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星の子2-とある青年の黙示録-  作者: あじのこ


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57話 人を殺した

オレを、お前の中に入れてくれるカィ?


再び、その声が伸一郎の意識の奥に響いた。

遠くから聞こえてくるようでいて、不気味なくらい近い。耳で聞いているわけじゃない。


もっと深い場所へ、直接流し込まれてくるような声だった。


(オレを、お前の中に入れてくれるカィ?)


冷たい声だった。


けれど、その言葉には妙な甘さがあった。


(そうすれば……その子を助けてやれるンダ)


伸一郎の視界はぼやけていた。

身体は重く、息をするだけでも痛い。

けれど、その言葉だけは妙にはっきり聞こえた。


助けられる。


雪を。


今、自分にできることがある。


「……本当、だな」


掠れた声が漏れた。


震えていた。


けれど、その迷いは長く続かなかった。


何を失ってもいい。


何を奪われてもいい。


ただ、雪だけは。


“アア。本当ダ”


声が、笑った気がした。


(約束しよう。……これは契約なんダ)


「……なんでもいい……」


喉が焼けるように痛い。


「助けて……雪を……雪を助けてくれ……!」


その瞬間だった。


何かが入り込んできた。


冷たい。


なのに、熱い。


氷の塊を無理やり喉へ押し込まれたような感覚。


異物が、身体の奥を這い回る。


()()()()ダ”


声が響く。


“さア――お前の願いを叶えてやろウ”


世界が反転した。


落ちる。


深い水の底へ沈んでいくみたいに、意識が遠ざかる。


手が動く。


違う。


自分じゃない。


身体が、勝手に動いていた。


赤いものが見えた。


何かが、弾けた。


男が何か言った気がする。


けれど、聞こえなかった。


鉄みたいな匂いが鼻を突く。


温かい飛沫が頬にかかった。


何かが倒れる音がした。


それから――静寂。


しん、と。


世界から音が消えた。


伸一郎は、自分の手を見た。


赤かった。


指先を伝った雫が、ぽたり、ぽたりと落ちていく。


「……あ」


喉が震える。


何が起きたのか、理解したくなかった。


理解した瞬間、終わってしまう気がした。


「……しん……いちろう……?」


掠れた声がした。


振り向く。


雪が立っていた。


その大きな瞳が、震えていた。


「……大丈夫……?」


その声が、ひどく遠かった。


違う。


違う。


違う。


頭の奥で何かが軋む。


けれど――


“……アア”


声が笑う。


“これは、大変なことをしてしまったナァ”


その瞬間、伸一郎は理解してしまった。


手のひらに残る、生暖かさ。


鼻にこびりついた鉄の臭い。


自分は――人を、殺した。

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