白く光る鉱石
どれくらい、そうしていたのだろう。
ヤマトは壁に背を預け、しばらく動けずにいた。目の前にはトロールの巨体がある。つい先ほどまで、自分を殺そうとしていた魔物だった。
その体には無数の傷が残っていた。ヤマトが短剣でつけた傷は、すでに塞がってる。だが、敷次郎に噛みちぎられた箇所だけは、血を流したままだった。
「……本当に、治らないんだ」
伝承で聞いたとおりだった。敷次郎は食べ物をねだる妖怪。食べ物を与えれば去り、与えなければ襲ってくる。そして、噛まれた傷は仏法でしか治らない。
少なくとも、ヤマトが知っているという話ではそうだった。もちろん、伝承の全てが文字通り現実へ当てはまるとは限らない。
それでも、目の前で起きたことを考えれば、偶然とは思えなかった。
「怖すぎるだろ、あれ」
乾いた笑いが漏れる。
妖怪に会いたいと願っていた。実際に会えたことは間違いなく嬉しい。けれど、さっきの敷次郎をもう一度目の前に出されたら、今度こそ逃げ出すかもしれない。
ヤマトは震える手を握りしめた。
管狐が足元に近づいてくる。
「……お前も、助かったよ」
管狐は返事をせず、ヤマトの靴先をクンクンと嗅いだあと興味を失ったように離れていった。
「いや、もうちょっと反応してくれてもいいだろ…」
いつもの調子でぼやく。
そうしているうちに、ようやく頭が回り始めた。
依頼はまだ終わっていない。
魔鉄と魔晶石は採集できているが、ミスリルはまだ見つけていない。ここで帰るわけにはいかなかった。
ヤマトは立ち上がり、トロールの倒れている場所を見回した。戦闘で壁が崩れ、岩肌があちこち剥き出しになっている。もともと隠れていた鉱石まで露出しているようだ。
「これなら、採集しやすいかも」
我ながら呑気な感想だと思った。
けれど、せっかくの機会だ。危険がないことを確かめながら、採集を再開することにした。
魔鉄と魔晶石は状態が良さそうなものが多かったため、指定された量より多く持って帰ることにする。
あとはミスリルだ。ヴァルドから聞いた特徴を思い出しながら、周囲を探していく。
そのとき、管狐が少し離れた場所で立ち止まっているのが目に入った。
「ん?どうした?」
管狐は壁の一角を見つめていた。
そこはトロールが暴れた際に岩が剥がれ、奥に小さなくぼみができた場所だった。管狐はくぼみの中で座り込み、じっと上を見つめていた。
「何かあるのか?」
ヤマトも近づいた。くぼみの中は暗い。
灯りを向け、覗き込む。
「あれ?」
そこに、小さな鉱石が埋まっていた。
白い。
ただ白いだけではない。石の表面から淡い光が滲み出ているように見えた。内側から静かに輝いているようだ。
「なんだこれ…」
ヤマトは思わず見入った。魔鉄とも魔晶石とも違う。ミスリルの特徴にも当てはまらない。見たことのない鉱石だった。それなのに目が離せない。
理由は分からない。珍しいものを見つけたからだろうか。それとも、淡い光に惹かれているだけなのか。自分でも説明できなかった。ただ、手に取ってみたいと思った。
ヤマトは採掘道具を取り出し、周囲の岩を慎重に削り始めた。鉱石を傷つけないように、少しずつ。
やがて、手のひらに収まるほどの白い鉱石が、岩の中きら姿を現した。
取り出した瞬間、光がわずかに揺らいだように見えた。
「……気のせいか?」
依頼された石ではないが、何かに惹かれたヤマトは、白い鉱石を布で包み持ち帰ることにした。
管狐はすでに別の場所へ歩いていた。
「おい、待てって!」
ヤマトは慌てて追いかけた。
その後、別の場所でミスリルを見つけたヤマトは、無事採集を終えた。
帰り道は、行きよりもずっと長く感じられた。何度も振り返りながら、ヤマトは坑道を抜けた。
久しぶりに外の空気を吸ったとき、ようやく肩の力が抜けた。
「生きて出られた」
ヤマトは空を見上げ、深く息を吸った。
リュックの中には、依頼の鉱石と見たこともない白い鉱石が入っている。
それから、頭の中には敷次郎の姿が焼き付いていた。恐ろしい存在だった。けれど、確かに出会った。
自分の知識が役に立った。
「早く報告しに帰ろう」
ヤマトはリュックを背負い直し、アルデンへ向かって歩き出した。
足元では、管狐が気ままに尻尾を揺らしていた。
トロールとの戦いも無事終わりました。
あとは帰って短剣を作ってもらうだけ!
どんな剣を作ってもらえるのでしょうか。




