祭りの夜 山の神々
人の…いや、神々の間を歩いていく。
お面を見ると、誰がどの神様だか分かる。
馬・兎・犬・猫…さまざまな神様が集っている。
コムラは狐の神様。
人を騙すと言われている狐の化身。
ならわたしは…騙されているのだろうか?
彼の優しさに…。
それでもわたしは決めたのだ。
「りん!」
ミトリの声で、意識が現実に戻った。
鳥の面を着けているミトリと、もう一人…。
「…キムロ?」
「うん、コンバンワ、りん。可愛い浴衣姿だね」
キムロは…狸の面を着けていた。
「…どーりでキムロは食えないワケだわ」
「それはどうも。何せ狸だからね。化かすのは得意なんだ」
茶色の浴衣を着たキムロと、萌黄色の浴衣を着たミトリ。
「二人とも、浴衣姿がピッタリね。やっぱり和の神様だからかしら?」
「ふふっ、アリガト。りんも可愛いわよ」
ミトリが手をつないできたので、両手はふさがってしまったけれど…二人の手を、離す気は無い。
「一応一回りしてみたけれど、…やっぱりちょっと危険なヤツも参加しているわ。気をつけてね、りん」
「分かってる」
…けれど、もう、止められなかった。
「あっ、ミオだ」
コムラが人ごみの中から、水色の浴衣を着ているミオを見つけた。
彼女は…魚のお面?を着けている。
「やあ、皆の者」
「こんばんわ、ミオ」
「…ホントに参加しよったか、りん」
ミオがお面越しでも険しい表情になったことが分かった。
「うん、言ったでしょう? 覚悟は出来ているって」
「正気とは思えんな」
ふぅと息を吐いたミオは、背を向けた。
「…気を付けよ。今宵は山の主が参加しておる」
「山の主が!?」
ミトリがぎょっとした声を出した。
「何で!? ここ数十年、参加していなかったのに!」
「気まぐれなヤツだからのぉ。りん、ヤツに見つかれば一発だ。…分かっているな?」
「…ええ」
「なら、良い」
そう言ってミオは人ごみの中に戻って行った。
…きっとミオには分かってしまっているんだろうな。
わたしの覚悟の意味が。
「…ねぇ、コムラ」
「何、りん」
「わたし、山の主様に会ってみたい」
「なっ何を言い出すんだ! りん!」
「大声出さないで、目立っちゃう」
コムラは慌てて自分の口を手で塞いだ。
「でっでも、りん! 危険だって分かってる? 山の主はとても気性が荒いの。何より…人間嫌いで…」
ミトリの声がだんだん小さくなっていく。
「―良いじゃないか」
「キムロ!」
コムラがキムロを睨み付ける。
「最後の思い出として、ね?」
キムロがわたしに微笑みかける。
…ああ、本当に狸は人を化かす。
でもわたしはあえて、化かされる。
「ええ、最後の思い出として、ね」
「りん…」
コムラが心配そうにわたしを見ている。
「大丈夫だから、ね?」
「うっうん…」
「コムラっ! 本気で…」
「いざとなれば、守れば良いだろう?」
「キムロ! あなたって人はっ…!」
ミトリがギリッと歯噛みする。
「…分かったわ。ホントにいざってなったら、りんのこと、あたしも守るわ」
「ありがとう、ミトリ」
ぎゅっとミトリの手に力がこもった。
「さて、主はあっちみたいだ」
キムロが指差した方向には…。




