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昇格試験

妖怪召喚の検証を終えた翌日。

ヤマトは冒険者ギルドへと足を運んでいた。

今日も何か町の人たちの役に立てる依頼はないか。そんなことを考えながら掲示板へ向かおうとしたところ、受付嬢に声をかけられた。


「ヤマトさん、ちょうどよかったです。少しお話があるんですが」

「はい、なんでしょう?」

「実は、ヤマトさんにDランクへの昇格試験を受ける資格が認められたんです」

「えっ、もうですか?」

思わず聞き返してしまった。

冒険者として登録してから、それほど長い時間が経ったわけではない。ようやくEランクに上がったばかりだというのに、もう次の昇格試験の話が出るとは思っていなかった。


「通常ですと、Dランクに昇格するまでには半年から一年ほどかかる方が多いんですよ」

「そんなにかかるんですね」

「はい。依頼をこなすだけでなく、冒険者としての実力や経験も必要になりますから」

受付嬢は手元の書類を確認しながら続けた。


「ですが、ヤマトさんの場合は少し事情が違います。ヴァルドさんからの指名依頼を達成したこと。それに、その依頼でトロールを単独撃破した実績もあります」

「いや、あれは…運が良かった部分もありますよ」

確かに、あの時は敷次郎がいなければ、どうなっていたかわからない。

自分だけで倒したと言い切るには、少々ためらいがあった。


「もちろん、そうした事情も含めて判断されていますよ。それに、もう一つ大きな理由があるんです」

「もう一つ?」

「町の方々からの依頼です」

受付嬢は穏やかに微笑んだ。


「薬草の採取や荷物の運搬、畑の手伝いなど、報酬が安くて他の冒険者のみなさんがあまり受けたがらない依頼もありますよね。ヤマトさんは、そういった依頼も一つ一つ、真面目にこなされてきました。」

「それは…困ってる人がいるなら、手伝いたいと思っただけです」

「その姿勢も評価されたんですよ。冒険者に必要な資質というのは、戦う力だけではありませんから」

そう言われると、なんだか照れ臭かった。

自分としては、この世界の暮らしや文化を知ることが楽しくて、めについた依頼を受けていただけだ。それが昇格の評価につながるとは思っていなかった。


「それで、昇格試験の内容なんですが、今回は三つの依頼から一つを選んでいただきます」

受付嬢は説明用の書類を取り出し、ヤマトの前に並べた。


「一つ目は、ロック鳥の討伐と、その巣から卵の破片を回収する依頼です。ロック鳥は大型の魔物なので、パーティでの受験を想定しています」

ヤマトは書類に目を落とした。

ロック鳥。名前からして、かなり大きな鳥型の魔物なのだろう。討伐に加えて巣から素材を回収するとなれば、戦闘だけでなく、巣の場所を探す必要もあるだろう。


「二つ目は、変異スライムの討伐と、スライムの核の回収です。こちらは魔法使い向けの試験ですね」

変異スライムという名前に、ヤマトは少し興味を引かれた。通常のスライムと何が違うのだろうか。変異した原因や性質にも違いがあるのかもしれない。

とはいえ、今は昇格試験だ。興味だけで選ぶわけにもいかない。


「そして、三つ目がこちらです」

受付嬢が最後の書類を差し出した。


「近くにある湖の調査です。こちらはソロの方でも受験できます」

「湖の調査?」

ヤマトは書類を受け取り、目を通した。討伐対象の名前も、採集する素材の指定もない。

依頼内容は、湖で発生している問題の原因を調べること。

それだけだった。


「この依頼について、もう少し詳しく書いてもいいですか?」

「もちろんです」

受付嬢は少し表情を引き締めた。


「実は最近、この湖で何者かに襲われたという人が数人いるんです」

「襲われた?」

「はい。詳しいことはまだわかっていません。ただ、被害が続いたちめ、すぐに湖への立ち入りを禁止しました。今のところ、新たな被害は出ていません」

「なるほど…」

ヤマトは書類を見つめたまま、続きを促した。


「今回の依頼は、まず原因を究明することです。可能であれば、問題の解決までお願いしたいと考えています。ただ、調査が中心となるうえ、危険の程度もわかっていません。報酬もあまり高くないんです」

「それで、昇格試験に?」

「はい。実力だけでなく、状況を判断する力や、未知の問題にどう対処するかを見るには適していると判断されました」

ヤマトは黙って書類を見つめていた。

人が襲われる湖。

立ち入り禁止になった場所。

そして、何者が襲っているのかわかっていない。

頭の中で、いくつもの可能性が浮かんでは消えていく。

魔物の仕業なのか。人的なものなのか。それとも、この世界の怪異の一種なのか。

ヤマトの胸は期待で膨らんだ。


「これにします」

「湖の調査でよろしいんですか?」

「はい。ぜひ受けさせてください!」

思わず身を乗り出してしまい、受付嬢が少し驚いた顔をした。


「わかりました。では、こちらが現場の地図です。襲われた時間は、決まって夜だったそうです。調査は夜に行っていただきたいのですが、十分に注意してくださいね」

「ありがとうございます!」

地図を受け取ったヤマトは、さっそく準備を始めることにした。

いったい何が潜んでいるのだろう。

考えるだけで、胸が躍った。


◇


翌日の夜。

ヤマトは街から少し離れた湖へとやって来ていた。月明かりが水面を淡く照らし、周囲の木々が黒い影となって湖を取り囲んでいる。

風が吹くたびに、湖面がかすかに揺れた。

昼間なら何の変哲もない景色なのかもしれない。だが、夜の闇に包まれた湖には、どこか近寄りがたい雰囲気が漂っていた。

ヤマトは周囲を見回し、人目につかない茂みへと身を潜めた。

まずは様子を見る。

何かが現れるのか、それとも、襲われた人たちが見落としていた痕跡があるのか。

焦って動き回るよりも、ここで待つ方がいいと判断した。息を潜め、湖の様子をうかがう。

水面には月が映り、波紋がゆっくりと広がっては消えていく。

しばらくの間、何も起こらなかった。

やはり、そう簡単には現れないか。

そう思い始めた、そのときだった。


ガサッ


すぐ近くの茂みから物音がした。


「……っ!」

ヤマトは息を呑んだ。

風が葉を揺らした音とは違う。何かが、そこにいる。

ヤマトは腰の短剣に手をかけ、音のした方へと刃先を向けた。山の向こうを、じっと見つめる。

次の瞬間、茂みが再び揺れた。

ヤマトは短剣を構えたまま、息を殺した。


早くもDランク昇格試験です。

調査依頼だけど、好奇心の塊のヤマトが調査だけで終われるんでしょうか。

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