共通点
黒猫亭で迎える最初の夜。
ヤマトは机の上に置いた短剣を手に取り、鞘からゆっくりと引き抜いた。窓から差し込む月明かりが、刃の表面を淡く照らす。
何度見ても、いい出来だ。
しばらく刃を眺めた後、ヤマトは短剣を鞘に戻し机の上に置いた。
「……さて」
椅子に腰かけ、今日までの出来事を振り返る。
この世界に来てから、いろいろなことがあった。
見たこともない魔物との戦い。冒険者ギルドでの依頼。そして、この世界には存在するはずのない妖怪との出会い。
ヤマトは、ふと視線を上げた。
管狐。
敷次郎。
どちらも、日本に伝わる妖怪だ。
民俗学を学んできたヤマトにとって、妖怪は昔話や伝承の中で親しんできた存在だった。だが、まさか異世界で実際に出会うことになるとは、想像もしていなかった。
「なんでこっちの世界にいるんだろうな…」
呟いてみても、答えはない。
そもそも、二体との出会いはどちらも普通ではなかった。
最初に管狐と出会ったのは、森の中だった。
ゴブリンに囲まれ、追い詰められていたあのとき。死を覚悟したヤマトの頭に浮かんだのは、幼い頃、祖父から聞かされた妖怪の話だった。そのあと、小さな狐が現れた。
次に出会った敷次郎のときは、最初から姿を見たわけではない。鉱山で採掘をしていたとき、ふと妖怪の伝承を思い出した。敷次郎という、人の姿をした妖怪。その名を口にしたあと、どこからか何かを掘るような音が聞こえた。
そのときは気のせいだと思ったが、やがて現れた敷次郎は、ヤマトの知っている伝承そのものだった。
「……待てよ」
ヤマトは考え込んだ。
管狐のときも、敷次郎のときも。
どちらも、名前を口にしたあとに姿を現している。
ただの偶然だろうか。
最初はそう考えた。だが、二度も同じことが起きているとなると、少し気になってくる。
「名前を呼んだら現れる…?」
口にしてから、ヤマトは眉をひそめた。
そんな都合のいい話があるだろうか。
妖怪を呼び出す術について、伝承にそうした話がまったくないわけではない。だが、今の自分が何か特別な術を使った覚えはない。
呪文を唱えたわけでも、道具を使ったわけでもない。
ただ、名前を口にしただけだ。
「いや、まだ決めつけるのは早いか」
ヤマトは椅子の背にもたれた。
もし、本当に名前を呼ぶことで妖怪が現れるのだとしたら。ほかの妖怪も、同じように現れるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
試してみたい。
民俗学を学んできた者として、知っている妖怪が実際に現れるという現象には、どうしても興味を引かれてしまう。
しかし、すぐには試す気にはなれなかった。
敷次郎との遭遇を思い出す。
あのとき、自分が伝承をちゃんと知らなかったらどうなっていただろう。敷次郎の性質を知らず、適切な対応が出来ていなかったら、無事では済まなかったかもしれない。
妖怪は、呼び出せたからといって、必ずしも味方になるわけではなさそうだ。
管狐も敷次郎も、それぞれの意思で行動していた。こちらの都合に合わせてくれる存在ではないのだ。
「慎重にやらないとな」
ヤマトは机の上の短剣に目を向けた。
万が一、危険な妖怪が現れたら。
そう考えると、興味だけで試すのは危険だった。まずは、何が起きるのかを確かめる必要がある。できるだけ安全な場所で、周囲に被害が出ないように気をつけながら。
そうして、少しずつ確かめていけばいい。
「明日、試してみるか…」
小さく呟き、ヤマトは立ち上がった。
今日はもう遅い。
考えるべきことは増えたが、今夜のうちに答えが出るわけでもない。
寝る準備をすませ、ベッドに横になる。
目を閉じても、頭の片隅では妖怪たちの姿が浮かんでいた。名前を口にすると、妖怪が現れる。もしそれが本当なら、自分はこの世界で何を成し遂げられるのだろう。
ヤマトは考えるのをやめ、ゆっくりと眠りに落ちていった。
妖怪を召喚できる能力に気づいたヤマト。
試しにどんな妖怪を呼び出すのでしょう。




