祭りの夜
わたしは祖母にもらった浴衣を着て、山の麓でコムラを待っていた。
「お待たせ」
コムラが浴衣姿で来た。
彼の白い肌に、紺色の浴衣が目立っていた。
「りん、浴衣姿可愛いね」
「ありがと。コムラも似合ってる」
わたし達は微笑み合った。
「あっ、そうだ。コレ」
コムラはキツネのお面をわたしに差し出してきた。
「着けてて。ボクの力が入っているから、このお面を着けているうちは、りんが人間だってバレないから」
「…ありがとう、コムラ」
そしてゴメンなさい。
「それじゃ、行こうか」
コムラが手を差し出してきたので、わたしはお面を着けて、彼の手を握った。
「キムロとミトリは先に行ってるの?」
「うん。りんにとって、危険なヤツもいるからね。先に見に行ってる」
「今日は全員集まるの?」
「一応は。後は年末、年始ぐらいかな」
「ウチの親戚もそうよ」
お面の中でクスっと笑うと、コムラは困り顔でわたしを見た。
「今日のこと、誰かに言った?」
「言ってないわよ。浴衣の着付けは教えてもらってたから、一人で着れたの。どこかおかしい?」
「ううん、ちゃんと着れてる。可愛いよ」
「ふふっ。嬉しい」
暗い山の中、月の光だけが頼りだ。
コムラは迷わずに歩き続ける。
歩いているうちに、どこを歩いているのか分からなくなった。
いや、山の中なのは分かっているけど…。
「この山はね」
「うん」
「神社を拠点にして、各々領域があるんだ。まあ簡単に言えば、結界だね。そこに踏み込んだ者は、いろいろとあるから」
「ああ…。最初にわたしが来た時のように?」
「うん。あの時、ボクは寝てて結界の作用が出ていなかった。代わりにキムロのヤツがふざけて、キミを迷わせていたんだ。ゴメンね」
「ううん。おかげでコムラと出会えたんだもの。キムロには感謝してるわ」
「…そう言われると複雑だね。キミがこの祭りに参加したいと言い出したのは、ボクらと出会ったからだろう?」
「まあね。でも後悔はしてないわ」
やがて、祭囃子と光が見えてきた。
「りん…。最後に聞かせて?」
コムラは振り返り、わたしをまっすぐに見つめた。
「なぁに?」
「何を考えているの?」
「う~ん…」
素直に答える気は無かった。
けれどコムラは真剣だ。
「…あなた達のことしか、わたしは考えていないわ」
「ボク等のこと?」
「ええ、あなた達のことよ」
「そう…」
コムラは納得はしてなかった。
けれどわたしの手を強く握り、歩き出す。
そして、道は拓けた。
眩しい祭りの光に、明るい神々の声―。
みんなお面を付けてて、楽しそうに笑っている。
コムラに聞いたことだけど、このお祭りでは人間の姿でいることが条件らしい。
だからわたしでも、このお面を付けていれば、バレはしない。
そう―お面を付けていれば…。
「りん、こっち」
コムラに手を引かれ、わたしは―祭りに参加した。




