冒険者カイル
森を抜けるまで、俺は何度も背後を振り返った。ベルン村を出てから数日、隣を歩く冒険者はカイルと名乗った。二十五歳くらいで、面倒見が良く、話しやすい。けれど、道の段差につまずいたり、荷物の紐を結び直すのに手間取ったりと、少し抜けたところもあった。
「ヤマトって本当にこの辺の出身じゃないんだな。魔物を見るたびに初めてって顔してるよ」
「実際、初めて見るからな。俺の故郷には、こういう魔物はいなかった」
カイルは足元の小さな狐に目を向けた。「その狐は?」俺は管狐のことを、故郷に伝わる妖怪だと説明した。彼は不思議そうにしたものの、「害がないならいいか」と、あっさり受け入れた。
そのとき、茂みの奥から唸り声がした。灰色の狼に似た魔物が姿を現す。
「灰牙犬だ!足が速いから気をつけろ!」
灰牙犬が地面を蹴った。カイルは剣を抜き、正面から受けずに攻撃を流す。戦い慣れた動きだったが、灰牙犬も素早くなかなか隙を見せない。
「管狐、頼む!あいつの動きを止められないか?」
俺の声に応えたのか、管狐は地面を蹴り、灰牙犬の視界を横切った。魔物がその姿を追い、目が合ったように見えた瞬間、動きが乱れる。灰牙犬は何もない方向へ牙をむいた。
「今だ!」
カイルの剣が閃き、灰牙犬は地面に崩れ落ちた。
「今のはその狐がやったのか?」
「たぶん。目が合うと何か起きるみたいだけど、俺にも詳しくは分からないんだ」
管狐は何事もなかったように草の匂いを嗅いでいた。
さらに進むと、木の幹に深い爪痕が残っていた。地面には、灰牙犬のものとは比べものにならない大きな足跡もある。
「……この森、何かおかしいな」
カイルの表情が引き締まった。木々をへし折るような音が響き、灰色より黒に近い色の毛並みをした大きな獣が現れる。狼に似た体躯。その額には岩のようにごつごつとした角が二本生えていた。
「岩角獣…!なんでこんなところに」
カイルが剣を構える。岩角獣は低く唸り、こちらへ突進してきた。
町への道中、またしても魔物に襲われるヤマト。
カイルと二人だけで倒せるのか?




