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第壱話 暗い光



 あの頃のオレは、自由が欲しかった。


 よく逃げた。


 美濃を追われて。


 色々あって。


 それでも、もう一度戻った。


 なんとか織田の助けを借りて。


 朝倉に身を寄せていた頼純とも手を組んだ。


 ようやく。


 ようやく、戻れると思った。


「……長かったなぁ」


 守護の座に戻れた時、オレはそう思った。


 これで、終わった。


 これで、もう逃げなくていい。


 そう思っていた。


 ……まぁ。


 人生なんて、そんなに甘くない。


 ようやく終わったと思った矢先。


 朝倉と道三が和睦した。


 条件は、オレが守護を退くこと。


「…………」


 笑っちまった。


 なんだよ、それ。


 オレが戻った意味、あったのか?


 今までやってきた事って。


 いったい……。


 ……まぁ、仕方がない。


 そう思うしかなかった。


 守護の座を頼純に譲った。


 そして、オレはまた逃げた。


 近江へ。


 そこから常陸へ。


 それから上総へ。


 頼れる人間を頼って。


 知っている人間を頼って。


 オレは、ただ生きるために逃げ続けた。


 だけど……。


 その間も、絵だけは描いていた。


 オレは、何より絵を描くことが好きだった。


 特に、蒼天を自由に飛び回る鷹の絵を描くことが好きだった。


 筆を持っている間だけは。


 オレも、自由になれた気がした。


 空を飛ぶ鷹を描く。


 どこへでも飛んでいける鷹を。


 誰にも捕まらない鷹を。


 まったく。


 自分とは、えらい違いだ。


 そんなことを思いながら、それでもオレは鷹を描いた。


 逃げた先でも。


 誰かの世話になっている時でも。


 絵を描いている間だけは、余計なことを考えなくて済んだ。


 穏やかな気持ちになれた。


 でも、ある時から。


 少しずつ、オレの目が見えなくなっていった。


「……なんだよ」


 最初は、気のせいだと思った。


 見える。


 まだ見える。


 だから大丈夫だ。


 そう思っていた。


 けれど。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 世界が暗くなっていった。


「…………」


 目を閉じる。


 開く。


 それでも、暗い。


 この世界が闇に染まった気がした。


 これじゃあ。


 もう、絵が描けない。


「……参ったな」


 力無く笑った。


 よりによって。


 オレが一番好きだったものまで、取られてしまうなんてな。


 それでも。


 頭の中には、まだ残っていた。


 青い空。


 白い雲。


 その中を、自由に飛ぶ鷹。


 ……ああ。


 もう一度だけ。


 あの鷹を。


 ……描きたかったな。

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