山の主
真っ白な着物に身を包む人…ではなく、神がいた。
神社の神主さんが、祭事に着るような和装だ。
二十代そこそこに見える美青年、山の主は面を着けていなかった。
必要ない―ということだろう。
コムラの手は少し震えていた。
わたしはコムラの手を強く握り締める。
するとコムラは弱々しく微笑んでくれた。
わたしはお面の中で、微笑む。
そして、山の主の前まで来た。
神秘的な雰囲気をまとう主の周りには、蛍が飛び交っている。
主に従うように、主を守るように―。
「主、お久し振りです」
まずキムロが声をかけた。
すると主はゆっくりと振り返り、こちらを見る。
「―キムロか。久しいな」
「ええ」
キムロは緊張なんてしていないように見える。
流石は狸。
「こんばんわ、主」
続いてミトリも挨拶をする。
「ミトリも一緒か」
「うん、たまにはね」
隣のコムラが息を吸う音が聞こえた。
「こんばんは、主。お久し振りです」
「コムラもか。珍しいな。お前達、三人がそろうなどと」
「たまには良いかと思いまして」
キムロが肩を竦めて見せる。
「―そなたは?」
主の視線がわたしに向いた。
「あっ、この子はりんと言います。ボクのその、知り合いの女の子でして…」
わたしはコムラとミトリの手を、そっと離した。
まっすぐに主の眼を見る。
ミオは眼に力が表れると言っていた。
彼の切れ長の深緑色の眼は、とても美しかった。
人間を食べる神とは思えないほどに。
わたしは後頭部に手を回し、お面の紐をゆっくりと解いた。
「っ! りん、何を!」
コムラの驚きの声を聞いても、わたしは止めなかった。
そして―お面を取った。
「―はじめまして、山の主様。わたしの名前はトキワ…時環倫と言います」
―人間?
―人間だ!
―人間がいるぞ!
周囲の神々が騒ぎ立てる。
しかしわたしと主は、正面から向かい合っているだけ。
「りっりん! 何てことを…!」
ミトリとコムラが慌てる。
「あら、だって、こうすれば、あなた達とずっと一緒にいられるじゃない?」
「りん!? 何を言い出す…」
「決めてたのよ、コムラ。わたしはずっとあなた達と一緒にいたいって。―その為に、食われると言う形になってもね」
まっすぐに主を見つめたまま、言った。
「りんっ…!」
「その為に、自分の命も体も、今までの人生、これからの人生も捨てようって。わたしに関わった人達のことも捨てるって決めたのよ」
「そんな勝手に…! …バカだよ、りん」
「ええ、バカなのは承知よ。でも良いの。わたしは決めてしまったから」
たかが十七年しか生きていないのに、人生の終わりを決めるなんて大バカだ。
でも…離れたくは無い。
コムラ達と。
その強い気持ちは、揺るがない。
「りん…!」
コムラがぎゅっとわたしの手を握る。
緊迫した空気が流れる中、ふと主が口を開いた。
「―お主、似ているな」
「…はい?」
「我に似ておる」
………。
「えっ?」
わたしは思わず表情を崩した。
「―ああ、やっぱり。主もそう思われますか?」
キムロがおもしろそうに、わたしと主の顔を見比べた。
周りにいた神々、コムラとミトリも見比べる。




