第三話 気になりました
あれから、しばらく経った。
俺は今日も、スマホをいじっている。
「……お」
動画の再生数が、少しだけ増えていた。
「増えてる……」
昨日より、ほんの少し。
「……へへ」
思わず顔が緩む。
もう一度、画面を見る。
「……また増えた」
たった数回。
それだけなのに、なんだか嬉しい。
「見てくれてんだなぁ……」
誰が見ているのかは分からない。
それでも、自分が撮ったものを誰かが見てくれている。
「……よし」
俺はスマホをポケットにしまった。
「もうちょいやってみるか」
*
動画を撮るようになってから、俺の生活は少し変わった。
守護をして。
動画を撮って。
また守護をして。
そんな毎日を繰り返している。
そして、もう一つ変わったことがある。
「…あのさー…フリー」
「はい?」
「今日も頼むわ」
「……はい!?」
フリーが少しだけ遠い目をする。
最初は週に1日だった。
それが2日になった。
そして3日。
気がつけば、フリーが守護をする日が増えていた。
「……あのー」
「ん?」
「僕の頻度、多くないですか?」
「えー? そうかなー?」
「そうですよ」
フリーがため息をつく。
「最初は週に1日だったじゃないですか」
「あー、そーいえば…そうだったかなー」
「それが週2日になって……」
「うん」
「今、週3日ですよ?」
「そうだっけ?」
「そうですよ!」
フリーが両手を広げる。
「僕は、フリーなんですけど!!」
「知ってるって」
「だったら、もう少しフリーにさせてくださいよ!」
「でもほら」
俺は笑いながら、フリーの肩をぽんと叩いた。
「お前、才能あるからさー」
「才能……ですか?」
「そうそう!」
俺は頷く。
「お前なら主さんもオレも安心なわけよー!」
「そ、そうなんでしょうか……」
「そうそう!」
俺は笑った。
「それに守護霊やってればあっち行った時に評価上がるし」
「それは…」
…落ちたな。
「本っっ当〜に感謝してるって!」
「…………」
フリーが困ったように俺を見る。
「……そこまで言われると……」
「だろ?」
「でも……」
「だから、今日もよろしく、な!」
「ぇええぇ……」
フリーが肩を落とす。
「ほら!」
俺は懐から何かを取り出した。
「今日はドラ焼き二個!」
「……二個」
「サービス!」
フリーがドラ焼きを見つめる。
「……まぁ、わかりましたよ」
「よっしゃ!」
「……はぁぁ」
「元気ないよー!」
俺はもう一つ、飴を取り出した。
「飴ちゃんまでサービスするからさ! 元気出してこー!」
「誰のせいですか、誰の!」
「ははは!」
フリーは呆れた顔をしながら、飴を受け取った。
「……じゃあ、行ってきます」
「おう。よろしくな!」
「ちゃんと見てきますからね!」
「頼んだぞー!」
フリーは霊道の方へ歩いていく。
しばらくすると、もう慣れた様子で家の周りを見回り始めた。
「……」
俺はその背中を眺めた。
「……ほんと、真面目だなぁ」
*
フリーに守護を任せる時間が増えたことで、俺も少し自由に動けるようになった。
その時間で、動画を撮る。
最初はただの思いつき。
面白そうだから始めた。
それだけだった。
でも。
少しずつ再生数が増えていくのを見ると、なんだか楽しくなってくる。
「次はどこ撮ろうかなぁ」
スマホを眺めながら考える。
そんなことを考えているうちに、ふとフリーのことを思い出した。
フリーがいるお陰で、俺は…。
「……あいつ、今ちゃんとやってるかな」
俺は家の方へ戻った。
*
少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
フリーは今日も、家の周りをうろうろしている。
何か問題がないか確認しているらしい。
人間の様子を見て。
周囲を見回して。
また家の中を覗いている。
「……やっぱアイツ……」
俺は少しだけ笑った。
「才能あるよ」
スマホを取り出す。
カメラを起動する。
フリーに向けて、構える。
パシャ。
「……」
撮れた写真を見る。
「……やっぱり、全然わからねーなぁ」
相変わらず、インカメしか使えない。
しかも、ピントまで合っていない。
写真の中のフリーは、だいぶぼやけていた。
「でも……」
俺はもう一度、写真を見る。
「……」
フリーは、今日もちゃんと人間を見守っている。
最初は嫌がっていたくせに。
今じゃ、自分から様子を見に来る。
「……オレはちゃんとやってるって、分かってるよ」
そう呟いて、俺はその写真をアルバムに保存した。
「帰ったら、また飴ちゃんサービスしてやるか〜」
スマホをポケットにしまう。
俺はそのまま、フリーに気づかれないようにその場を離れた。
フリーはトキには気づかず、今日も真面目に家の周りを見回っている。
俺は少し離れたところから、その姿を見ながら歩いた。
「……さて」
俺はスマホを取り出す。
「次は、どんなの撮ろうかな」
そう呟いて、俺は歩き出した。




