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第六話 見つけてほしい


朝。


……と言っても、幽霊に朝も夜もそれほど関係ない。


オレの場合、太陽が昇ったから起きるわけでもないし、眠らなければならないわけでもない。


それでも、長いこと守護霊だったせいか、なんとなく朝になると目が覚める。


「……腹減ったぁ」


独り言を呟いて、オレは立ち上がった。


腹が減る。


幽霊なのに。


この辺りの仕組みは、オレにもよく分からない。


死んでから随分経つというのに、未だに分からないことは多い。


まあ、生きている頃だって自分の身体の仕組みなんて、分からないことだらけだったし。


ま、そんなもんだ。


オレはそういうことにしている。


「さて、と」


今日は何をしようか。


そう考えて、ポケットに手を入れる。


最近のオレの日課。


YouTubeである。


オレはスマホを手に取った。


幽霊になってからというもの、こういう便利なものには随分と感心する。


昔なら、何かを人に伝えようと思ったら、とんでもない労力を使う事が多かった。


今は違う。


スマホ一台あれば、世界中に向けて作品を発信できる。


オレは幽霊だ。


しかも、人間には見えないものが見える。


だったら。


それを撮って、みんなをアッと言わしてみたい。


我ながら、なかなか良い考えだと思った。


「今日も一発、撮ってやるか」


オレはスマホを持って、歩き出した。



向かったのは、少し離れた山道。


昼間でも薄暗く、あまり人の通らない場所だ。


こういう静かな場所は、好きな奴も多い。


オレには分かる。


少し歩いていると、案の定。


道路脇に、女の幽霊が立っている。


長い髪。


俯いた顔。


白っぽい服。


典型的と言えば、かなり典型的だ。


「おっ」


オレは足を止めた。


「いたいた」


スマホを構える。


女は動かない。


オレを見ることもない。


それでも、オレにははっきり見えている。


「これはいいな」


録画開始。


画面の中にも、ちゃんと映っている。


オレには見える。


間違いない。


「よし」


しばらく撮影してから、録画を止める。


「完璧」


今日もいい仕事をした。


オレは満足して、その場を後にした。



帰ると、さっそく動画を確認する。


「うん」


悪くない。


いや。


むしろ良い。


かなり良い。


女の幽霊もしっかり映っている。


「これ、絶対怖いだろ」


オレは動画にタイトルを付けた。


『山道で女の霊を撮影した』


……よし。


分かりやすい。


そして投稿。


「……っと」


完了。


あとは待つだけだ。


オレはしばらく画面を眺めた。


一分。


五分。


十分。


「……」


再生数。


増えない。


「……まあ、まだ早いか」


スマホを置く。


少しして、また見る。


「……」


ほとんど変わっていない。


「……なんでだよぉ〜?」


オレには、本当に分からない。


映っている。


ちゃんと映っている。


タイトルだって悪くない。


何が足りない?


「……編集、なのかな」


最近、YouTubeを見ていると、みんな色々やっている。


文字が出たり。


音楽が流れたり。


画面が大きくなったり、小さくなったり。


途中で別の映像が入ったり。


「……文字とかどう入れたら良いんだよ……よく分からん」


オレはスマホを眺めながら呟いた。


オレが動画を撮る。


幽霊が映る。


投稿する。


それで十分だと思っていた。


でも。


どうやら、人間はそう簡単には納得してくれないらしい。


「もっと……なんかあるんだろうな」


オレはスマホを置いた。


そして、天井を見る。


「……もっとみんなに見てもらいたいんだけどなぁ」


誰に言うでもなく、呟いた。



夕方。


オレは通りがかりのフリーに仕事を頼んで外へ出た。


特に目的があったわけじゃない。


ただ、なんとなく歩きたい気分だった。


後ろからフリーが何か叫んでいた気がするけど、多分気のせいだろう。


幽霊になってから、こういう時間が増えた。


人間だった頃なら、仕事だとか、飯だとか、寝るだとか。


一日の中には、やることがたくさんあった。


今は違う。


時間だけは、いくらでもある。


だからこそ、何かをしていたいと思う。


オレにとって、それがYouTubeだった。


「……しかし、なぁ……」


オレは歩きながら考える。


もっと再生数を伸ばしたい。


もっと面白い動画を作りたい。


もっと、オレが見ているものを人間に見せたい。


その気持ちは、最近少しずつ強くなっていた。


でも。


「何が足りないんだろうな」


自分では分からない。


幽霊を撮ることならできる。


幽霊がどこにいるかも、なんとなく分かる。


けれど。


それをどうやって誰かに伝えるか。


そこだけが、どうにも難しい。


「……誰か詳しい奴いないですかー?」


そう呟いてみる。


もちろん返事はない。


「……いないか」


苦笑して、歩き続けた。



夜。


気が付けば、オレはいつも撮影に使う場所に来ていた。


古い道路。


周囲には山。


街灯も少ない。


確か、その先には。


地元ではちょっと有名な、古いトンネルがある。


ここには、いる。


女の幽霊で……しかもめっちゃ可愛い。


「……やっぱりお色気が必要なのか?」


オレはスマホを取り出した。


「今日は、セクシーショットで男性視聴者どもを釘付けにしてやろうかな」


録画開始。


真っ暗なトンネルの入り口へ、カメラを向ける。


そのときだった。


画面の端に、人影が入った。


「……ん?」


オレは顔を上げる。


人間だった。


こんな時間に?


こんな場所に?


珍しいな。


オレはスマホを下ろした。


そして、その人間を見る。


大学生くらいだろうか。


こちらを見ている。


……いや。


違う。


ただ、こちらを見ているんじゃない。


オレを。


オレ自身を見ている。


「……誰だ?」


オレは眉をひそめた。


幽霊が見える人間は、たまにいる。


でも。


この距離で。


この暗さで。


オレを見ている。


その人間が、ゆっくりと口を開いた。


「……おいおい、まさか」


オレは黙って、その顔を見る。


そして。


次に聞こえた言葉に、思わず息を止めた。


「……トキ……ヨリアキ……さん……?」


――オレは人間に名前を呼ばれた。

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