第七話 初めての気持ちです
「……トキ……ヨリアキ……さん……?」
その言葉を聞いた瞬間。
オレは固まった。
「……え?」
目の前の人間を見る。
10代後半くらいの男。
白い髪。
少し緊張したような顔。
そして。
こいつは、オレを見ている。
「……オレのこと、見えてんの?」
恐る恐る聞いてみる。
すると、男は小さく頷いた。
「……はい」
「マジで?」
思わず一歩近づく。
男は少し後ずさった。
「ちょ、ちょっと待って」
「いやいやいや」
オレは男の顔を覗き込む。
「本当に見えてんの?」
「……はい」
「オレが?」
「はい」
「オレ、幽霊だよ?」
「……はい」
「オレの事、怖くないの?」
男は少し考えてから、
「……慣れてます」
そう答えた。
「慣れてる?」
「はい」
「幽霊に?」
「……そっかぁ……」
なんだこいつ。
妙に落ち着いている。
「お前、名前は?」
「……レンです」
「レン?」
「はい」
「学生?」
「……大学生です」
「へぇ……そう……」
オレは腕を組んだ。
幽霊が見える人間。
しかも、こんな場所に一人でいる。
なかなか珍しい。
「じゃあさ、ちょっと聞きたいんだけど」
「はい」
「なんでオレの名前知ってんの?」
レンは一瞬、言葉に詰まった。
そして、
「……あの、動画で」
「…………」
オレは黙った。
「……動画?」
「はい」
「オレの?」
「……はい」
「マジで!?」
思わず声が大きくなる。
突然オレが大声を出してしまって、レンがビクッと驚いた顔をした。
「見たの!?」
「……あの、はい、見ました」
「どれ!?」
「え?」
「どの動画!?」
「えっと……」
「何本見た?」
「……何本って言われても」
「チャンネル登録してる?」
「……えっ、し、してます」
「マッッジでぇ!?」
また声が大きくなる。
またレンはビクッと体を動かした。
「いつから!?」
「……少し、前から」
「なんで登録したの!?」
「いや、その……」
レンが困ったように目を逸らす。
「面白かったので……」
「……」
オレは思わず黙って、真っ暗なトンネルの天を仰いだ。
暗い天井が、とても明るく見えた。
……面白かった。
その言葉が、妙に嬉しかった。
「……そっかぁ」
自然と口元が緩む。
「オレの動画、面白かったんだぁ」
「……はい」
「そっかぁ」
なんだか、胸の奥が暖かくなる。
幽霊なのに。
「いやぁ……」
オレはスマホを見る。
「やってて良かったな、YouTube」
「……」
レンは何とも言えない顔をしている。
「でさ」
オレはレンの顔を覗き込んだ。
「どの動画が一番良かった?」
「え?」
「だーかーら、一番面白かったやつ」
「……えっと」
「怖かったやつでもいいぞ」
「いや、そういう意味じゃ……」
「遠慮しなくていいからさ、正直に言ってみてよ!」
「……」
レンは少し考えてから、
「……最初に投稿されてた動画です」
「おっ!」
「山道で、女の人が映ってたやつ」
「おお!」
オレは嬉しくなった。
「あれか!」
「はい」
「あれ、結構自信あったんだよ」
「……そうなんですか?」
「うん。幽霊の映り方が良かっただろ?」
「……まあ」
「しかもあの子可愛かったしなぁ」
「……可愛い……?」
「やっぱりお色気要素は必要だと思ったんだよなぁ!」
オレは得意げに胸を張った。
レンが少しだけ笑った。
その顔を見て、オレも笑う。
なんだ。
案外、話せるじゃないか。
「なあ、レン」
「はい」
「またここ来る?」
「……え?」
「いや、オレもここにはまた来るからさ」
オレはトンネルを見る。
「せっかくだし、動画撮るついでにさ、また話そうぜ」
レンは少し驚いた顔をした。
けれど、
「……はい」
小さく頷いた。
「じゃあ、また来ます」
「おう」
オレも頷く。
「約束な」
「……はい」
「あ、オレの事はトキ兄さんとでも呼んでくれて良いぞ」
「……トキ、兄さん、ですか……」
「おぅよ、一応これでもレンより年上だしな!」
「……トキ兄さん……」
「おう、またなレン!」
レンは最後にオレの顔をじっと見た後、トンネルを出ていった。
オレはその背中をしばらく眺めていた。
*
「トキさん!!」
帰るなり、フリーが飛んできた。
「どこ行ってたんですか!?」
「……あぁ」
「僕、ずっと待ってたんですよ!」
「……あぁ」
「しかもいきなり仕事まで僕に任せて!」
「……あぁ」
「聞いてます!?」
「……レン、また来てくれるかなぁ……」
「聞いてないですよね!?」
フリーの声は、もう耳に入っていなかった。
オレは、さっきまでいたトンネルを思い出す。
またレンに会える。
そう思うと、なんだか妙に嬉しい。
「……楽しみだな」
オレは一人で笑った。
その横で、フリーがまだ何か叫んでいる。
でも。
今は、そのフリーの怒声も何だか心地よく感じた。




