあこういうこともあるだろう。
この神社はボロいものの、鳥居やキツネの石像がある。
どうやらキツネを祀っていたらしい。
まあ山ならではの神社だろう。
昔から、ここら辺ではキツネに困らせられたと言うし。
わたしは肩を竦め、賽銭箱の前に来た。
一応、鈴もあるし引っ張る紐も繋がっている。
中の方は…と覗いて、わたしはビックリした。
一人の少年が、中で倒れていた。
…いや、寝ているのか?
よく見ると、胸が上下している。
けど…キレイなコだ。
わたしと同じぐらいの少年。
田舎には似つかわしくない、整った顔の少年。
胸が…少し高鳴った。
私は扉を静かに恐る恐る開け、中に進んだ。
埃臭く、床板は軋んだ。
ゆっくりと少年に近付き、顔を覗き込む。
ふと、気付いた。彼の顔の近くに、白いお面が転がっていることに。
手を伸ばしてお面に触れようとした時。
ぱしっ、と腕を捕まれた。
「きゃっ!?」
「…えっ? 女の子?」
無意識に掴んだように、少年はわたしを見て、眼を丸くした。
少年の色素の薄い眼と、キレイな声に心臓がうるさいぐらいに動いている。
「あっあの、ゴメンなさい。倒れていたから、具合悪いのかと…」
「…ああ、そうなんだ。ううん、寝てただけ」
彼は起き上がり、欠伸を一つ。
「あっあの…」
「うん?」
「ゴメンなさい。手を…」
腕は未だに捕まれたまま。
「ああ、ゴメン」
離された手は、とても冷たかった。…低血圧なんだろうか? 寝起きも悪そう…。
「で、キミは?」
「えっ?」
意味が分からず首を傾げると、彼はにっこり微笑んだ。
「ここに何しに来たの?」
「………迷ったの」
「…えっ?」
今度は彼の方が驚いた顔で聞き返してきた。
「湖があるって聞いて、そこに行ってみようと思ってたら、いつの間にか迷っちゃって…」
顔が赤くなるのが分かる。
「…ゴメン。ボクが寝ちゃっていたからだね」
少年が申し訳無さそうに呟いた。
「えっ?」
「あっ、ううん。それより永久村から来たの?」
「えっええ」
「なら送るよ。ちょうどボクも行こうと思っていたから」
そう言って少年は立ち上がり、お面を手に取った。
そのお面は…。
「狐のお面?」
「うん、白狐。神様とも言われている」
「ああ、この神社、狐を祀っているものね」
「…まあね」
少年は意味深く笑い、外に向かって歩き出した。
「あっ、自己紹介まだだったわね。わたしはりん」
「ボクは…コムラ。村まで話し相手、よろしく」
そう言って差し伸べてきたコムラの白い手を、私はおずおず握った。
―ひんやりと、とても冷たい手だった。




