森の異変
森の奥から聞こえた音はいったいなに……?
今後正体がわかるのだろうか
岩角獣の巨体が地面を抉りながら迫ってきた。
「右へ避けろ!」
カイルの声に従って飛び退く。直後、岩角獣の角が、さっきまで俺が立っていた場所を抉った。土と小石が跳ね、息が詰まる。
カイルは横から剣を振るった。刃は獣の胴に食い込んだが、浅い。岩角獣は身をひねり、太い前脚で地面を叩いた。カイルは距離を取るが、追撃の勢いに押されている。
「硬いな…!」
岩角獣が再び頭を下げた。その視界を管狐が駆け抜ける。岩角獣が小さな狐を追い、目が合った瞬間、足取りがわずかに乱れた。
「そこか!」
カイルの剣が肩口を切り裂く。それでも岩角獣は止まらず、再び突進してきた。管狐が反対側へ回り込むと、岩角獣は一瞬進む方向を見失ったようによろめいた。その隙にカイルが踏み込み、剣を深く打ち込む。岩角獣は数歩よろめき、地響きとともに倒れた。
しばらく、俺たちは動けなかった。
「危なかった…」
カイルは息を吐き、剣についた血を払った。「あの狐がいなかったら、俺の剣は通らなかったかもしれない」
管狐は礼を待つ様子もなく、倒れた獣の周囲を歩いている。本当に気まぐれなやつだ。
その先にも、異変の跡は続いていた。木の幹に残る深い傷跡、大きな足跡、裂けるように折れた枝。どれも岩角獣がつけたものとは思えない。
「普段なら、魔物がこんな風に寄ってくることはない。何かから逃げているのかもしれないな」
「もっと強い何かがいるってこと?」
「可能性はある」
森の奥から低い音が響いた。獣の唸り声にも風の音にも聞こえる、不気味な響きだった。カイルは剣を構え直し、管狐も動きを止めて森を見つめた。
俺も目を凝らした。何かがいる気配はある。だが、木々の向こうに姿は見えなかった。
「深入りするのはやめよう。ギルドに報告する」
もっと確かめたい。音の正体も、魔物たちの異変も。けれど、今の俺たちにできることには限りがある。俺は森の奥を気にしながら、カイルのあとに続いた。




