新しい生活
森の異変も気にはなる。けれど、調査は上位の冒険者たちに任せることになっている。今は、冒険者としての生活を整えながら、この世界について知っていくことにしよう。
そう考え、俺は冒険者ギルドの依頼書に目を向けた。
しばらく依頼書を眺めたあと、薬草採取の依頼を手に取った。指定された薬草を集めて、依頼人の薬屋へ届ける仕事らしい。これなら、薬草の知識も身につけられるかもしれない。
俺は受付で手続きを済ませ、依頼主である薬屋を訪れた。
店の中には、乾燥させた草屋根が束になって吊るされていた。独特の青臭い匂いが漂っている。
「冒険者ギルドから来ました。薬草採取の依頼を受けたんですけど」
「ああ。待っていたわ」
カウンターの向こうにいた中年の女性が顔を上げた。
「採ってきてほしいのは、この三種類よ。見分け方は教えるから、間違えないようにね」
女性は店から三種類の薬草を取り出し、それぞれの特徴を説明してくれた。
葉の形、茎の色、根の太さ。よく似た別の草もあるらしく、一部の見た目だけで判断するのは危険だという。
俺は教えてもらった特徴を頭に入れ、薬草の採取に向かった。町の近くにある草原だ。
指定された薬草を探しながら、周囲の植物にも目を向ける。見慣れない草がいくつもあり、気になって足を止めることもあった。
目的の薬草を集め終えると、俺は薬屋へ戻った。
採取した薬草を確認してもらい、依頼は無事に完了した。
そのあと、俺は依頼主である女性に薬草の由来について尋ねてみた。
「この薬草には、何か由来があるんですか?」
「さあ、そういう話は聞いた方がないねえ。昔から薬として使われているとしか…」
「そうですか…」
少し残念だった。
けれど、考えてみれば当然かもしれない。この世界の人たちにとって、薬草は生活に欠かせないものだ。わざわざ不思議な由来を考えなくても、使い方が分かっていれば困らないのだろう。
薬草の由来は分からなかった。でも、この世界にも、昔から受け継がれてきた知識がある。薬師の技術もそうだし、土地ごとに違う暮らしや習慣もあるはずだ。
そういうものを一つずつ知っていけば、この世界がどんな場所なのか、もっと理解できるかもしれない。
翌日、俺は荷運びの依頼を受けた。
依頼人は町の商店で働く女性だった。運ぶのは、仕入れた食料品が入った木箱だ。
作業自体は難しくなかった。運び終えたあと、俺は彼女にいくつか質問をした。
この町では、どんな祭りが行われるのか。
昔から続いている行事はあるのか。
町の人たちが大切にしている習慣は何なのか。
「そんなことを聞く冒険者さん、初めて見たわ」
彼女は呆れたように笑った。
「俺は故郷で、土地ごとの習慣や昔話を調べることがあってさ。この国でも、そういう話があるのかなって」
「へえ、変わった勉強を、していたのね」
変わっていると言われるのは慣れている。大学でも、妖怪の話を始めると止まらなくなって、友人に呆れられることがあった。
それでも、興味を持ったことを調べるのは楽しい。
彼女は少し考えてから、アルデンの北にある農村で毎年行われる収穫祭の話を教えてくれた。豊作を願って、広場に食べ物を持ち寄り、音楽を奏でて踊るのだという。
「昔からやってるらしいけど、どうして始まったのかは知らないわね。子供の頃から、そういうものだったし」
「なるほど…」
またしても、由来までは分からなかった。けれど、収穫祭そのものには興味が湧いた。実際に見れば、何か分かることがあるかもしれない。
依頼を終えたあとも、俺は町の人たちに話を聞いて回った。祭りや行事、昔から続いている習慣。聞く相手によって話の内容はすこしずつ違い、同じ町で暮らしていても、それぞれの知っていることは異なるらしい。
すべての話に伝承があるわけではないだろう。それでも、こうして人々の話を聞いていけば、いつか何かを見つけられるかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は冒険者ギルドへ戻った。
受付で冒険者カードを受け取る。
これで、Fランクの依頼を三件達成したことになる。Eランクへの昇格にはあと二件の達成が必要だった。焦るつもりはない。
今はこの世界を知ることが何よりも楽しい。
明日はどんな依頼を受けようか。
どんな人と出会い、どんな話を聞けるだろうか。
そんなことを考えながら、俺はギルドをあとにした。夕暮れのアルデンは、昼間とはまた違った顔を見せていた。
通りに灯りがともり、食堂からは賑やかな声が聞こえてくる。
新しい生活が始まり、少しずつこの世界の情報を得ていくヤマト。今が一番楽しい時期でもありますね。




