後編 リリィの後悔——、すべきだったこと
その襲撃は、先のミラディアによる襲撃から二日後に起こった。
夜闇に紛れてミラディアが現れて砦へと迫ってきた。
警戒していた砦の聖騎士団は、その状況をシルヴィンへと報告。
そしてユウト、リリィをつれた騎士団は砦前でミラディアを迎撃すべく部隊を展開したのである。
「……?!」
しかし、リリィのとって驚くべき状況が展開されていた。
砦に迫るミラディア——、その後方遥か上空に、何やら魔法陣を展開した【旅の魔法使い】を見たからである。
それは——、老いて老人の姿になってはいるが、たしかにあの【旅の魔法使い】であった。
【旅の魔法使い】はリリィの姿を認めると小さく笑う、そして次にユウトに向かって嘲笑を向けた。
その光景にリリィは怒りとも苦しみともとれる表情を作り、それを見たユウトはその老人こそリリィをかつて弄んだ【旅の魔法使い】だと理解した。
「さて……今度は撤退しませんわ。こうして支援してくださる方もいますし……」
「く……ミラディア……貴様……」
リリィは嘲笑を浮かべるミラディアに苦しげな表情を向ける。
「で? やはり貴方のクズ夫と騎士団の男どもは見学ですか?」
「……貴様の相手は妾じゃ……。でも、皆を馬鹿にするではない!」
「ふふふ……、男など皆馬鹿ですわ……」
——と、
いきなりミラディアが【旅の魔法使い】に向けて笑顔で言う。
「無論……、【旅の魔法使い】様は特別ですわ……。男どもと一緒には出来ません……」
「……」
その時のミラディアの表情を見てリリィは黙って鈎爪を構える。
「……ミラディア……お前……」
「なんですか? なにか言いたいことでも?」
「なぜあのような……」
そのリリィの困惑に満ちた表情に首をかしげつつ細身の両刃長剣を手に召喚する。
そしてそれを構えながら言った。
「ふん……、なにを言いたいのかはわかりませんが……。どうでもいですわね? 我が軍門に下りなさいなリリィ……」
「く……」
そして——、【旅の魔法使い】、ユウトと騎士団、が見守る前でリリィとミラディアが切り結び始める。
動きは明らかにリリィが早かったが、その速度を僅かな動きでミラディアは避けてゆく。
それは強大な力を持つが戦闘の素人であるリリィと、能力はリリィより劣るが卓越した剣術を誇るミラディアの違いであった。
無論、それでも速度自体は早いリリィの鈎爪が掠る場面はあった。しかしそれは尽くミラディアの身をすり抜けた。
そうして切り結ぶ内に、リリィはいくつか傷をえて、ミラディアは無傷と言う状態に追い込まれていった。
「く……」
「ふふふ……勝負がつきそうですわね? 言っておきますが、いまさらあの男どもを呼んでも【旅の魔法使い】様からの【無敵】への強化がある限り……」
——たとえあの仮面の聖騎士の剣速であっても、わたくしの【無敵】の隙をつくことは出来ませんわよ?
「ふん……、ユウトらを呼ぶことはない。……そういうわけにはいかんのだ。妾にも意地があるからな……」
初めユウトもシルヴィンも、騎士団の人たちも、リリィがミラディアと一騎打ちする事を止めていた。たとえ危険であっても一人での相手は無謀だと。
——でもそれをリリィは聞かなかった。何よりリリィの心にはある決意が宿っていたからである。
だからこの時になってリリィはミラディアへ言葉を放った。
「すまなかった……」
「……は?」
「……あの時の問……、軽々しく言うべきではなかった……。それで我らは一言も話さなくなった……」
そのリリィの言葉にミラディアは困惑の表情を作る。
「なにを馬鹿なことを……」
「妾は……お前が妾に向けていた視線の意味を理解していなかった……」
——?
わからない——、なにを言いたい——、ミラディアは本気でそう思う。
「お前は……、あのレイレノールと同じような想いで、妾を見てくれていたのに……」
「……レイレノール? 何の話を……」
「ミラディア……」
そのミラディアの言葉に一瞬悲しげな表情を作るリリィ。
ミラディアは——、困惑の表情を嘲笑に変えて言葉を返す。
「ふふふ……、リリィ、何やら考えがあってデタラメを言っていることは分かりました……。そもそもわたくし達は初めからこういう関係でしたでしょ?」
「……!?」
「貴方とは初めから嫌い合っていた……、一言も言葉をかわしたことはなかったはずです」
そのミラディアの言葉に一瞬驚きの表情をリリィは浮かべる。そして——
「妾は——お前からお前の過去を聞いて……」
「もうデタラメは結構です……、わたくしは貴方に話した覚えはありません。もし知っているとしたら、それは貴方がわたくしの過去を勝手に暴いた……ということですね?」
「ミラ……、ディア?」
そのリリィの驚きの表情がさらに深くなる。
「あの時——、妾はある問を言って……お前を怒らせて……」
「いい加減になさいな……、問など聞いた覚えはありません……」
その答えに少し驚きを押さえてその言葉をいう。
「やはり……、ミラディア……、お前があの【旅の魔法使い】に憤っておった記憶もないのか?」
「はあ? 馬鹿なことを……」
——わたくしは昔から【旅の魔法使い】様の忠実なしもべですわ。
その自慢げな言葉にリリィはしばらく絶句する。
そして静かに——、呟くように言った。
「……妾が……、間違っておった……」
「……? 間違って……? 何を?」
リリィは困惑するミラディアから視線を外して、空の向こうで魔法を維持する【旅の魔法使い】を一度睨んでから答える。
「妾が間違っていた……、と、そういった……」
そのリリィの言葉に、一瞬困惑したミラディアが笑いながら答える。
「あら? わたくしたちと対立しているこの状況を間違っていると……」
「そこではない……」
「……?」
リリィがミラディアの言葉を否定し、ミラディアは困惑を深くする。
その様子にリリィは苦しげな表情を浮かべながら答える。
「……妾は……、お前も、レイレノールも敵だと思っておった……」
「……なに?」
「いつか妾は……【旅の魔法使い】の呪縛から抜けて……、その時になればレイレノールやミラディアとも敵対するのだと……」
「……」
その言葉にミラディアは少し怒りに顔を染めながらリリィを睨む。
「だから……妾は……、二人の事を理解することを怠った……」
リリィは——、今にも泣きそうな表情になりながら言葉を続ける。
「……おそらく、そうなれば敵になる事は確かであったろうが……、レイレノールもお前も……」
——妾に向けていたその視線が「心配」であった事を理解していなかった。
「妾は……、レイレノールのその想いを……、妾のことを考えていない独善だと断じた……」
——でも……、
その時——、レイレノールの最後の言葉をリリィは思い出す。
【私、はお前の、こころ、がわからない、が、わからないからこそ、いわせて、くれ……】
【——過去の罪はお前の罪ではない】
——レイレノールの想いは確かに独善であったのかもしれない。
でもその根底にあったのは「義妹」と自分を重ねていた——、
——レイレノールなりのリリィへの優しい想いだったのだ。
リリィは続ける。
「妾は……あいつは妾のことを理解していないと言った……、でも理解しなかったのは妾も同じじゃ……。お前の……妾への想いのように……」
「……何を?!」
ミラディアは苦しげに——でも困惑しながらリリィに言う。
「わたくしがいつ……貴方に向かってそんな想いを……」
ミラディアのその否定の言葉にリリィは強い口調で訴える。
「お前がかつて【旅の魔法使い】を嫌っておったのは……、あやつが男だからだけではない……」
「な?! 誰がいつあの方を……」
その答えにリリィは悲しみに表情を変えながら続ける。
「……あやつが……、【旅の魔法使い】が……」
——かつての妾……、幼い頃の妾を弄ぶ形で……、妾に【魔種因子】を埋め込んだからじゃ……。
「……!!」
その瞬間、ミラディアは目を見開く。
それをリリィは目に涙を貯めて見つめる。
「……レイレノールも……ミラディアも……、どちらもある程度の差はあれど……、自分で選んで自分で【魔種因子】を受け入れた……」
——でも君は……そうではない……、と……、
……何も理解せずに巻き込まれて……、今に至っている……と。
「……苦しみ納得もできずにさまよい続けている……と、多分二人とも心配しておったのじゃろう?」
「……」
リリィは、いつも二人が色々自分にむけて世話を焼いて来た事を思い出す。
それは——その当時「余計なお世話」と断じて無視していたが……。
「……無視すべきではなかった……、レイレノールもミラディアも……」
——結局は【旅の魔法使い】と——、【魔種因子】——【焦魔帝グラムザグ】の被害者であったのに!!
ミラディアはリリィのその言葉に怒りの表情を作る。
「わたくしが【旅の魔法使い】様の被害者ですって?! 何を馬鹿な……」
「以前のお前は……あやつにそんな媚びるような目はしておらなかった!!」
「……!!」
「お前の男への思想はある意味極端で……、たしかにそういう意味もあったろうが……、それでもお前は、確かに妾を想ってあやつに憤りを向けておったのじゃ!!」
その訴えをミラディアは困惑の表情で聞く。
ミラディアにはリリィと深く交流した記憶がない。
——初めから嫌って避けていたはずだ。
彼女に自分の過去を話した記憶もない。
——でも、
その時、やっとミラディアは思う。
——果たしてその記憶は本当なのか?
リリィのあの悲しい表情の訴えは……、本当に噓なのだろうか?
——と、その時、何処かで——、ミラディアもリリィも、それを見守るユウトやシルヴィン、騎士団員ですら気が付かないつぶやきが響く。
「……これはいけないな……、余計な疑問を持ち始めている……」
それは闇に潜む道化……、【ルクシリア】のつぶやき。
「……これ以上は放って置くわけにもいかないね……、あのメスが記憶を取り戻したら……」
——なら仕方がないよね(笑)
嘲笑がある……。
——本当はあの【仮面の聖騎士】への警戒だったけど……、あのリリィ……、もう一人のバカメスの口を封じないと(笑)
そうして嘲笑を浮かべた【ルクシリア】が密かに蠢き出す。
それは——リリィを狙っていて……。
◆◇◆
ガキン!!
「——!!」
それはいきなりの不意打ち……、【ルクシリア】による魔力手刀によるリリィへの奇襲。
しかし——それは太陽剣を持つユウトによって防がれていた。
「……ち、警戒していたのはそっちもか?!」
「そうだよクソ野郎!! もう……二度とてめえの勝手は許さねえ!!」
憎々しげにユウトを睨むルクシリアに、当然の如くシルヴィンも向かってくる。
「貴方を許すわけにはいかない!」
「……ち……」
そうしてルクシリアは止められて、空に浮かぶ【旅の魔法使い】は眉を歪める。
ミラディアは、驚きとともに苦しみを顔に表してリリィの事を見つめた。
「わたくしは! わたくしは……」
「ミラディア……、なぜお前は……こうも変わってしまった……? 無論、ここ数百年で性格が変わることはあろうが……、お前のそれは異常じゃ……」
「……」
——と、不意に【旅の魔法使い】が口をだす。
「ミラディア……、何を躊躇っている? 私のもとにリリィを取り戻すと……そう誓ったろう?」
「……そ、れは……」
「それともお前は……」
——その言葉を受け入れたいのか?
その【旅の魔法使い】の言葉に——、ミラディアの表情が明確に恐怖に染まる。
それを見たリリィは驚きの表情でミラディアにむかって言う。
「ミラディア?! どうし……」
リリィはそれ以上言葉を続けられなかった。
いきなりミラディアが死に物狂いでリリィへ襲いかかってきたのだ。
「ああああああああああ!!」
「ミラディア!!」
凄まじい速度でミラディアの刃が縦横無尽に振りぬかれ、空中に光線を描いてゆく。
その度にリリィのその身に切り傷が生まれて——、その表情が苦しげなものへと変化してゆく。
それを見て【旅の魔法使い】は満足そうに笑う。
「……それでいいミラディア……、そのままリリィを私に捧げよ……」
その言葉を聞いてリリィは怒りに顔を染めて——つい【旅の魔法使い】を見上げてしまう。
——そこにミラディアの強力な一撃が向かった。
ガキン!
その瞬間、ミラディアはもちろん、リリィも【旅の魔法使い】も、そしてその場にいる全てのものが驚きの表情を作る。
その時のミラディアの一撃——、必殺の一撃を——、仮面の聖騎士が止めていた。
「そこまでです! ミラディア!!」
「……!!」
そのミラディアの表情が困惑に変わる。
それを仮面の聖騎士は睨みつける。
そして——、
(……ち、やはり出てきたか……)
——ならば!
その登場を理解したルクシリアは、静かに——、その本当の力を発揮する。
「……な?!」
「……く!!」
ユウトもシルヴィンも、騎士団員たちも——、その場の誰も反応できない。
——それは……、その場の誰も見たこともない速度——、
——そうしてルクシリアが皆の視界からかき消えたのである。
「しま……!」
ユウトが叫んでリリィの下へと駆け寄ろうとする。
——しかし、その心配を他所に……、ルクシリアが向かった先は仮面の聖騎士の方だった。
「あぶ……」
リリィがとっさに叫ぶ。
その仮面の聖騎士の死角に——ルクシリアがいきなり現れて、その手刀を振るおうとしていた。
それは誰も捉えられない速度——、
余りにも早すぎる高速で、仮面の聖騎士のその無防備な背後を刺し貫いた。
「げははははははは……、は?!」
だがそれは錯覚だった——、
当たったように見えて——、掠りもしていなかった。
「……道化……」
不意にルクシリアの背後から声が聞こえる。
「……え?」
「貴様ごときが……、この私に……」
——剣帝の二つ名を与えられた私に——、傷一つでもつけられると思ったのか……。
「ひ……」
それまで余裕だったルクシリアの表情が——、それまでの噓ではなく、正しく恐怖に染まる。
——恐怖のままにその手刀を後方へと振り抜く。
——しかし、
「封冠停止……」
「な?!」
その後の光景をルクシリアは今までにない驚きの目で見る。
そしてその場にいる全員もまた驚きに表情を変える。
——【玄鱗龍姫】?!
その場の誰かが呟く。
そう——、
仮面の聖騎士の——、その姿が変わっていた。
頭部には竜角が見えて、その尻からは槍の先の如き先端を持つ竜尾がはえていた。
さらに——、その腿から先、同じく腕から先端にかけて、龍鱗と装甲が合わさった鈎爪になって、まるでそこだけ漆黒の鎧を身に付けているようにも見えた。
その姿はまるで——、
「……え?」
リリィが驚きの目で仮面の聖騎士を見つめる。
そして——、ルクシリアの動きが止まっていた。
その意識が停止していた。
(……ば、かな……、これ……は、精神……侵食……)
とっさの思考が止まってしまっていた、表層意識に恐ろしい量の情報が流れて——、正しい認識が出来なくなっていた。
「……お前を討つのは私の役割ではない……」
そうつぶやいた仮面の聖騎士がその手の刃を振るう。
ザク!!
ルクシリアはその一撃で、その片腕を切り飛ばされて血を撒き散らした。
「げあああああああ!!」
ルクシリアは悲鳴を上げてその場から消え去る。そしてそのまま再び現れることはなかった。
「ぐ……」
その状況に【旅の魔法使い】も動く。
その周囲に無数の魔力弾を生み出して、その全てを仮面の聖騎士へと向けて放ったのである。
「……」
だが——、仮面の聖騎士は静かにその手の刃を横薙ぎに振り抜く。
ドン!!
その一撃で全ての魔力弾がかき消えた。
「な?!」
そして【旅の魔法使い】の表情が驚愕に変わる。
それを静かに睨む仮面の聖騎士は、かき消した魔力弾を魔力の奔流へと逆変換して、その刃へと集めていった。
(……あれは!! 【吸精能力】?!)
そして仮面の聖騎士は視線をミラディアへと戻す。
その睨みがミラディアの心すら貫いて——、ミラディアは一歩後退る。
「ユウトさん……リリィさん……」
「え?」「む?」
「……今から彼女の魂を解放します……」
その仮面の聖騎士の言葉に、ユウトとリリィは何かを察して顔を悲しみに歪める。
——やっぱり……。
「……その後の【魔種因子】の暴走は……、お二人にお願いします……」
その仮面の聖騎士の言葉に、二人は悲嘆に暮れながらも確かに頷いた。
(……ミラディア……)
リリィは思う——、……もちろん嫌な予感はあったのだ。
おそらくミラディアは、あのレイレノールと同じく【魔種因子】内の存在によって、記憶改竄と精神支配を受けているのだろう……と一度は考えていた。
でも——真実はそれより残酷だった。言いようのない不安と、予感が的中していた。
——ミラディアはおそらくすでに死んでいるのだ。
どういう経緯で死んだのかはかはわからないが——、その魂をあの【旅の魔法使い】と【魔種因子】内の存在によって利用されているのだ。
だから——、もはやかつての彼女ですらない状態まで性格が変化していたのだ。
(……ミラディア……)
リリィが悲しげに見つめるその前で、仮面の聖騎士はその刃をミラディアに向ける。
ミラディアは苦しいような悲しいような表情に顔を歪めて、仮面の聖騎士を見つめている。
「……ミラディアさん……、今から……」
——解放します……。
「……!!」
ミラディアは彼女に対して言いようのないナニカを感じていた。
そして——、あのルクシリアの精神を停止させた力と、【旅の魔法使い】の魔力弾をかき消した力。
——そして、彼女の現在の姿——。
その意味するものは——。
(……ああ、そうか……)
ミラディアはやっと理解する。
その瞬間にも仮面の聖騎士が、その剣の切っ先を向けて自分へと迫ってくる。
——それは自分では避けられない速度。
(……ああ……)
多分、自分はこのまま終わる——、【無敵】が起動せずに終わる、それがミラディアには理解できた。
そして——
ドス!
その刃がミラディアの胸を貫き通す。たしかに無敵は発動せず、その【魔種因子】まで貫き通してその機能の大半を失わせた。
一瞬、ミラディアはナニカを走馬灯のように見る。そして——、
「……!」
その瞬間、その光景を見守るリリィの耳に誰かのささやき声が聞こえた。
——……リリィ……。
それは——、誰かの……、リリィを想う優しくも悲しい——別れの言葉だった。
◆◇◆
ドン!!
ミラディアの胸を仮面の聖騎士の刃が刺し貫いた瞬間、いきなりその全身から禍々しい魔力の奔流が吹き出し始める。
仮面の聖騎士はそのまま飛び退って——、ユウトとリリィはミラディアの変化を悲しげに見つめた。
ミラディアの全身が、砕けながらも膨張を始める。
無理やりな強化で異形のモンスターと化しつつ——その身が崩壊してゆく。
それは、放っておいても終わるが——、それまでの間に多くの犠牲者を生むつもりのようだった。
——そのミラディアであったものは叫ぶ。
【おのれええええええええええええええええええええええええええ!! きさまあああああああああああああああああああああああああああああ!!】
(こいつ……は……)(……ああやっぱり……)
【よくもおおお……、あのゴミカスの魂を解放してくれたなああああああああ!!】
ユウトとリリィはその怨嗟の声の主が誰なのか理解する。
それは余りにも身勝手な咆哮——、許すことの出来ない言葉。
すでに死んだ魂——、ミラディアを自身の核として、犠牲にして生き足掻きながら……。
そして、無理やりその最後まで利用し尽くしながら……。
——それを解放した……、犠牲者を解放した者に憎悪を向ける。
そんな相手に仮面の聖騎士は——その怒りがわかるほどに絶叫する。
「グラムザグぅううううううううううううう!!」
それをユウトとリリィは眺めながら、そして心のなかで覚悟を決めた。
——救わなければならない……。
——彼女を救わなければならない……。
——これ以上、彼女のその身を、あの外道の自由にさせてはいけない。
仮面の聖騎士がユウトとリリィの方を振り返って、その顔から光の粒を舞い散らせながら訴える。
「……人の命を弄ぶ……あの外道に……、最後の悪あがきに……、引導を!!」
その仮面の聖騎士の心を理解しながら——、
——ユウトとリリィは真剣な表情で答えた。
「……ああ、わかった!」
「任せておくがよい!」
その二人の言葉に、仮面の聖騎士はその道を開ける。
ユウトは太陽剣を手に、リリィはその鈎爪を構えて、そして変貌してしまったミラディアへ向けて走った。
そのミラディアの動きは緩慢だった。避ける素振りすらしなかった。
——だから断ち切るのは容易だった。
「……ミラディア!」
リリィはそう叫びながら鈎爪を振るう。
ユウトは、黙ってリリィの想いを察しながらその手の太陽剣を振るった。
【おのれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!】
そして断末魔の声がその場に響く。
それを見届けた【旅の魔法使い】は舌打ちしつつ転移魔法で姿を消した。
——そして……、ミラディアは塵となって消えていった。
そうしてその夜の戦いは終わったのである。




