第16話:大王都全面戦争と、からりと揚がった大天丼(第3章クライマックス)
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大王都『ネオ・エド』の地下深く。そこに築かれていたのは、きらびやかな魔導灯に彩られた、闇組織の巨大な牙城『魔導地下カジノ・密輸倉庫』であった。
王都中の悪徳商人や買収された役人たちが集い、不当に吸い上げられた金貨が滝のように流れる、まさにこのメガシティの腐敗の心臓部。だが、その華やかなルーレットの回転音の裏には、俺たちを歴史から完全に抹殺せんとする、凄絶な戦力が配置されていた。
「――ううむ。この、敵の本陣の最奥に突入し、王都の運河を血で染めんとするほどの張り詰めた全面戦争の空気。佐伯泰英先生の『新・古着屋総兵衛』で、総兵衛率いる大黒屋の一党が、江戸を裏から支配する巨悪の軍勢と火花を散らす、あの怒涛のクライマックスそのものじゃないか」
俺は黒装束の袖を粋にまくり上げ、いつもの通りボソリと脳内実況を呟いた。
「ツヨシ! お前はこれだけの数の『王都最強の近衛魔導騎士団』に包囲されて、まだその呑気な感想を口にできるのね!?」
カエデが、紫苑から託された最新の暗号メモを握りしめ、涙目で小声で絶叫した。エルフの長い耳は、周囲の通路を埋め尽くす重厚な甲冑の足音を拾って、かつてないほど激しく震えている。
「大黒屋の裏帳簿が白日の下に晒されて、総帥は完全に狂っているわ! 街の全戦力を動員して、私たちをここで『隠蔽』する気よ!」
「カエデ殿の言う通りだ、ツヨシ。これほどの軍勢、まともに正面から当たれば、いかに我らの剣と言えど無事では済まんぞ」
陣内先生も、刀の柄を握る手に凄まじい力を込め、額に汗を滲ませている。
「まあまあ先生、カエデさん、焦っちゃいけねえ。上田秀人先生や今野敏先生の小説の主人公ならね、こういう大決戦の直前こそ、油ギッシュな揚げ物で胃袋に『喝』を入れて、度胸をカチッと据えるもんです。二度漬け禁止、これが江戸前のルールってね!」
俺はニヤリと不敵に笑うと、カジノの厨房から強奪してきた(金貨二枚で料理人を気絶……いや、買収した)巨大な揚げ物用の中華鍋へと、なみなみと特製の植物油を注ぎ込んだ。
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「おい、全面戦争の直前に、なぜ串に肉を刺しているんだ!」
陣内先生がひっくり返った声を出すが、俺の「美食の探求者」としての魂は、ここがクライマックスだからこそ最高潮に滾っていた。
今夜の戦前メシは、大都会の職人たちが愛した、これぞスタミナの爆弾、「特大串カツ」である。
池波正太郎先生は、そのエッセイの中で、油でからりと揚げた肉の魅力について、こう熱く語っておられた。
『大仕事を前にした男の胃袋には、小細工のない油ものが一番いい。熱い油の中でパチパチと音を立てる衣の香ばしさ。それを濃い目のタレにどぶんと浸けて、熱いうちに頬張る。これぞ、弱気になりそうな五臓六腑に凄まじい活力を与える、最高の戦支度である――』
俺が仕込んだのは、道中の市場で格安で手に入れた、身の引き締まった「魔導ブタの腿肉」と、夏野菜のネギ風薬草。これを交互に太い竹串に刺し、卵と小麦粉の衣をくぐらせ、粗挽きのパン粉をこれでもかと塗す。
ガンガンに熱した大鍋の油の中へ、特大の串カツをドカドカと投入した。
――パチパチパチ、ジュワァァァッ!!!!
激しい油の音が地下カジノの厨房に響き渡り、瞬く間に、衣が黄金色に染まっていく。ココノエ醤油と異世界ウスター風果実蜜を合わせた、秘伝の濃い目ソースの甘辛い匂いが、通路の奥へと広がっていった。
「さあ、能書きはいい、まずは食って腹を据えな!」
俺は揚げたての、煙が立つほど熱々の串カツを掴むと、ソースにドブ浸けして豪快にガブリとやった。
――ザクゥッ、ジュワァァァッ……!
「っ……!!!!」
美味い、美味すぎる! 脳内で池波先生が「うむ、この油のキレ、大決戦の前にはこれだな」と深く満足げに頷く幻影がはっきりと見える。
ガリガリとした小気味よい衣を破った瞬間、魔導ブタの濃厚な肉汁が、口の中で文字通り「爆発」した。ウスター風ソースのキリッとした酸味とココノエ醤油のコクが、肉の野生味を極限まで引き立てている。
「……美味い! 身体の芯から、恐怖を撥ね退けるような活力がみなぎるぞ!」
陣内先生が、汗を流しながら特大串カツを二本同時に掴み、猛烈な勢いで頬張り始めた。カエデも、最初は「重たいわよ!」と怒っていたが、一口齧った瞬間にフリーズし、「――っ!? このサクサク感、悪魔的だわ……!」と、口の周りをソースだらけにして comical に夢中で貪っていた。
「よし、完璧に腹は据わった。カエデさん、先生、王都最強の騎士団とやらを、からりと揚げてやりましょうや!」
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「――そこまでだ、闇の総帥の旦那」
地下カジノの最奥、巨大な金貨の山と漆黒の魔導大扉がそびえ立つ『総帥の間』。
俺たちは満腹の状態で、扉をバァァァン!!!と勢いよく蹴り開けた。
室内の奥には、不気味に発光する漆黒の魔導刀を構え、王都のすべての富を独占せんとする闇組織の総帥が冷酷な笑みを浮かべていた。そしてその周囲を、王都最強を誇る、全身を重装甲の魔導鎧で固めた「近衛魔導騎士団」の五十人近くが、完全に壁を作って固めている。
「よくぞここまで来た、脱藩浪人のツヨシ。だが、我が王都の利権構造は不滅だ。総員、一斉に突撃せよ! 跡形もなく隠蔽(圧殺)してくれよう!」
総帥が剣を掲げた瞬間、五十人の近衛騎士たちが、激しい魔力の地響きを立てて一斉に俺たちへ襲いかかってきた。今野敏先生の作品なら、圧倒的な数の暴力に包囲される、息詰まる全面戦争のクライマックス空間だ。
「おいおいお前ら、せっかく串カツで腹の底まで度胸が据わったんだ。その野暮な鉄臭さで、俺の最高の余韻を汚さないでくれよ」
俺は、白銀の騎士たちの突進に対し、眠るが如き無形の構えのまま、ふらりと前へ踏み込んだ。
右手はすでに、腰の魔導刀の柄にかけられている。
(「居眠り磐音は、向かってくる白銀の嵐に対し、春の陽だまりにいるような脱力のまま、神速の居合いを一閃した――」)
脳内の磐音モードと、これまでの旅で極限まで洗練されたチート能力が、完璧にシンクロする。
――ギィィィィィンッッッ!!!!
地下空間を白昼の如く照らし出す、淒絶な白刃の閃光。
俺は彼らの肉体を斬ったのではない。チート能力によって視界に明確に見えていた、五十人分の重装甲甲冑の「関節の魔力接続コード(継ぎ目)」だけを、一瞬のうちに全て正確に刀の「峰(背の部分)」でパシィン、パシィンと叩き切ったのだ。
「な、何っ!? 我らの甲冑の魔力駆動が、全て止まった……!?」
関節を完璧に峰打ちされ、システムを強制終了させられた五十人の騎士たちは、重い鎧の重量に耐えかねて、 comical にも次々とその場にドスン、ドスンとドミノ倒しの如く崩れ落ち、完璧に身動きが取れなくなった。
「ば、馬鹿な!? 我が誇る最強の騎士団が、一瞬で……!」
驚愕に顔を歪める総帥が、自ら漆黒の魔導刀を振りかざし、狂ったような神速の太刀打ちで俺の首をめがけて斬りかかってくる。
だが、その太刀筋は、今野敏先生や堂場瞬一先生の小説に登場するプロの鑑識官の目には、あまりに感情に流された、隙だらけの動きに過ぎなかった。
俺は最小限の動きで総帥の刃を紙一枚の差でかわすと、刀を翻し、完璧なタイミングで総帥の手首を、刀の「鞘」でパシィン!と鋭く叩いた。
「ウグッ!?」
漆黒の魔導刀が手から離れ、宙を舞って床に突き刺さる。そのまま俺は、相手の懐に飛び込むと、刀の「柄頭」で、総帥の眉間を正確にゴンッ!と一突きした。
「ガハッ!?」
脳震盪を起こした総帥が、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。
これにて、大王都『ネオ・エド』を裏から牛耳っていた巨大な闇の組織は、完璧に、合理的に一刀両断にされたのだった。
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すべての戦いが終わり、闇組織の資産と裏帳簿は、紫苑の手によって王都の正当な役所へと引き渡された。大都会の利権構造は完全に崩壊し、下町には安価な米と薬が戻り、本当の活気あふれる江戸の風景が戻ってきたのだ。
翌朝、俺たちは長屋の三畳一間に戻り、運河の向こうから昇る、まばゆいばかりの朝日を眺めていた。
これにて、第3章【大都会・王都潜入編】は大団円である。
「ふう。やっぱり、大仕事を終えた後の朝日は格別だねぇ。だが先生、カエデさん。全面戦争の最高のフィナーレには、やはりこれがなきゃ締まらないだろ?」
俺は厨房に残しておいた、昨夜の串カツの極上油を使い、最後の仕上げに入った。
仕込んできたのは、運河で獲れた大ぶりの魔導アサリの天ぷら、そして夏野菜。これを、ココノエ醤油とみりんをじっくり煮詰めた、甘辛い「秘伝のタレ」にくぐらせる。
炊きたての爆裂米の白飯の上に、それをドカンと乗せた。
これぞ、江戸前の真骨頂――「からりと揚がった、特大江戸前天丼」だ。
箸でとろとろのタレが染みた天ぷらを、ご飯ごと豪快に口の中へかき込む。
――ザクゥッ、ズズズッ!!!!
「――っ!!!! 染みる、美味すぎる……!」
濃厚なタレの甘辛さと、魔導アサリの凝縮された磯の旨味、そして衣の香ばしさが一体となり、大都会の闇を払い終えた五臓六腑に、凄まじい幸福感と活力を与えてくれる。
「ふむ……大都会編の幕引きには、この濃厚な大天丼がよく似合う。よし、これにて王都の悪党どもも完全に一掃だ。俺の浪人スローライフと、美味いものの勝利だな!」
熱い天丼を一気にかき込み、俺はぷはぁと満足げに息を吐いた。
しかし、その時、部屋の障子が静かに開き、元くノ一太夫の紫苑が、何やら神妙な面持ちで手紙を携えて入ってきた。
「ツヨシ殿、おめでたいところを悪いがね……。総帥の隠し金庫の奥から、さらなる『異世界の果て』にある、神々が住まうという伝説の聖地からの密書が見つかったよ。そこには、世界を根本から覆す巨大な陰謀と……そして、この世の全ての食材を超越した『究極の神の食材』の存在が記されているよ」
俺の「時代小説マニア脳」が、これを聞いてニヤリと不敵に笑った。
「なるほどねぇ。大都会の巨悪を倒した後は、いよいよ世界を股に掛けた『最終決戦・世界救済編』へとスケールアップしていくのが、長編時代小説の黄金パターンってやつよ。俺の異世界浪人スローライフと美食の旅は、どうやらまだまだ終わらせてくれないらしいな」
俺は畳の上から勢いよく跳ね起き、腰の魔導刀をポンと叩いた。
「さあ、カエデさん、先生、そして紫苑の旦那! 王都の闇は払った。次はその『神の食材』とやらを美味いもので釣るか、それともこの魔導刀で一刀両断にするかだな!」
「また新しい旅に行く気か!」
カエデの小気味よい突っ込みが響き、擦り切れた三畳一間に comical な笑い声が弾けた。
昇る朝日に照らされながら、俺たちの、粋で、 comical で、最高に美味い【浪人スローライフ大活劇】は、いよいよ世界を揺るがす次なる未知の舞台へと、最高の足取りで突き進んでいくのだった。
(第3章・大王都全面戦争編 堂々完結! 次話、最終章・世界救済グルメ編スタート!)




