11.母との思い出
ある日の夕方、麗は病室の窓辺に座っていた。淡い夕焼けが窓ガラスに映り、部屋全体を柔らかいオレンジ色に染めていた。彼女は手元に赤いあやとりの紐を握りしめ、心の中の寂しさを埋めるように指を動かし始めた。
(また、寂しくなってしまった。お父さん、母さん、今どこにいるのかな…)
あやとりは彼女にとって、単なる遊び道具ではなく、失踪した母親との繋がりだった。母親が最後に麗に手渡したものであり、その赤い紐はいつも麗のポケットに入っていた。
「麗ちゃん、またあやとりしてるのね」と、看護婦の由美が優しく声をかけた。
「うん、これをしていると、少しだけ安心できるんだ」と麗は答えた。
「それは大切なものなんだね」と由美は微笑みながら、麗の側に座った。
「母さんがくれたんだ。いつもこれを持っていると、母さんが近くにいる気がして…」麗は紐を器用に操りながら、遠い目をして話した。
「それは素敵な思い出だね。お母さんもきっと麗ちゃんを誇りに思ってるよ」と由美は言いながら、麗の手元を見守った。
「ありがとう、由美さん。でも、本当はもっと強くなりたいんだ。母さんに誇ってもらえるように」と麗は決意を込めて言った。
その言葉に由美はうなずき、「大丈夫、麗ちゃんはもう十分強いよ。でも、まだまだこれからもっと強くなれる」と励ました。
その日から、麗は入院中の時間を使って、あやとりの技術をさらに磨いていった。彼女はあやとりを通じて、母親との絆を再確認し、自分の内なる強さを見つけていった。
(この赤い紐が、私の心の支えになる。どんなに辛い時でも、私はこれを手放さない)
麗の心の中に、母親の温もりがほんのりと感じられる瞬間だった。
その日の夜、麗は夢の中で母との幼少期の思い出を蘇らせるのであった。
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幼少期の私は、あまり強くなかった。ちょっとしたことで泣いてしまうような、繊細な子供だった。ある日のこと、幼稚園で遊んでいた時に転んで膝を擦りむいてしまった。涙が溢れ出し、痛みと恐怖でどうしようもなくなった。
家に帰ると、母親が心配そうな顔で駆け寄ってきた。「麗、大丈夫?どこが痛いの?」と優しく問いかけてくれた。私は泣きながら、「膝が痛い」と答えた。母は私を抱きしめ、「大丈夫、大丈夫」と何度も繰り返し、傷口を丁寧に手当てしてくれた。
その時、母は私の手を握りながら、こう言った。「麗の麗は、綺麗の麗。麗はいつも綺麗で輝いているんだよ。どんなに辛いことがあっても、君はその美しさを失わないんだからね。」その言葉は、子供心に深く響いた。母の温かい手と、優しい声が、痛みを和らげてくれた。
今の私は、精神的にも肉体的にも過酷な日々を送っていた。病院のベッドに横たわり、闘病生活の中で何度も心が折れそうになった。未来が見えず、希望も持てなくなりそうな時もあった。
幼い頃、膝を擦りむいて泣いていた私を励ましてくれた母の姿。母の温かい手の感触、優しい声が鮮明に蘇った。「麗の麗は、綺麗の麗。どんなに辛いことがあっても、その美しさを失わないんだからね。」母の言葉が、夢の中で何度も繰り返された。
目が覚めると、涙が頬を伝っていた。母の言葉が、私の心の支えとなっていたことを再確認した。どんなに辛い状況でも、自分の中にある「綺麗」を忘れずに生きること。それが、母が私に教えてくれた大切な教訓だった。
その日から、私は母の言葉を胸に刻み、少しずつ前を向く力を取り戻していった。闘病生活は続くけれど、母の励ましの言葉が私を支えてくれる限り、私はきっと乗り越えていけると信じられるようになった。




