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手の平の上

「リーナ、貴方が行方不明になると大事になるからそろそろ教室の方に戻った方がいいわ」


「え?でも‥‥‥わかった。 落ち着いたら後で顛末を聞かせてね」

 一旦は渋ったが、私の表情や周りの状況を見て何かを察してくれた様で素直に校舎の方へと戻って行く。その彼女を見送っていると、殿下達が寄って来てお礼を述べて来た。


「助かったよ、うっすらと意識はあってもどうする事も出来ないもどかしさに気がおかしくなりそうだった。あのリーナという子には怖い思いをさせてしまった様で、後で正式に謝罪をしておかないといけないな」


「その方が誤解がなくて良いかも知れません。何しろ無表情で採血器具を持って迫って来るんですから」


「それは言わないでくれ」

 はにかむ表情で照れている殿下の姿を見るのもたかだか二日程度なのに久々に感じていた。そして同じ様に倒れていたダフニスも起き上がり、私に声を掛けて来る。


「ペルディータ君、今回は助けられた。礼を言わせてもらうよ」


「あの人、ダフニス君の彼女だと思っていたんだけど違うようね」


「よしてくれ、確かに前は仕事で協力関係にはあったが、仕事が終わればこの通り手ごろな実験台にされたってわけだ。情けない事にね」

 自嘲する様に乾いた笑いにはいつもの自信家である彼のプライドは結構ダメージを受けている様で少し痛々しかったが、得体の知れなかった彼の本当の姿を少し垣間見た気がした。


 どちらにしても目的が何であれあの魔女がリンドウ様の元に送られたという事はしばらく学園には平穏が戻ったと考えてよいのかも知れない。多少ふらついてはいたが、しっかりとした足取りで校舎に戻って行くダフニス君を見送ってると、サージ君もやって来て頭を下げて来る。


「ペル様、本当に助かりました。有難うございます」


「慎重なサージ君までやられると思ってなかったから、今回は大変だったわ。まあ、メティが一番クラスをまとめて頑張っていたんで彼女にもお礼を言っておいた方がいいかもね」


「そうですね、メティス様やクラスの皆さんには大分ご迷惑をかけてしまった様ですから後程改めて謝罪をする事にします。それと、レイ様ですが…」


「わかってる。しばらく一人にしておいた方が良いとは思うけど、一応様子は見てあげて」


「勿論です。それでは私は殿下を送っていきます」

 再びペコリと頭を下げ、座り込んでいた殿下に肩を貸しながら救護室に向かう二人を見送り、気が抜けてしまった様で私はその場に座り込んでしまった。


「お嬢様、背中の治療をしますのでしばらく安静にしていてください」

「ん~よしなに」

 ポーションを使ったとしても、精神力だけは薬で治す事が出来ない為にネコマルさんに抱き抱えられると同時に(まぶた)が重くなり、睡魔に誘なわれる様に深い眠りについた。




◇◇◇




――ガラガラガラガラ


「痛つつつ」

 首筋を押えながらカルメは目を覚ました。周りを見渡すと、いくつもの木箱を積んであるくたびれた幌馬車の中だという事に気が付いた。


「む、起きたか」

 声のする方を見ると、例のドラゴニュートの男が御者のまねごとをしながら起き上がったカルメの方をチラリと見てから視線を前へと戻す。


「やれやれ、さすが竜族の尻尾というかあの一発で意識が吹っ飛んだわ」


「ハッハッハッハ、稀代の天才魔女も形無しだな」


「ふん、この付けは高いわよ。悪の魔女がお姫様の仲間をピンチに陥れ、そこへ正義のお姫様とその従者が助けに入って悪の野望を打ち砕くというくだらない三文芝居に体を張ったんだから」


「名演技だったな。リンドウ様もクロノス家に貸を作って、俺も誘拐事件をチャラに出来たしお前さんも死亡した事で存在自体を消せるってもんだ」


「ま、そうね。これでわたしが死んだ事になれば、ようやく一族との腐れ縁も切れてこれまでのしがらみがなくなれば自分の思いのまま魔法実験に人生を掛ける事が出来るわ」

 カルメはポケットから小さな赤い液体の入った小瓶を目の前に掲げてウットリしながら眺めてる瞳の奥は狂気に満ちていた。


「やれやれ、魔女ってやつはどいつもこいつも倫理観ってもんがねえな」


「そんなもので欲望は満たされないわよ、それにわたしの体に穴を開けたあんたにだけは言われたくないわね」

 肩を竦めながら幌の布に体を預けて、微笑みながら再び小瓶を眺めるカルメを横目に男は呆れた様な溜息をつきながら手綱を叩き、幌馬車は一路ガルタネの森へと走ってゆく。




◇◇◇




 目が覚めると私は自分の部屋のベッドに入っていた。周りを見渡せば、すでに外は暗くなっておりサイドテーブルに目をやると小さな籠と手紙が添えられていた。


〈起きたらちゃんと食事をする様に!それから籠の下に預かった手紙があるから読んでおいてね。――ロザリア〉


 籠の上に掛けられた布を取ると中にはサンドイッチが入っていてさらに手紙の通り籠の下に手紙が挟まっている。手紙の主はレイの様で、サンドイッチを摘まみながら中を確認すると夜中に食堂の外にあるテラスに来て欲しい旨が書いてあった。


「改まってなんだろ?やっぱり刺してしまった事を気にしてるのかな」


 そんな事を思いながら最後の欠片を口の中へと放り込むと同時に、ロザリアがドアを開けて戻って来たのを見て、咄嗟に手紙をベッドの下へと隠した。


バタン!


「ただいま~ってペル起きてちゃんとご飯食べてるね。あたしはもうお風呂に入って来たからペルも食べ終わったなら行った方がいいよ」


「ええ、わかったわ。差し入れありがとうね」


「いえいえ、その分夕食のお肉を頂きましたから」


「ちゃっかりしてるわね」

 彼女に促されながら寝間着の用意をして大浴場へと足を運び、湯船の中で今日の午後は色々あった事を思い出していた。それに加え、あえて何も聞かずに普段通りに接してくれるロザリーには本当に感謝しかないなと思う。


 その後、消灯時間を迎え皆が寝静まった頃に私は静かにベッドから抜け出しロザリーがぐっすりと寝静まったのを確認すると、静かにベランダの窓から外に出ておもむろに指輪を外し羽根を使って三階から下へとゆっくり降りて行く。


(たしか、外のテラスだったかな?)


 芝生に降り立ち、改めてレイからの手紙の中身を確認し待ち合わせ場所に指定されている食堂の外テラスへ向けて小走りに走り始めると廊下の先に小さな揺れる光が近づいて来るのが見え、足を止め物陰に隠れてその灯りの人物が通り過ぎるのをジッと待った。


 コツコツと近づくその人物をよく見れば、校内巡回をしている寮母さんの一人で、定期的にこの辺りを巡回している様だ。となればこんな寝間着姿でウロウロしているのが見つかったりすればカルデナ寮母から地獄の説教フルセットを受ける可能性は大きい。

 そんな恐ろしい想像を頭に思い浮かべながら息を殺し通り過ぎるのをジッと見守って、巡回している寮母が廊下の角を曲がり切ったタイミングで再び裸足で廊下をペタペタと食堂へと走り抜けて行く。


 周りを気にしながら辿り着いた食堂ホールの建物を迂回し、裏手へ回ると外テラスに到着した。しかし、レイはまだ到着していない様で、椅子が上げられたテーブルの周りをぐるりと回っているとテラスを囲む薄暗い垣根の隙間から声がかかり、振り向くとレイが隙間から顔を出して手招きをしていた。


「ペルちゃん、こっちこっち」


「??なんでそんなところに」


「後ろにも巡回は来るからね。あ、バラの棘に気を付けて」


「うん」

 差し出された彼の手を取り、垣根の裏へと回ると木々との間に小さい空間が出来ていてそこへ二人で座り込む。


 機能の騒動以来、レイの顔を見たが大分落ち着いたのか普段通りの表情に戻っている様で安心していると、彼は唐突に頭を下げて来る。

「昨日は本当に申し訳なかった!」


「え?どうしたの急に」

 地面に頭を付ける勢いで謝罪をして来るレイに対して私は困惑の色は隠せなかった。






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