アルデン
「ここからは、周りをよく見て進むぞ」
カイルは何度も森の奥へ視線を向けた。俺も、さっき聞いた低い音が気になって仕方がない。
「あの音、何だったんだろうな」
「わからない。だからこそ、近づかない方がいい」
判断としては正しい。俺には戦闘経験も、この世界の魔物についての知識もほとんどない。興味があるからといって、危険に飛び込んでいいわけではなかった。
それでも頭の中では疑問が膨らむ。岩角獣のような魔物が逃げ出すほどの存在。森に残された巨大な傷跡。あの音。バラバラの情報が何かに繋がりそうで、まだ形にならない。
管狐は、俺たちの少し前を歩いていた。時折立ち止まっては鼻を動かす。呼んでもいないのに近くにいることもあれば、ふと気づくと姿が見えなくなることもある。相変わらず、何を考えているのか分からない。
やがて木々の間から明るい光が差し込み、森の出口が見えた。最後まで気を抜かずに歩き、俺たちはようやく森を抜けた。
視界が開ける。遠くには町を囲む壁と建物が見え、夕陽を受けた屋根が赤く染まっていた。
「あれがアルデンだ」
カイルが指差した。「冒険者ギルドもある。宿や店も多いし、初めて来るなら生活に困ることはないぞ」
「本屋もある?」
「……最初に聞くのがそれか?」
カイルが呆れたように笑った。けれど、俺は真剣だった。この世界を知るなら、本を読むのが早い。歴史、地理、魔法、魔物、そして土地に伝わる昔話。知りたいことが多すぎる。
町へ近づくにつれ、人の行き交う姿が増えていった。荷馬車を引く者、武器を背負った者、見慣れない服装の旅人。ベルン村よりずっと大きく、活気がある。
「まずはギルドに報告だな。森のことも、魔物のことま伝えておかないと」
「うん」
森を振り返る。木々の奥は、もう夕闇に沈み始めていた。何かがいる。その確信だけが胸の中に残っている。
今はまだ、その正体を知る手がかりもない。まずはこの町で暮らし、この世界のことを学ぶ必要がある。
俺はアルデンの門へ向かって歩き出した。
ようやく大きな町に着いたヤマト。
この町でこの世界のことを勉強することになるのだが、平和に過ごせるはずがなく……!




