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星の子2-とある青年の黙示録-  作者: あじのこ


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62話 取引

「これからお前達のしようとしていることを当ててやろうか?いや、面倒だな……殺しちまうか」

「オイ、伸一郎!冗談も過ぎるぞ。暑すぎておかしくなっちまったのか?」


「おかしいのはお前達ニンゲンの方じゃないか。なぜオレ達の邪魔をするんだ?せめてお前達が大人しくしていればとっくに……」

「……?なにを言っているんだ?」

「いや、いい。」


「お前、伸一郎からオグチと呼ばれていたな……オグチ。オレと取引をしようじゃないか」

「取引……?」


「実を言うと困っていだんだ。この肉体……伸一郎は気がついたらいけないことに気がついちまってね。それでオレの仕事が滞ってるんだ」

「なんだその気がついたらいけないって……」

「実はコイツ。伸一郎は人を殺しているんだ。歳は……10歳前後だったかなぁ」

「オイ、ふざけるのもいい加減に……」

「調べたら分かる。◯◯郡△△町◎◎大字1-1で以前は雑木林のあるところで変死体が見つかっているはずだ。最も、見つかった時にはすでに腐っていて少し新聞を賑わせただけだけどな」


あまりにも具体的な地名に尾口はハンドルを握る指が強張るのを感じた。


「それに……オレがニンゲンの恐る怪人様だと解らせるにはこの場でお前を殺してもいいんだが、ニンゲンは殺したらお仕舞いだろう。それが不便だよなぁ」

「本気で言っているのか?」

「オレはずっと本気だよ。お前の肉体がどんなに強かろうが、そんなことはオレ(怪人)の前では無意味なんだ」


後部座席の伸一郎の顔をした得体の知れない男がニヤリと嗤った。片頬を釣り上げる独特の笑い方に伸一郎ではないとようやく悟った。


「なぜ……お前達怪人はそうやって人間を殺そうとするんだ」

「仕方ないじゃないか。オレだって暴力には極力頼りたくない。でも、ニンゲンは力の差を見せつけないと理解できないし、従えない生き物なんだろう」


いや、違う。


尾口は喉まででかかった言葉を必死で飲み込んだ。本当に伸一郎は怪人なのだろうか。先ほどまで後部座席で青い顔をしていた後輩は傲岸不遜な態度でこちらを見ている。


本当に“怪人”だとしたら……。


尾口はハンドルを持つ指に力を込めた。


「お前達は……殺すことを楽しんでいるように見える」

「オレ達が?お前らを?」

「そうだ。あの東京大災害で、一体何人死んだと思っている……!」


きょとんとした顔で伸一郎の顔をした男……ケイはバックミラーに映る尾口を見返した。そうして一拍置いてから肩を震わせて盛大に笑った。


「あはは!あ〜なるほどね。伸一郎もオヤというのを無くしてからずいぶん泣いていたようだけど……アレはなんていうか、偶発的な事故みたいなもんなんだよなあ。うん」

「……偶発的な事故?」

「そう」


後部座席の男は飽きてきたのか自分の指先を見つめ始めた。


「というか、そもそもその“東京大災害”ってやつにオレは関わってないんだ。お前の大事な誰かが死んでいようがなんだろうが……その件についてオレ個人の関わりはないんだよ」

「そんなことで責任逃れできると思っているのか!?」

「別に責任逃れとかではなくて……オレ達“怪人”には横の繋がりというものが“存在”していないんだ」

「どういうことだ……?」

「ニンゲン側はオレ達怪人が徒党を組んで殺戮を楽しんでいるように見えるようだが、そうなものは存在しないし、組み込まれていない」

「組み……?」

「オレ達怪人はある目的のためにこの星にやってきた。そう言えば分かるのか?」

「目的って……」


「知りたくなったかィ?」


青白い顔をした伸一郎の顔が対向車線のライトに照らされて怪しく輝いた。飢えた獣を思わせるギラギラとした瞳に尾口は下唇を噛み締めてからコクリと頷いた。


ふざけるな、と即座に言いたかった。だが、コイツは明らかに普通じゃない。

後部座席にいるのは、俺が知っている後輩・伸一郎じゃない。


“何か”が伸一郎の皮をかぶって、俺に話しかけている。


そして、こいつは知りすぎている。


「……藤原雪?」


その名前を口にした瞬間、ケイは薄く笑った。


「あぁ、知ってたか?」


「名前だけはな」


少し前から、一部の筋では噂になっていた。異常な現象の陰に、たびたびその名前が囁かれている。超常的な力を持つ“何か”が、東京を中心に活動している……と。


魔法少女なんて、バカバカしい単語だが、現実にこうして怪人とやらが目の前にいるのなら、それが存在していても不思議じゃないのかもしれない。


「信じられねぇって顔だな」


ケイは、指をコキリと鳴らしながら言う。


「でもな、オグチ。オレはあの女を止めなきゃいけないんだ。あいつが本気を出せば、この世界は終わる」


世界が終わる。


それがどこまで誇張なのかはわからない。だが、ケイの言葉には真実味があった。


「だからオレは、お前を殺す気はないし、むしろ助けてやることもできる。オレはニンゲンの知らねえことを色々知ってるしな」


「……その“知らねえこと”ってのは?」


「藤原雪の目的。そして、オレ達“怪人”の正体……」


「怪人の正体?」


「お前らニンゲンが思ってるような、単純な“化け物”じゃねえって話だよ」


ケイは楽しそうに笑ったが、その目はどこか飢えていた。


「どうする?取引に乗るか?」


尾口はハンドルを握る指に、じっと力を込めた。


「……」


尾口は何も言えなかった。

ハンドルを握る手に汗が滲む。


知りたい。


知ってしまえば、戻れなくなる気もする。

バックミラーの向こうで、伸一郎の顔をした怪物が笑う。


「……ああ、いい顔だ」


ケイは楽しそうに目を細めた。


「その顔、好きだぜ」

「何を――」

「知りたくなったんだろ?」


少し笑う。


「なら取引成立だ」


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