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新学期


 結局、引き受けざるを得なかった。高圧的でもあったけど、彼女の第一王子への情熱に押されたような感じだ。私から見れば、婚約者がいるのにも関わらず他の女性へフラフラ興味を示す様な殿方は願い下げだが、それでも彼女はロイールを好きなのだろう。


 そう思って引き受けてしまったのだが‥‥‥


――翌日


「え?ペル子さん、そんな約束しちゃったの?」

 新学期を明日に控え、夜に寮へと戻って来たロザリーが私の話を聞き開口一番呆れたような口ぶりでそんな事を言って来た。


「ん~まあ、しつこかったしそこまでロイール殿下の浮気を気にしてるなら人物像を教える位良いかなと思って…ねえ」


「あまり陰口は言いたくはないけど、アーカンソ侯爵家はロイール殿下の婚約者の地位をありとあらゆる策を巡らせて勝ち取った野心バリバリの家系でプリメラ嬢も父親に似てかなりのやり手だって聞いてるわ。だから愛するロイール様っていうより、婚約者という立場を危うくする危険な人物とみてるんじゃないかしら」


「なるほど、まあどちらにしても新聖女に関しては彼女に依頼がなくとも知りたいのは本当だし、あなたもでしょ?」


「まあねえ」


 苦笑いしながらベッドに寝転がるロザリーを横目に、改めて考えてみると、プリメラ嬢の依頼を受けた事は良い方向に転がるのではないかとも思った。教団に連なる新聖女の動向を調べるのに合わせて、第一王子派と呼ばれる連中の動向もプリメラ嬢を通して知ることが出来るかもしれない。



――カリカリカリ


 音がした方を見ると、猫の使い魔アンテが窓枠を片足で引っ掻いている音だった。


「アンテちゃ~ん!!」

 私が動くよりも先にロザリーは窓にすっ飛んで行き、窓を開けると入って来たアンテを抱きしめて撫でまわし始めていた。


《――お嬢様、本国からご連絡事項です》


《はいはい、このやり取りも久々ね》


《――そうですね。その話はひとまず置いといて、旦那様からの伝言です。ジルベール殿下に関しての調査報告については、大きな動きがなければ不要との事です》


《まあ、本人とも会って会見もしたからって事かな》


《――そうですね。それと代わりと言っては何ですが、新たな聖女に関しての報告が欲しいそうです》


《ですよねえ、マージナル国王から書簡が行っていると思うからそういう話が来るとは思ってた》


《――ロザリアさんの様な方だと良いのですが、取り合えずその聖女と周りの者達の動向も気になりますしね》

 アンテと遊んでるロザリーを見て、この位普通の子でいてくれたら良いのだけど、会長の態度を見る限り期待は出来そうにない。


《うん、まあ了解したとお父様に伝えておいて》


《――はい。それでは無理をなさらずに、何か手に負えない事がありましたらわたくしの方へ連絡をお願いします。以上です》


 ネコマルさんとの定期連絡が終わると、いつもの様にアンテは煙の様に消えて行った。


「あ~あ、あたしも猫飼いたいな」


「普通の猫を飼うと色々面倒が増えて大変よ?それにペット禁止でしょ」


「そうだけどさ、アンテちゃんみたいな猫だったら大人しいし欲しいなあ」


「たぶん落ちとしては寮母様に見つかって、没収と廊下で正座一時間&説教がセットで頂けるわね」


「そんなセットいやだぁ~」

 そうロザリーが声を上げた瞬間、”ドンドン”とドアが叩かれ寮母の声が響く。


「消灯時間は過ぎてますよ!」

「「はい!すみません」」


 慌ててランプを消してベッドへ入り込み二人で顔を見合わせ苦笑するのだった。



◇◇◇



「ふぁ~ねむい…」


「今日から新学期なんだからしっかりなさい」

 講堂へ向かう道すがら、眠そうにノロノロ歩いているロザリーの背中を押しながら移動をしていると、後ろから見知った声に呼ばれる。


「ペルさん、ロザリーさん御機嫌よう」

 振り向くとメティス侯爵令嬢がルシオネ、カーリーの両子爵令嬢を引き連れながら声を掛けて来た。


「あ、メティそれにルシオネさんにカーリーさん、御機嫌よう」

 そう挨拶をすると、ボーっとしてたロザリーも慌てて挨拶をする姿にメティは困った笑顔で挨拶を返してくれる。


「そう言えばお聞きしましたよ、レイさんと婚約したとか」


「ええまあ、一応正式に書面を交換した程度には」


「ふふ、貴方らしい回答ね。でもまあそれで急に学園生活が変わる訳でもないのも事実だし、取り合えずご婚約おめでとうと言っておくわね」


「ありがとうございます。それより私的には聖女に関しての方が気になりますね」


「まったく、どういうつもりなのかいつの間にか認定式なんて馬鹿にしてますわ。そもそもそういう大事な行事については事前に予定日を決めておけばこちらだってスケジュールを調整したのに…」


 メティスの憤りは最もだとも思う。彼女の家も会長の言っていた不在の侯爵家に含まれていたのだろう。表向きは職員による書類ミスとなっているが、第一王子派貴族の大部分が出席している時点でお察しだろう。

 彼女の愚痴を聞きつつ全校生徒が集まる講堂に入り、しばらくは学園長の要点を得た短い話と副学園長の意味の分かりづらい長話を欠伸を噛み殺しながら聞いていた。

 ようやく学校側の新学期挨拶などが終わり、生徒会による生徒総会が始まる頃には隣に座るロザリーが完全に寝落ちしていた。生徒会長が舞台に現れいよいよ聖女が紹介されるのかと待っていると、舞台裏が慌ただしくなり副会長のリーサさんが行ったり来たりしているのが見える。

 何事かと思って見守っていると、会長が改めて壇上に立ち皆に告げた。


「え~、本来はこの学園に編入するリーナ・フルーダさんをご紹介するはずでしたが、体調不良により後日改めてご紹介をします。彼女は一年の一組に編入しますので同級生になる一年生及び、上級生の皆さんも彼女が困っていたら手を差し伸べて頂けると幸いです。以上生徒会からの連絡でした」


 ロザリーとは違う聖女が舞台に上がると聞いていた生徒たちはしばらくザワザワとしていたが、その後の集会は聖女の紹介を除けば滞りなく行われ、皆それぞれの教室へと帰って行く。


ぎゅう~


「いひゃひゃ、いひゃい」


「はいはい、何時まで寝てるの?生徒集会はお終いだから教室に戻るわよ」

 ロザリーの頬をつねって夢の中から揺り起こすと、まだ眠そうな顔をしながらやっと起きた彼女の手を引く。


「ねえペル、聖女ってどんなやつだった?」


「さあ?見てないからわからないわ」


「え?紹介されたんじゃ?」

 頭に?を浮かべてる彼女に事の経緯を話すと妙に納得したような顔をする。聞けば自分と同じで聖女である事を隠しておきたかったんではないかとロザリーは考えている様だったが、私としてはリーナというまだ見ぬ聖女に対して疑念を感じていた。

 そんな事を考えながら教室へ向かってる最中、ロザリーが背中をトントンと叩いて来る。


「何?」


「あのさあ、さっき講堂でレイさん達を見なかったんだけどペルは見た?」


 言われてみれば聖女の事ばかりを考えていて気が付いていなかった。メティの方を見ると彼女も見ていないのか頭を横に振るばかりだったが、ルシオネさんが声を掛けて来た。


「あの、ジルベール殿下とレイ様達は一番後ろの席に座っていたのを見たのですが、集会が終わった時には姿が確認できませんでした」

「あ、それならわたくしも見ましたわ。終わった途端、救護室のある方へ御三方が走って行くのを見ました」


「そうなんだ、まあお休みってわけではないのね」

 カーリーさんも補足する様に情報を付け足してくれたが何故一番後ろに居たのか分からないが、救護室の方に慌てて向かって行ったという事は誰か知り合いでも怪我をしたのだろうか?


 もっとも、向かったというだけで救護室に入ったという確証はないが、何故か妙な胸騒ぎがする。







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